頭にちゅー まるっとしてて何かかわいーなーと思ったから、つい。
朝の支度をして臼井は寮の自室を出た。あくびをしながら廊下を歩く犬童に挨拶をする。眠そうな犬童の足取りは重い。臼井は邪魔だなと思い、追い越して食堂へ先に行こうと犬童の前に出た。すると、犬童は臼井の肩に手を置いた。何事かと足を止めた臼井に構わず犬童は、そのまま臼井の頭頂部にキスをした。
は?
そして犬童はまるっとしてて可愛いから云々と言い訳をした。人が時間をかけて整えた髪に何をするんだ、誰かに見られていたらどうするんだ、不衛生だと思わないのか、可愛いからキスするってのは痴漢の言い分に等しいんだが、わかっているのか。
臼井はそうやって犬童を詰った。前者二つに関しては悪かったって、ととてつもなく軽い謝罪を犬童は述べた。後者については、口ん中のがやばそうじゃね、可愛い恋人へのスキンシップを痴漢呼ばわりすんなよ、と悪びれなく笑ったので臼井は脛を蹴っ飛ばしてやった。
最近は二人のタイミングが合わなかったのでホテルに行くのは久しぶりだった。そのせいか、いつもより犬童はしつこかった。いい加減にしろと臼井が腕を抓っても、犬童を喜ばせるだけだったのが臼井には本当に憎らしかった。
臼井にとって忌々しいことに、髪にも精液が付着していた。備え付けのシャンプーで念入りに洗う。しっかりと泡立てているうち、臼井はさっきのことを思いだした。
舌をねじ込んだ犬童を臼井は迎え入れてやった。息継ぎで唇が離れた隙に、口の中はやばいんじゃなかったのか、と臼井が言ってやると、俺は気にしねーもん、とやはり犬童は笑った。
「雄太もそうだろ」
そう言って再びキスを迫る男の、その捕食者のような目が。
臼井はカッと頬が熱くなったことを認めたくなくて、勢いよくシャワーを浴びて忘れることにした。
風呂場を犬童に譲り、ベッドの汚れていない場所に腰を掛けて臼井は髪を乾かす。髪が乾ききらないうち犬童が出てきた。俺の髪も乾かして、と臼井の隣に座る犬童。
「甘えるな」
「ふふん。お前は俺に借りが出来てんだけどなあ」
借りなんてないはずだと睨みつける臼井に、犬童は自身の腕を見せつけた。
「な?」
犬童とこういう関係になる時、情事の痕を残すなと約束させたのは、臼井の方だった。
人に髪乾かしてもらうのって気持ちいいな、とご機嫌の犬童が臼井にはやっぱり憎らしい。
ドライヤーとタオルで犬童のくせ毛を乾かしていると、臼井は妙な思い付きをしてしまった。一瞬生じた気の迷い。臼井は邪念を払うように、犬童の頭頂部を思いっきり親指で押した。
「いってえ!」
犬童が叫ぶ。
「いやいや、そこはちゅーするとこだろ! 下痢ツボ押してんじゃねーよ!」
「俺がそんなことするはずないだろ」
照れ隠しにしても、もうちょっと手心加えろよ、と涙目の犬童を見て、ようやく臼井は留飲を下げたのだった。