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    mimi_ruru_241

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    2021年3月「2411FES!」記念アンソロジーに参加させていただきました。とても楽しかったです!イベントも最高でしたね。
    アンソロジー、本当に素敵な一冊でしたので、ぜひ紙でもお手に取ってみてください〜!年内までこちらで頒布されているとのことです。(https://booth.pm/ja/items/2874019

    #キバダン

    慣れないふたり 身動きひとつも許されないほどの狭い場所で、キバナは途方に暮れていた。背中にスライド式の簡素な鍵が容赦なく食い込んでいて、ちょっと痛い。ぶうん、と鳴る換気扇の他に音はなく、人の気配がないことにほんの少しだけ安心する。なにせ、男子トイレの個室にトップジムリーダーとオーナー様が詰め込まれているなんて、誰かに知られたら面倒なことになるのは分かりきっていた。
    「キバナ。どうしてこっちを見ないんだ」
     どうしたもんかなあと思っていると、キバナにぴったりと体を寄せ、じいと見上げていた男が不満気にうめいた。
     ダンデは少し拗ねたように唇を尖らせ、そのやわらかな胸板をさらに密着させる。ちょっと待って、というキバナの弱々しい抗議は聞こえないふり。キバナは小さくため息をついて、欠けたタイルが貼り付く天井に目をやった。
    「だめ。せめて家に帰るまで我慢して」
    「いやだっ」
     意固地な瞳がキバナを真っ直ぐに射抜く。そしてダンデは、子どものように地団駄を踏みかねない勢いで言った。
    「今、ここで、キスがしたい!」
     キバナは再び天を仰ぐ。すぐ真下に、頬を膨らませてわがままを言う、世界で一番かわいい生きものがいることを知っている。そして、それをひと目見てしまったら、どんなお願いごとも叶えてやりたくなることも、キバナは十分に知っていた。だからこそ今は、角が丸いタイルや、くるくる回る換気扇を見てやり過ごさなくてはならないのだ。
     二人が、まるでお伽話のようなハッピーエンドを迎え、新しい関係を築いたのがおよそ一ヶ月前。照れながら指先を触れ合わせ、手を繋いだのがちょうど一週間前のこと。
     まだ指に馴染んでいない手のひらの形にどぎまぎしながら、「次はキスかなあ」と心を弾ませたキバナは、まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。ダンデとの初めてのキスは綺麗な夜景が見える場所で、だなんてあれこれ考えていたというのに。現実は、ナックルシティジムのトイレの個室に引きずり込まれ、やたらと勢い込んだダンデに唇を奪われんとしているのだった。いやいやちょっと待ってくれ。ダンデとの大事な思い出を振り返るたび、職場のトイレが蘇るだなんて、おれさまそこそこ嫌なんですけど。
    「だめです、もう行くぞ」
    「どうして? おれは今すぐキスしたい」
    「あのなあダンデ、よく考えてみろよ。こんなところで二人で篭ってキスしてるなんて、変態みたいだろ」
    「へ、へんたい」
     ダンデはぎょっとして語気を弱めた。そこに僅かな勝機を見つけ、「そうだよ、アダルトビデオじゃあるまいし」と追い打ちをかければ、まるで穴の開いた風船のようにしおしおと体を萎ませた。顔が赤くなり、キバナの腕を掴んでいた手のひらから力が抜けてゆく。ようやく勢いを弱めたダンデに、こっそり安堵のため息をついた。
     なぜ、奥手だったはずのダンデが突然迫ってきたのかは分からない。けれどこれで、キバナが毎晩夢に見ていた「ダンデとの美しい初めてのキス」は守られた。さあ良かった良かった早く出よう、とキバナがトイレの鍵に手をかけたその時、きゅう、とパーカーの裾を掴まれる。思わず振り返ると、俯いていたダンデがほんの少し顔を上げた。あ、まずい、と思った時にはもう遅い。キバナの目に入ってきたのは、潤む金色、紅潮した頬、あどけなく下がったハの字の眉。そして、ふっくらとした唇が開かれる。
    「でも、おれ、キバナとキスしたいんだ」
     キミは違うのか? ダンデがおずおずと上目で見上げた。そしてキバナは不運にも気がついてしまうのだ。パーカーをちょこんと掴む指が、小さく震えていることに。
     よく熟れたリンゴのような芳香が胸いっぱいに充満してゆき、衝動がキバナの指の先まで駆け抜ける。こんな場所だが、力いっぱい叫びたい。

     ─くそ、こんなのずるい、かわいすぎる!

