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    巨大な石の顔

    2022.6.1 Pixivから移転しました。魔道祖師の同人作品をあげていきます。

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    巨大な石の顔

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    江澄女体化現代中国au後編です。兄上のやばさが加速しています。タイトルはどうして藍大哥は私と結婚したいのか?という意味で、その答えを書いています。元ネタは兄上以上に執着心つよつよなスパダリがでてくるとある中華ラブコメドラマです。

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation
    #曦澄
    #女体化
    feminization
    #現代au
    modernAu

    奈可藍大哥要娶我(後編)「もしかしてその後哥哥の膝の上にのせられて、肉まんを一口ずつちぎって食べさせられた?」
    「よくわかったな。茶は口移しで飲まされた」
    「うわ聞きたくないよそんなの」
     懐桑はああ恐ろしいとばかりに首を振った。
     サングラスをかけた二人組は今運河のそばにあるイタリアンレストランのテラス席に座っていた。
     初秋の透き通った陽射しがテラス席へ降り注いでいるが、川風が吹いているのでそう汗ばむことはない。
     シーフード料理が売りの店なので、席に着くなり酒好きの二人は上等な白ワインを開けた。今テーブルの上にあるボトルは二本目だ。
     江澄から先日のお詫びとお見舞いをしたいと連絡したところ、懐桑が「前から気になっていたんだよ」とこの市内で人気のレストランを指定したのだ。
     旧友によると、夫は殴る直前に拳の力を急に緩めたらしい。
    「曦臣哥哥も一般的な感覚とずれたところはあるけれど馬鹿じゃないから。私に顔の骨を折るぐらい大怪我させたら大哥が黙っているはずないもの」
     懐桑の兄と藍渙は同じ武道を習っている先輩と後輩で、共同でビジネスも行っている。
     あのときバーで懐桑が失神したのは殴られた痛みからではなく、殴られた事実にショックを受けたからだそうだ。
    「親にも大哥にもぶたれたことないんだけどね」
     そうぼやくと、もうすっかり治っているにもかかわらず漢字が書かれた扇子で左の頬を隠した。
     あの強面の聶明玦が一度も放蕩者の弟をぶったことがないというのは江澄にとっては意外だった。そういえば彼のことを目に入れても痛くないほど可愛がっていると藍渙が以前苦笑いしていた。まさかこれほどとは。
    「これセクハラになっちゃうけどさ気になるからやっぱり聞いちゃうよ。もしかして体が動けないまま曦臣哥哥に襲われた?」
    「馬鹿。人の体を動けなくして襲うなんて、そこまで卑劣な奴だったら結婚なんてしていない」
     江澄の右手の薬指には、今や小さなアメジストが埋め込まれた白金の結婚指輪がはめられている。
     懐桑を殴った翌々日、二人は婚姻届けを出し、盗聴器が仕込まれていた白翡翠の指輪はペンダントトップへ姿を変えプラチナのチェーンに通され、今は江澄の胸元で輝いている。
     高校のとき少しでも触れれば噛みついてくる手負いの獣のようだった同級生にとうとう首輪がつけられたと思うのは、決して懐桑の思考が偏っているせいではない。
    「もっとも」
     江澄は高校当時よく浮かべていた皮肉めいた笑みを、丸みが取れて大人らしいすっきりした頬に今ふたたび湛える。
    「婚約解消しない、あなたと明日結婚すると言うまで経穴を解いてはくれなかったがな」
    「十分卑劣だね」
     人当たりがよく人格者だと世間で評されている藍大哥こそ案外とても厄介な人のではないかと懐桑はにらんでいる。
