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    りーな

    @daryunaru
    好きなように二次創作物
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    りーな

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    デーズ、きす芸の犬臼ルート。※恋愛感情を伴わない水と犬のキス描写あり。前半は水臼ルートと同じ

    #犬臼
    dogSocket

    キス芸の顛末 臼井が高二の頃。次期レギュラーと目されていたメンバーのみで近くの高校へ練習試合に行った。その帰り道、同じように練習試合終わりの桜高と出くわした。
     互いの存在を認識した途端、犬童と水樹は顔を近づけて睨み合っていた。ここまではよくある話だった。一年の頃に水樹が犬童に相撲で負けて以来、しょっちゅう見かける場面だ。でも今日は違った。犬童が水樹にキスした。周囲からギャアとかワアとか悲鳴と何故かオオとかヒューとか歓声が上がった。しかし臼井は声を上げることもできなかった。二人の唇が触れ合って三秒くらいたった頃、我に返ったのだろう水樹が犬童を思いきり突き飛ばした。
     なんかいけそうだったから、と尻餅をついた犬童はカラカラ笑った。桜高面子は馬鹿やってんなよと悪ふざけのノリで犬童の行為を流そうとしているが、水樹は怒り心頭だった。それは臼井も同じだった。今現在の臼井にとって聖蹟は何より大事なもので、その柱の水樹も当然大切な相手だった。その水樹に……桜高のメンバーに囲まれて笑われたり嗜められたりしている犬童が憎らしい。臼井が犬童を睨んでいると、その視線に気づいた犬童が臼井の方へ向かってきた。文句の一つも言ってやろうと臼井は犬童と対峙した。しかし、犬童の方が手が早かった。
    「わりーわりー、そんな怒んなよ、返すから」
     そう言うと犬童は臼井の顎に手をかけ、そのまま唇を重ねた。一拍おいて阿鼻叫喚。しかし臼井の耳には周囲の声が入ってこなかった。犬童は目を開けたままで、臼井も目を見開いていた。犬童は目を閉じないタイプか、と臼井は場違いなことを考えていた。抵抗どころか身動きすることもできなかった。この事実は長じて自身の不甲斐なさへの怒りとなり臼井を苛立たせることになる。思い出しては頭を掻きむしりたくなる忌まわしい記憶として。
     水樹と犬童のキスよりも長いか短いか、臼井には分からなかったが、それは唐突に終わりを迎えた。水樹が犬童を臼井から引き剥がし、再び投げ飛ばしたのだ。今度はそのまま殴りかかろうとしていたので、慌てて猪原や笠原、国母や速瀬が止めている。桜高も応戦する気の犬童を近藤と如月が押さえつけていた。成神は何故か行け行けかおると煽っていた。大塩も中澤も止めろと声をかけているが二人の耳に届いていない。灰原が固まったままの臼井を気遣った後、大丈夫なら水樹を止めてくれと請う。確かに喧嘩なんてことになれば大問題だ。
    「水樹」
     臼井が声を掛けると水樹はピタリと動きを止めた。釣られて犬童も止まった。猛獣使いになった気分だった。
    「自分でやるから」
    「分かった」
    水樹が振り上げていた手を下ろしたので、水樹を取り押さえていた面々も手を離した。臼井は犬童の方を向く。犬童は近藤と如月に両腕を封じられていたので、二人には犬童から離れてもらった。セイ、と小さな声で気合を入れて。
    「〜〜っ! いってー」
     上段蹴り。おお、と何故か聖蹟と桜高の双方から感嘆の声が上がった。
    「同意なくキスするのは犯罪行為だぞ」
    「だからわりーって、つい」
    「ついで許されるなら性犯罪者なんて存在しない」
     犬童と臼井のやり取りを見ていた大塩がちゃんと謝罪するように犬童に指示し、犬童は水樹と臼井に謝った。謝られたところでキスされた事実は無くならないが、犬に噛まれたとでも思って流さなければならない。キス如きで騒ぎ立てるなんて臼井のプライドが許さなかった。水樹に犬に噛まれたと思って忘れよう、と臼井が言うと、水樹は不承不承の様子でワンと言った。
     そして臼井は何事もなかったような顔をして、早く学校へ戻りましょうと中澤に声を掛けた。これから学校で反省会なのだから時間は無駄にできないのだ。
     今いるメンバーに緘口令を出したところで、人の口に戸は立てられない。面倒なことになったと臼井は溜息を吐く。
     終始呆気に取られていた後輩達の中で一人、鈴木だけはウェットティッシュを臼井と水樹に差し出すことができた。臼井は目をかけて間違いなかったなと思いながら鈴木の頭を撫でてやった。

    ○○○○○

     それから二年半が過ぎた。あの頃の臼井が思ってもみなかった未来を生きている。プロサッカー選手になると思っていなかったし、札幌に来ることや、犬童と同じチームになるなんて想像もしなかった。しかし今現在、臼井の寮の部屋には何故か犬童が居座っていて、だらだらとテレビを見て過ごしている。臼井は犬童の浸食を拒絶したいのに、ずるずると犬童が臼井の生活を蝕むようになって半年が経った。
     ベッドを背もたれにして床に座り、ニュースバラエティを見ている犬童。臼井が自分の部屋で見ればいいだろと言っても、一人じゃつまらないと返されるだけ。相手をしても調子に乗るだけだと判断した臼井は、犬童を無視してベッドに腰掛けて本を読むことにした。