    「お、れさまだって、そう、だよ」
     抑えがたい甘やかな激情を奥歯で噛み潰しながら、喉の奥で言葉を絞り出す。彼の圧倒的な忍耐力などつゆ知らず、ダンデは雲が切れた青空のように顔を明るくして、「よかった」と声を弾ませた。ぱちぱちと上下する豊かなまつげの周りで、砕いたダイヤモンドが舞っているような錯覚を感じてしまい、キバナは再び低く唸った。
    「それなら、キスしてほしい、ぜ」
     ダンデはぐっと踵を浮かせ、キバナの顎の真下へ唇を寄せた。不安定な体勢のせいで、キバナへ寄りかかる形になっている。やわらかな肉体の質量と、服を隔てていても分かるぬくもり、小刻みに震える体を胸に抱いてしまえば、もう抗う術などこの世にない。キバナは観念し、敗北を受け入れた。
    「目、とじて」
     ふたつの瞼がぎこちなく下ろされ、きれいなアンバーが隠される。やがてキバナがダンデの後頭部をそっと手のひらで支え、熱を待つ唇へ軽く吸い付く。グロスもなにもないそこは、信じられないくらい柔らかい。きれいなリップ音と共に顔を離すと、花開くようにふわりと微笑むダンデがいた。
    「うれしい」
     どん、という小規模な爆発音は、きっとキバナの胸の中から聞こえたものだろう。キバナは既に、ここがトイレの個室であることを忘れ、ダンデしか見えなくなっている。

     あのキス以来、例のトイレが使えなくなってしまったキバナ(柔らかな感触を思い出してどうしようもなくなるのだ)のことなんて知る由もないダンデは、意外な積極性を見せた。事あるごとに、キスをねだるようになったのだ。
     会議の休憩中、誰もいない打ち合わせスペースで。街の喧騒から離れた薄暗い路地裏で。体を寄せたタクシーの中で。ダンデはおずおずと伺うようにキバナを見上げ、パーカーの裾をちょこんと握る。そして潤んだ瞳でたっぷり五秒キバナを見つめ、おもむろに瞼を下ろすのだった。キバナはその一連のおねだりを目の当たりにするたび、律儀に心臓を高鳴らせ、そっと唇を寄せる。
     恋愛経験が乏しい(と、前に自己申告していた)ダンデにしては妙に積極的なので、何か理由があるのか、もしや後ろめたいことを誤魔化そうとしているのか、と邪推したこともあった。けれど毎回ぎこちなく震えるまつげや、いつまで経ってもキスの息継ぎが下手な不器用さに、キバナはすっかりどうでもよくなってしまった。ダンデの想いに嘘がなければ、それだけで十分だと思ったのだ。
     そして最近、気がついたことがある。ダンデが拙い積極性を発揮するのは、キスだけではなかったのだ。
    「あいしてるぜ、キバナ」
     夕暮れの帰り道、不意に撃ち込まれたその甘い弾丸はキバナを大いによろめかせた。
    「な、に。どうしたの急に」
     明日は雪でも降りそうだ、なんて冗談のひとつも言えればよかった。なんでもない顔で「おれもだよ」と額に口づけしてやれたら上々だ。けれどその言葉の全てが喉の奥に引っ込んでしまう。
     だってそれもそうだろう、オレンジの夕日も甘い言葉も、その全てが映画のワンシーンのように完璧なのに、その真ん中に立つダンデ自身はうぶなティーンのごとく耳まで真っ赤になっていたのだから。それでも、ぎこちなく口の端っこを持ち上げて、懸命にかっこつけようとしているのが、健気で、誇り高く、子どもっぽくてかわいらしい。
     うっ、とえずきにも近い感情がこみ上げて、キバナは思わず口元を抑えた。なんだよ、なんなんだよ、こいつ。あーもうだめ、好き。大好き。こんなの愛しちゃうに決まってるじゃん。
     今口を開いたら、空のてっぺんまで届くような声で、ダンデの存在を神に感謝してしまいそうだ。キバナが、腹の奥から飛び出しかけている言葉を必死に押さえ込んでいると、ダンデは何を勘違いしたのか、サッと青ざめて「あ、ええと、キミも同じ気持でいてくれてると、思ってたんだけど……」だなんて俯いたので、キバナはついに叫んだ。
