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    おかき

    文字書きです。書きたいところだけ書いてぽい。

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    おかき

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    1014R///マスグラ前提 マスターとタバティエールが花屋に行く話。

    続 花は買わない「タバティエール!」

    後ろから声を掛けられて振り返ると、授業終わりのマスターが駆け寄ってきた。長い廊下を走ってきたんだろう、息が絶え絶えになっている。

    「マスターちゃん、そんなに慌ててどうしたんだ?」
    「はぁ、はぁ、次の休日、空いてる?」
    「え……ああ、空いてるが。」

    息を整えているマスターにそう告げると、ガバッと顔を上げて勢いよく俺の肩を掴んできた。

    「お願い、俺とパリに行ってくれないか!?」
    「は、はぁ?」
    「どうか!お願いします!!」

    大きな声で必死にお願いされて、廊下にいる他の生徒がなんだなんだとこちらに目を向ける。
    面倒事になるのはごめんだ、と俺は慌てて頭を下げているマスターの顔を上げさせた。

    「分かった分かった!パリでも何処でも着いて行くから!俺なんかに頭を下げないでくれよマスターちゃん……。」
    「あ、ありがとうタバティエール!……コホン、じゃあ、また後で予定を立てよう。それじゃ!」

    ほっとした様子で顔を上げて、マスターは手を振って颯爽と廊下を歩いていく。さっきの必死さも相まって、機嫌が良さそうな後ろ姿を俺は呆然と見つめるしかできなかった。









    「で、なんで俺なんだ?」

    そして、その休日の日がやってきた。
    無事にフランス、パリの街中に到着すると、マスターは物珍しそうに爛々として辺りを見渡している。

    「行きたい所があるんだけど、タバティエールなら詳しいかな、と思って。」
    「へぇ、どこに行きたいんだ?」
    「それは、」

    マスターが一瞬言いづらそうに目を逸らした。不思議に思って見つめていると、意を決したようにこちらを見つめ返してきた。その瞳を見て、何を言われるのかと思わず身構えた。

    「その、……花屋に、連れてって欲しいんだ。」
    「は?フラワーショップ?」
    「そう、俺は花とかそういうのに疎いから……タバティエールならと思って。」

    どうかな、と自信なさげに吐き出したマスターから、本気で花屋に連れて行ってほしいことは伝わってきた。
    俺も緊張していた肩の力を抜く。

    「なぁんだ、そういう事ならまかせろ。」
    「いいのか?」
    「もちろん、……はは、身構えて損したよ。」
    「そんな身構えるような所に連れて行けなんて言わないぞ。」
    「そうだよな、マスターちゃんはそういう奴だ。よし、俺の行きつけの店がこの近くだから早速行こうか。」

    はは、と笑って行きつけの花屋の方に歩き出した。









    「……すごい。」
    「立派なもんだろ、ここは品揃えも良いし置いてる花の質も良い。」

    洒落た店構えのドアを開けて中に入る。薔薇や、白百合なんて定番の花から、チューリップやカーネーションといった季節の花が出迎えてくれる。あまりの量に圧倒されたかと思えば、花屋に来るのが慣れてないマスターは相変わらずキョロキョロと落ち着かなそうに店の中を見渡している。

    「フラワーショップに来るのは初めてか?」
    「まぁ、うん。あと、あんまり華やかなのは馴染みが無いから緊張する……あはは、」

    眉を下げてマスターは困った様に笑う。馴染みが無いからそわそわしているのは分かるが、それにしても落ち着かなすぎる気がする。いつも冷静沈着で、落ち着きのある彼とはえらい違いだ。
    ……ひとつ、ここは探りを入れてみるか。

    「なぁ、マスターちゃん。」
    「な、なに。」
    「もしかして、なんだが。……好きなやつに花でも贈りたいのか?」
    「……っ」

    素っ頓狂な声を出して固まってしまったマスターに、思わず笑みが零れる。ははぁ、なるほどな。それであんなに緊張していたってわけか。
    ニヤ、と笑っているのが分かったのか、マスターは慌てて弁解しようとしてくる。

    「ちが……く、ないかもしれない、…けど、違うんだって、」
    「なんだ、それならそうと早く言ってくれれば良かったのに。マダムに花束でも作ってもらおうか。」
    「タバティエール……!!」
    「ははは!」
    「笑い事じゃない……!あ〜!!もう!!!くそっ、全部話すよ!聞いてくれるか!?」

