交流会展示忘羨小説昏迷乱擾
ここ最近の眠りが浅い、少しの物音でも覚醒してしまう―温情に薬湯を頼んだが、飲み過ぎだ薬に頼るなと怒られて部屋から追い出された。
「魏公子ここは私が見張ってますから、横になってください。眼を閉じるだけでも楽になれると思います。」
温寧が大きな布をかけ布団を魏嬰に差し出して言う。
「解った。少しの間奥の方で休ませてもらう。何かあればすぐ伝えるんだぞ、お前らで勝手に行動するなよ。」
魏嬰が温寧と後ろに数人いる温氏の人間に伝えると
暗い洞窟のような場所に消えて行った。
洞窟内に張ったとある物の結界を確かめた後先程受け取った毛布を身体に巻き付けて岩にもたれ掛かるように眼を閉じた。
ザワザワと人の声が聞こえてきて両手で耳を塞いで心の中で「うるさい。黙れ。」と何度も繰り返し言った。
「しかし、ここは寒いな・・・・。」
ぽつりと愚痴のように呟いた時
『魏嬰。』
たまに訪ねて来てくれる藍湛の事を思い出す事が増えてきて我ながら情けないとか思い始めて――
「本当、お前はいつもいつも俺の前に・・・。」
ふと倒れそうになって抱えてくれた腕と胸の力強さと暖かさを思い出して首を横に振る。
「今度また来たら上手い物でも奢らせよう。」
眼を閉じて知らない間に眠りについていた。
俺は夢の中で懐かしい所に立っていた。
「ここは雲深不知処?夢なのに寒さを感じてる。」
まさか意識をここに飛ばしたとか馬鹿みたいな事あるわけないよな。
周りを見回すと藍室に似た場所に眼が入る。
月明かりが照らされて木々を見回すと白い霜が転々と白く輝いて綺麗だと思った。
あの場所だとこのような幻想的な光景見れないな。
「しかし、本当に意識と言うか魂を飛ばしたなら・・戻らないと危ないな。」
月を見上げて眼を閉じようとした時部屋の扉ががたんと音を立てた。
振り向いてはいけないと頭では理解していたのだが、何故かあいつだと確信している自分が勝ってしまった。
「魏嬰?」
この時間帯だと眠ってるのではないのか?そして裸足のまま駆けつけて名前を再び呼ばれた。
なんだろうすごくざわざわする・・こんな感じは、今までなかった、違和感がある、藍湛が怖いと感じたあの抹額を外してしまった時とは全く異質な怖さだ。
「えっと、こんばんは・・俺が見えるの?」
指を自分に向けて苦笑いしながら質問してみた。
「君は何故、魂魄だけ飛ばすなど危険な真似を?まさかあちらで何かあったのか?」
「ないない、それはない。今温寧達が見張ってるし。」
大げさに手を横に振って訴えながら考えながら、
やはり魂魄だけ飛ばしてしまったのかと頭を掻いた。
「とりあえず部屋に、誰かに見つかったら危ない。」
部屋に入ると甘い匂いがした・・・檀香か、まさかこの匂いに引き寄せられたとかは・・・霊に近い状況だし。
「すぐに戻れるとは思うんだけど、それまでかくまってくれると有り難い。寝ててもいいから時間がたてば勝手に本体に戻るだろうし。それより・・」
藍湛の大きな掌が俺の頬に触れた。
「えっ?なんで?」
人に触れるのが苦手な藍湛が自分から他人に触れてる?しかも俺に?「君の魂魄は迷子に近いからここに居て。」
手が頬から肩にそして左胸に降りて止まった。
「ここに居れば傷つく事もない。本体は後で私がここに持ってくるから、安心して眠っていて。」
「ら・・・・藍湛。お前は、何を言ってるんだ。」
藍湛の眼がいつもと違く感じて怖くなった・・本能的に危険だと思った・・それなのに体が動かない。
「何を迷ってる。本当はこうして私に連れ去って欲しい。閉じ込めて欲しいと思ってるのでは?」
違うと答えたいのに声が出ない・・だって図星だからだ・・夢で何度か藍湛に言ってしまった事があったから。
「違う・・お前は違う。」
腕を振り払おうとしたが逆に引っ張られてしまう。
「離せ、お前は違う偽物だ!」
視界が真っ赤に染まった。
「何が違う?君は私の事をどう見てるの。」
「だから・・俺の知ってる・・・。見ていた藍湛は・・」
藍湛が俺を抱きしめる、違うこの腕では違うこの胸の中は違うこれは偽物だ、俺を弱らせようという虚像だ。
「この腕の中でずっと眠りについていい。」
「藍湛は、そんな事しないし言わない!」
自分の周りから黒い煙が藍湛にまとわりついて引き離した。視界が紅いまま頭がガンガンし始めた。
目の前の藍湛がぐにゃにりと歪んで黒い人の形になってケタケタと大勢の声が重なり合って笑っていた。
「これは君の・・お前のあんたの本音だろ?」
もう一度そいつらを紅い視界で見つめる。
「それが本音だとしても偽物の腕の中でなんか眠りたくない!藍湛の姿を借りるとかふざけるな!」
残留思念の塊か・・・忌々しい。
戻らないと俺の本体が危ないか・・と黒い影を睨みつけた時琴の音がポンと鳴って人型が粉砕した。