    「おれさまも愛してるに決まってんだろォ!」
     縮こまってしまったダンデの体をぎゅうと抱きしめる。右巻きのつむじへ無茶苦茶に頬ずりをしてやれば、こわばった体が少しずつ緩んでゆくのが分かった。つんと突けば大爆発を起こしそうな感情をどう表現すべきか、キバナは知らない。ならばせめて、とひたすらダンデを抱き込んでいると、彼はきつく巻き付く腕の中で、もぞもぞと身動ぎをした。そして、そっとキバナの背中に腕を回し、顔を上げて笑った。ふふ、とやわらかく、それはそれは幸せそうに。─天使だって何だって、この清らかさには尻尾を巻いて逃げ出すだろう。キバナはくらりとした目眩を覚える。
     こいつ、おれさまを殺す気なのかな。
     この調子だと命がもたない、そんな一抹の不安を抱いたキバナをよそに、ダンデはあたたかな胸に頬を寄せ、幸福そうな表情を浮かべている。
     以来、ダンデは頻繁にキスをねだり、愛の言葉を口にするようになった。「すきだぜ」とか「あいしてる」とか、「かっこいいな」とか、率直で荒削りだけれど、それは一直線にキバナの胸を撃ち抜いた。ふっくらとした唇から、ぎこちなく放たれる弾丸の数々に、キバナの体の奥底から甘い激情が湧き上がる。奥歯を噛み締めながら、「ありがと」と微笑みに似た何かの表情を浮かべるのが精一杯だった。本当は「おれさまのダンデかわいすぎる!」と叫びながら地球を五周ほど駆け回りたいくらいなので、その忍耐力は人並み外れたものであると言えよう。
     それにしても、とキバナは思う。どうしてダンデは、こういったことに不慣れなくせに、不器用にも果敢に挑むのだろうか。何か裏があるわけではないことは十分に分かったが、それにしたって不思議だった。
     どんな人間だって得手不得手はあるのだし、無理しなくったっていいんだぜ。そんなことを言ってやろうかと思うのだが、何度やったって不慣れなダンデの愛情表現にノックアウトされてしまい、全ての言葉や疑問が遥か彼方へすっ飛んでしまうのだった。
     そんな、キバナの心臓に幸福な負荷がかかり続けたある日。ダンデから「他地方のバトル中継を録画しておいたんだ。うちで見よう」と誘われ、キバナは彼の家へ来ていた。
     ああでもない、こうでもない、と議論を交わしながら観戦する。やがて一時間後、審判が右手を真っ直ぐに挙げ、勝者を高らかに宣言した。手に汗握る展開に、思わず息を止めていたキバナがほうと肩の力を抜く。ダンデも同じだったようで、少々ぐったりした様子で(しかし瞳はらんらんと輝いている)、いい試合だったと呟いた。
    「お茶にしようか。キバナはダージリンだったよな」
     ダンデはそう言ってキッチンへと向かった。好きな紅茶の種類を覚えてくれていたことに、ほのかな感動を覚えつつ、キバナは目尻を緩めてダンデを見つめる。茶葉が踊るポットを持って帰って来たダンデに「ありがと」と頬にキスをして、カップに注がれた琥珀色に口をつけた。
     何もかもが満ち足りていた。白いカーテンが風をはらんでふわりと膨らみ、あたたかな陽光が窓からこぼれおちる。紅茶の香りと、すっかり覚えてしまったダンデのシャンプーの芳香。幸福に満ち満ちているこのひとときは、何があっても永遠に覚えていよう。なんて、詩人のような気分に浸っていたキバナは、ふと、ソファの隣に座ったダンデの視線に気がついた。
     ダンデはなんだかそわそわとしていて、キバナをしきりに盗み見ている。どうかしたのか、と声をかけようとした瞬間、スプリングがぎしりと軋んだ。ダンデが、こぶしひとつ分あった距離をさらに詰めて、キバナの体へぴったりと寄り添ったのだ。右半身に触れる上ずったような体温に、キバナの心臓がひとつ飛び跳ねる。