    少し顔を赤くしたまま、バツが悪そうに自分の頭をぐしゃぐしゃと乱して、マスターはぽつりと話し始めた。
    花に囲まれながら、いじらしい彼の話に耳を傾ける。

    「この前グラースから、もう花は部屋に持ってくるなって言われただろ?」
    「ああ、言われたな。何度も念押ししてくるから、もうやめようかと思ってるが。」
    「それさ……切り花だと、萎れてしまうのが早いから鉢植えでも育てようかって、俺がグラースに言ったんだ。今日連れ出したのは、その鉢植えが欲しかったから。」
    「なるほど、……でも鉢植えなら、士官学校の園芸部から貰えば良かったんじゃないのか?」

    そう問いかけると、マスターは首を横に振った。やけに深刻そうな顔をして、続きを話し出す。

    「それが1番手っ取り早いけど、……それじゃ、ダメかなと思って。」
    「何がダメなんだ?」
    「せっかく時間かけて育てるなら、フランスの花が良いんじゃないかな、と。なんの縁もゆかりも無い花よりは、綺麗な咲いた時にアイツも嬉しいんじゃないかとか、色々考えたんだ。」

    俺には、グラースが花を咲かせて喜ぶ姿はあまり想像付かないが、マスターの言ってる事は理解できる。
    つまり一種の情操教育みたいなものか、花を育てることを通して愛情の尊さを学ぶ。今のグラースには、確かに必要な事かもしれない。

    「それで、俺に声を掛けてきたってわけか。」
    「うん……それで、よく考えて思った事があるんだけど。」
    「どうした?」

    酷く言いづらそうにマスターが顔を顰める、目は泳いでいてこちらを見返してこない。
    今度は何を言われるんだ、と思わずまた身構えた。

    「もしかして、タバティエールがグラースに花を持って行ってたのは、なんか別の意図があるんじゃないかと……。」
    「……例えば?」
    「た、例えば、遊び呆けているグラースの様子を見るための口実とか、もっと、別の深い意味とかがあるんじゃないかって。そしたら、俺のやってる事ってそれの邪魔をしたことになるだろ?だとしたら……。」

    話し続けながらどんどん顔色が悪くなるマスターが、可笑しくて思わず笑いそうになる。
    マスターの中では、俺はさぞアイツらを甲斐甲斐しく世話している奴だと思われてるんだな。

    「し、死ぬほど申し訳ない!!邪魔して悪かったタバティエール!!!」
    「おおぅ、んなデカい声出すなよ……。それに深い意味ってなんだ。」
    「その、れ、恋愛感情、に近いものとか?」
    「はぁ?……どうしてそうなるんだ。」
    「だ、だって、グラースの部屋に飾られてた花の花言葉も、なんか意味深なものばかりだったし!」
    「へぇ、マスターちゃんもそういうのに興味あるのか?」
    「あるわけないだろ!見覚えがある花を図書館の図鑑を見て調べたんだ。黄色いガーベラは究極の愛、カトレアは魔力とか魅力的とかそういう意味があってだな……!!」

    捲し立てるマスターの言葉を聞きながら、何も考えずに花を飾っていた事に少し罪悪感を覚える。
    しかし、今日のマスターは本当によく喋るな。

    「だから、……俺はお前の恋路を邪魔したかもしれないと思って、でも、グラースにはああ言ったし、綺麗な花が咲く鉢植えを渡してやりたかった。」
    「それはそれは、盛大に変な方向に突っ走ってるなぁ。……安心してくれよ、俺はわざわざ花言葉まで考えて花を送る男じゃない。恋い慕っている相手なら話は別だが。」

    背中をぽんぽん、と叩いて励ましてやると、マスターは瞳だけを動かしてこっちを見た。

    「……本当に?」
    「本当だよ。俺はアイツらの世話係、……にも満たないかもしれない、そんな特別なもんじゃないのさ。」

    俺の言葉を聞いて、何か言いたげにマスターがこちらを見つめた後、がっくりと肩を落として大きくため息を着いた。

    「はぁ〜〜〜〜〜、本当、ごめん。俺、考えすぎだった。」
    「はは、どうしたらそうなるんだって話ばかりだったな。」
    「笑うなよ、……いや、笑われても仕方ないか。流石に、カッコ悪かったし。」
    「珍しいマスターちゃんが見れて俺は楽しかったよ。あの取り乱し方、普段とは大違いだな。」
    「普段は学校に居るからしゃんとしてるだけだ!……本当は、俺、かっこ悪いんだ。」