     テレビから聞こえた「続いてはスポーツです」という言葉に臼井は本を閉じてテレビ画面に目を向けた。今日は所属チームの試合はなかったし、各試合の結果もすでに知っているが、一応見ておこうと思ったのだ。試合のダイジェストとは名ばかりで、実態はシュートの瞬間だけを切り取られた映像が流れていく。そのうちの一つが水樹の大砲だった。犬童がちらりと臼井を見たが、臼井はその視線を無視した。

     いやー水樹選手のシュート、凄まじい威力ですねえ。まさしく大砲ですねえ。そんな水樹選手、実はSNSでも話題なんですよ。ほら、こちらの写真、見てください。犬童選手と睨み合ってるようですが……こんなに顔が近い! わー! ほんとだ! もうこれキスしちゃいそうですよね。まさしくその通り! 一部のファンからは「もうチューしちゃえ!」なんて意見が出てまして…………

    「…………」
    「なんだよ」
    「別に。そういえば犯罪者だったな、お前」
     臼井がじろりと睨みつけてやると犬童が頭をかきながら悪かったって言ってるだろ、と悪びれなく言う。
    「でも雄太、部屋に入れてくれてるじゃん。もう許してくれてんだろ」
    「そうだな。俺がどうかしていた。出ていけ」
    「いーやーだ」
    犬童が駄々をこねる。
    「そもそも何で俺にまでキスしてきたんだ」
     いつか聞こうと思っていたことを臼井は尋ねた。水樹と違って臼井と犬童には接点などほとんどなかったのに。
    「えー、それは……あー、やっぱいいや」
    「言え」
    珍しく歯切れの悪い犬童に臼井は詰め寄る。あの時、犬童は臼井に向かって何か言った気がする。そう思い、臼井は何と言ったんだと犬童に重ねて聞くが、犬童は忘れたという。 
     たじたじとなる犬童が見られたので臼井の溜飲は少し下がるが、それでも納得のいく答えが出るまで臼井は追及の手を緩めるつもりはない。

     臼井はあの時のことを振り返る。あの日、水樹が先にキスされて……臼井は思い出した。

    「単にお前が綺麗だなーって思ったから、魔が差したんだよ。悪かったって」
     言い訳めいた犬童の言葉は臼井に響かない。
    「……そうだな。俺はお前とキスなんてしていない。あれは水樹との間接キスだったんだから」
     あの日、犬童は臼井に返すと言ったのだ。何を返すというのか、それは水樹とのキスに他ならない。もともと水樹の唇は臼井のものではないので、返すも何もあったものではないが。犬童が水樹と臼井の関係をどう勘違いしていたのやら。ともかく犬童にとって臼井はあくまで水樹のおまけだったのだ。

     この半年、犬童が距離を詰めてくるたびに、悪ノリ以外の理由があったのではないかと感じることがあった臼井はいい面の皮だ。
     臼井は犬童から目を逸らす。再び本を手に取りながら出て行け、と犬童の方を見ないまま静かに言った。臼井は苛立ちや羞恥を取り繕うことが得意だった。犬童が立ち上がる気配がしたが、臼井はベッドに腰かけたまま、意地でも犬童を見ないように本を開く。しかし。
    「雄太」
     思いのほか真剣な声音で犬童が臼井を呼んだので、臼井は目の前に立つ犬童を見上げてしまった。あ、と臼井が思った時には犬童の顔が迫っていた。

    「これは正真正銘、俺と雄太のキスだからな」
     唇を触れ合わせるだけのキスの後、犬童は臼井に告げた。臼井との顔の距離は十センチ、犬童は屈めたままの腰を痛めるのではないかと臼井は思った。前回もだが犬童とキスをすると臼井の脳は場違いなことを考えてしまうようだ。そのせいで、臼井は犬童を突き飛ばすことができずに、再度迫りくる犬童から逃れられなかった。今度は犬童が臼井の頭を両手で包んでいるので、臼井は髪型の崩れが気になった。しかも耳に犬童の手が当たっているのでこそばゆい。どうして余計なことばかり考えてしまうのか、臼井には分からなかった。
     そうして幾度も唇を触れ合わせたり離したりを繰り返した後、犬童は臼井の口腔に舌を侵入させようとした。臼井の歯列をなぞるだけに終わったけれど。頑として犬童を招き入れない臼井。犬童はまた十センチほど顔を離してなにかを臼井に言おうとしたが、その前に臼井が犬童に頭突きした。
    「いってえ」
     そこそこの威力があったようで、犬童は自身の頭を抱えてしゃがみ込んだ。臼井の方も実は痛かった。しかし痛みを見せぬように犬童を冷たく見下ろす。
    「合意のないキスは犯罪だって言っただろ。お前は盛りのついた犬なのか?」
    「雄太もノリノリだったろーが」
    「うるさい」
     確かに臼井は抵抗はしなかったし、何度も重ねたキスには心地よさがあった。しかし流れに身を委ねるなんて臼井雄太にあってはならないことだった。
    「ふーん、じゃあ合意を取り付ければいいんだな?」
    「そんな日は来ない」
    「お? 言ったな。じゃあ勝負だ。明日からよろしく」
     臼井の頭をくしゃくしゃと撫で回してから部屋を出て行った犬童。その無邪気な戯れとは裏腹に、犬童は捕食者の目をしていたけれど、犬童に頭を抑えられていた臼井はそれを見ることができなかった。


     後日。
     水樹のチームとの試合があり、犬童と水樹はまた至近距離で睨み合っていた。それを見ていたファンの黄色い声を聞いた犬童はパッと後ろに跳んで水樹と距離を取った。
    「うっかりお前とチューでもしたら間接キス扱いされるからな」
     かおるちゃんとのキスでなきゃ意味ねーの。
     その言葉を近くで聞いていた臼井は、無言で犬童の頭を叩いたのだった。
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