    「キバナ」
     小さく呟かれた言葉は、ほんの少し潤んでいる。キバナの神経が全て右腕に集まり、ダンデのぬくもりを逃すまいと研ぎ澄まされる。─いや、嘘だ。逃すまいとしているのはぬくもりではない。正確に言うと、腕に押し付けられているやわらかな部分。ダンデが駆け寄ってくる度、いつも無邪気に揺れてはキバナの目線を釘付けにさせるそこ。
    「キバナ……」
     手持ちの孵化動画、幼体ポケモンの癒やし画像、そういう清らかなものを思い浮かべながらやり過ごそうとしていたら、反応のなさに不安を覚えたらしいダンデが小さく名を呼ぶ。本人は無意識なのだろうけれど、か細く震えるようなその声に、キバナは頭がおかしくなりそうだった。さっきまで、穏やかで、清白で、いっそ神聖であるような空間だったはずなのに、今はぐっと湿度が高まったような気がする。キバナの首筋に、じっとりと汗が滲む。
     こんなはずじゃない。キバナは思う。ダンデのことは、世界で一番大切にしたいんだ。何もかもに周到な準備をして、何度も夢想していたプランを実行し、全ての初めてが記念日になるくらい幸福なものにしてやりたい。ああちくしょう、本能よ、今だけはおれさまの言うことを聞いてくれ。ダンデがかわいすぎるせいってのは認めるが、それでも。
    「ど、したのォ、ダンデ。そんなにくっついちゃって」
     ありったけの理性をかき集めたキバナは、多少声が裏返りはしたものの、穏やかに尋ねてみせた。えらいぞおれさま、頑張れおれさま、と自身を鼓舞したのも束の間、ダンデは言った。
    「なんとなく、だぜ」
     首が、こてん、と傾げられる。はちみつのように輝く瞳。たっぷりとしたまつげに絡む小さな星屑。薄く開いたやわらかな唇。甘いシャンプーの香り。
     ぶつん。何かが焼き切れる音がした。
    「う、わっ、キバナ?」
     ダンデの驚いた声なんか構わずに、キバナはダンデの肩を強く掴んだ。鼓膜の内側ではたいそう早い脈がドコドコと鳴っている。台風のように荒い息遣いが自分のものであることに気がついた時には既に遅く、キバナはトルマリンに光る瞳でダンデを捕らえ「かわいいのもいい加減にしろよ」と唸った。
    「な、何言ってるんだ」
    「ほんと勘弁してくれ。おれさま、おまえのことびっくりするくらい好きなんだよ。何しでかすか分かんねえから、かわいいのも程々にしてくれる?」
     なんともよく分からないお願いだったが、気持ちだけは伝わったのか、ダンデはちょっぴり混乱した顔をしつつも「分かった」とひとつ頷いた。
    「お茶のおかわり、淹れてくるな」
     そう言ってそそくさとソファを後にしたダンデに、キバナは深い溜息をつく。あーもう、鼻血出てないだろうな。
     冷静になる必要がある。これじゃスマートなリードなんてできやしない。落ち着きを取り戻そうと、立ち上がって本棚の前をうろついてみる。インクと紙の香りが、キバナの心に平静をもたらす。やがて脈拍も呼吸もいつもどおりになり始めたころ、図鑑や専門書の中に少し毛色の違う本が紛れていることに気がついた。ひときわ薄いその本にだけ、本屋のロゴが印刷された紙カバーがかかっていた。
     なんだろう、小説でも読んでるのかな。そんな軽い気持ちで手にとったキバナは、それを開いた瞬間に目を丸くする。おい、ちょっと待て、これは一体─……。
     かちゃん。物音に振り向くと、ティースプーンを取り落としたダンデがわなわなと震えていた。そして、うわああっと叫ぶや否や、キバナに突進し本を奪い取った。
    「み、見たか?」
    「……タイトルだけ」
     ダンデはもはや、青果市でリンゴの隣に並んでいてもおかしくないほどに真っ赤になっていた。キバナもつられて頬を赤くしながら、ついさっき見た文字の羅列を鮮明に思い出す。それは確かに、こう書いてあった。─恋人と長く付き合う三つの秘訣(決定版)、と。