    いつも貴銃士達の纏め役をしていて、士官学校では成績も評判も良い彼だから忘れていたが。
    こういう年相応な反応が見られるのは、かえって良い事なのかもしれない。誰かを想って一喜一憂できるなんて、純粋な証拠だ。

    「マスターちゃんは、グラースの事が大事なんだな。」
    「……大事だよ。できれば、あいつがフランスの人だけじゃなくて色んな人に愛されて欲しいと思う。でも、同時に。」

    独り占め出来たらどんなに良いだろうって、思うんだ。

    「俺、変なのかな。」

    一瞬見せた、ひどく大人びた表情に目を奪われた。

    「恋は、」
    「……。」
    「良くも悪くも、人を変えるものさ。」

    しんと静まり返る。フォローのために言った言葉が、周りの植物に吸い込まれていくような気がした。すぐ側の花壇に植えられていたヒナゲシとヒナギクがこちらを見ていた……ような気がする。

    「これ、タバティエールは恋だって言うんだな。」
    「は?……自覚、無かったのかい?」
    「うーん、もっと、こう、恋は綺麗なものだと思ってたから。こんな風に心の中をめちゃくちゃにされるような感覚は、もっとまた別の感情じゃないかと。」

    照れたように笑うマスターの目の前には、愛の花である薔薇が咲いていた。

    「……そうか、恋か。」
    「納得いかないか?」
    「まさか!自分以外に言われると存外腑に落ちるものだよ。ああ、なるほどなぁ、ってね。」

    ありがとう、と礼を言われてむず痒い気持ちになる。良くも悪くも、士官学校から飛び出したマスターは純粋過ぎるかもしれないな。
    マスターの気持ちの片がついた所で、俺はぐるりと花屋の中を見渡した。

    「さて、流石にメジャーだから置いてると思うんだが。……ああ、これはどうだ、俺のオススメ。」
    「この花、えーと、ヒヤシンス、か?」
    「そう、本当はフランスの国花が理想だろうが、花はやっぱり春に咲くのが綺麗だろ。ヒヤシンスなら鉢植えでも育てられるし、元々フランスから広がった花だからな。」
    「なるほど……。」
    「色も様々でなぁ、定番は白とか赤、ピンクなんかも華やかでいいと思うが。そこは、マスターちゃんにお任せするよ。」

    花屋の片隅にはヒヤシンスの花と一緒に球根も置いてあった。これを買って、適当な植木鉢にでもいれてやれば直ぐに育てられる。まぁ、あのグラースがちゃんと育てるかは話が別だが。

    「俺はこれが良い。」
    「へぇ、青にするか。理由は?」
    「シャスポーも、グラースも、タバティエールも。青い軍服だろ?戦場では華やか過ぎるかもしれないけど、俺にとってはフランスと言えば青なんだ。」

    優しい顔で青いヒヤシンスの花を見つめるマスターに、胸の奥が熱くなった。

    「ほんと、君は優しいな。」
    「……さっき散々見当違いな事を喚き散らしてたの、もう忘れたのか?」
    「はは!忘れないさ、後でシャスポー達に話す。」
    「や、やめてくれ……。」
    「冗談だよ、決めたなら買って帰ろうか。他に寄りたい所はあるか?」
    「俺は特に、タバティエールは?付き合うよ。」
    「じゃあ、パティスリーにでも行くか。あそこのチョコレートケーキ、美味いぞ。」
    「行こう!すぐ行こう今すぐ行こう!!」
    「……現金だねぇマスターちゃんも。」




    *おまけ

    「「マスター!!」」
    「グラースにシャスポー?どうしたんだそんな怖い顔して。」
    「お前、タバティエールとパリに行ってたって本当か!?」
    「なんで僕に声を掛けてくれなかったんだい!?僕なら完璧にパリの街をエスコートしてあげたのに!」
    「いや、えっと、それは……。」
    「……さてと、俺はシャルルくんにスイーツを作らないといけないからここで失礼するよ。」
    「えっ、まっ、見捨てないでくれタバティエール!」

    「「マスター!話は終わってない!!」」
    「わ、悪かったよ!!また今度2人と行くから許してくれ!!」

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