    「もしかして、おれさまのために勉強してくれてたの?」
    「ち、ちがうっ、これは、その、商談の交渉に役立つかと思ってだな、」
    「三つの秘訣、『たくさんキスをしよう』、『こまめに気持ちを伝えよう』、『甘え上手になろう』って書いてあったけど」
    「キミ、中身もしっかり見てるじゃないか!」
     ダンデが涙目になって叫ぶ。トルマリンのように光るキバナの瞳に耐え切れなくなったのか、妙なうめき声を上げながら、本を抱きかかえてソファにうずくまってしまった。
     やわらかい小山のようになったダンデを、キバナはぎゅうと抱きしめた。奥から「こんなはずじゃなかった……」というひしゃげた声が聞こえて、キバナはさらに腕へ力をこめる。もう無茶苦茶だった。心臓も、呼吸も、熱く流れる血潮も、全部が全部、どうしようもない。「こんなはずじゃなかった」のはキバナも同じだったけれど、もうそれでいいや、と思った。
    「ダンデは、おれさまと、ずっと一緒にいたかったんだな」
     だから、頑張ってくれたんだよな。そう囁くと、ダンデが少し顔を上げた。そして、潤む瞳でキバナを見つめながら、こくりとわずかに頷いた。ドン、とついにキバナの胸が破裂する。
    「おまえ、ほんと最高」
     キバナは熱い頬いっぱいにキスを落とした。甘い口づけの豪雨のさなか、「そんなことしなくったってさ、もうずっと前から、おれさまはおまえのモンだぜ」と言った。
    「いやだって言ったって、離れてなんかやるもんか」
     そうして、己の鼓動が伝わってしまえとばかりに、ぎゅうぎゅうと抱き寄せる。ダンデは妙な顔をしながらも、キバナの背中へそっと腕を回した。
     ああ、いつになったらこいつのかわいさに慣れるのだろう。この調子だと、いつか本当にぶっ倒れてしまうかもしれない。そんなことを思うキバナは知らないのだ。
     五年、十年、それ以上の年月を経たところで、この嵐のような愛おしさに慣れるなんて、到底ありえないということを。
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    mimi_ruru_241

    PAST「狂気の合同誌」にて漫画で描いたものの小説版。本のおまけでしたがこちらで供養。
    プロットありとはいえ小説の所要時間は三時間でした。漫画の方は時間かかりすぎて計測できてません。
    初クリスタ、とても刺激的な日々でした。素材とかCGモデルどころかトーンすら使いこなせてなかった。
    狂気の合同誌、本当にお世話になりました。ありがとうございました!
    ないしょのかたっぽ キバナ、イコール、完璧。ガラル中の人々がそう思っている、……らしい。
    「ね、キバナ特集だって」
    「貴重なオフショットも多数、かあ。本屋寄ってみる?」
     壁一面に貼り出された広告を前に、女の子たちが黄色い声を上げている。道端で眠るチョロネコに気をとられていて気づかなかったが、横目でチラと見たそれにはキバナが大写しになっていた。光沢のあるタキシードをかっちりと着込み、腕には大輪のバラを抱えている。ちょっと吹き出してしまいそうなくらいベタな格好だが、その余りあるルックスの良さが全てに調和をもたらしていた。
     すっと通った鼻梁、あまくほどけたまなじり、涼しげな薄い唇。ダークチョコレートの色をしたその横を、おれは立ち止まることなく通り過ぎる。この美しさにほれぼれとするなんて時期は、もうとっくの昔に過ぎ去った。慣れた、というよりも、もっと別のことを知ったから。
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