     兄の明玦は、古武道を通じて幼馴染である金光瑶(元は孟瑶で婚外子だった彼は父親に認知されたのをきっかけに改名した)と一度ひょんなことで仲たがいして大げんかしていたところ、同じく幼馴染である藍曦臣によって経穴をつかれ双方その場から動かなくさせられてしまった。挙句、仲たがいの原因が解消しないまま強引に仲直りさせられたのだ。
     古武道の世界大会で何度も優勝をかっさらってきたあの大哥が「あのとき、あいつにだけは逆らってはいけないと思ってしまった」と悔しそうに言っていた。段は古武道の師範もやっている兄の方が上のはずなのに。
     姑蘇財閥の宗主は、どうも持てる力のすべてを使って自分の思い通りに事をすすめるきらいはあるようだ。
     だからきっと彼が十歩離れたところから指一本で気絶させられはずの懐桑をあえて殴ったのにも別の目的があるはずだ。
    「あのとき一斉にスマホを向けられたでしょう?」
     そのおかげで懐桑を殴った直後の一部始終が撮られていた写真や動画までSNSで大拡散されてしまった。
     特に藍渙は江湖に顔を知られている財界の有名人だったので大騒ぎになった。
     江湖中が二人の修羅場を知るところとなり、江澄は男を惑わせ争わせる魔性のセレブとしてネット上で大批判を浴びて会社の株価が一時的に下がってしまった。
     双方の会社広報を通して謝罪コメントを出したのですぐに回復したが、自分の行動のせいで部下たちの努力が無駄になってしまいかねず江澄は非常にこたえた。
     その騒動があって、まだ二人が結婚したことはお互いの家族はもとよりごく身近な人々にでさえも伏せている。二人以外で打ち明けたのは懐桑が初めてだ。この会はお詫びとあのあとどうなったかの事後報告も兼ねている。
    「あの動画をみたら、もし色気むんむんな美人社長が自分のことを誘ってきても藍家の怖いお兄さんのことがちらついて断るでしょう。姑蘇財閥の代表藍大哥を敵に回せる男なんてそうそういないからね」
    「なっ。そんなに私がふしだらだとでも言うのか」
    「あのときは例の録音もあってそう思ってしまったんだろうね。曦臣哥哥、けっこう純情だから」
     あの動画が江湖で拡散したせいで大哥にも見られてしまい、なぜあれぐらいの拳を避けられんと逆に怒られてしまったと懐桑はぼやく。
     大学に入り直させられた際、幼い頃に習い始めずっと中断していた古武道も今無理やり再開させられているそうだ。ちなみに彼は留年と休学を繰り返しまだ大学生だ。
    「それは巻き込んで悪かった」
    「江哥が謝ることじゃないよ。それにお詫びの品として私の要望通り藍家秘蔵の宋代の山水画を贈ってくれたからまあ水に流して差し上げますよ、曦臣哥哥」
     懐桑は江澄の右手薬指で光っている結婚指輪に語りかけた。
     当初、藍渙は家宝の一つを懐桑へ渡すのを渋ったのだが、江澄が「勘違いで人を殴ったんだ。ひざまずいて鞭で叩かれてもしょうがないぐらいなのに詫びの一つもしないなら沢蕪君という号が泣くぞ」と怒ったのだ。
    「発信機はついているが盗聴器はないぞ。私も自分で確認したから」
    「……発信機はついているんだね」
     それに護衛もたくさんいる。
     明るい陽射しが辺りに燦燦とふりそそぐ中、レストランの客や通行人のふりして、こちらや周囲の様子をちらちら伺っている隙のない身のこなしの人たちが複数いる。まるで国の要人クラスの警備だ。
     古武道を嗜んで称号も持っているレベルの江澄がそれらに気づいていないはずもなく。
    「なるほど、江哥は盗聴されるぐらいなら曦臣哥哥に守られ慈しまれることを選んだわけだね」
     どちらを選んでも結局は藍大哥の用意した檻の中に入ってしまったのだなと懐桑はとても残念に思った。
     彼は江澄に決して恋をしていたわけでも好意を寄せていたわけではないが、美しく誇り高い孤高の獣として遠くからずっと眺めていたかったのだ。たとえ藍家に嫁いだとしても。
    「あの人に盗聴をやめさせるには外出時は護衛をつけるのが条件だったんだ」
    江澄はふうっと重いため息を吐き、グラスに残っていた濃厚な味わいの白ワインをぐいっと飲み干した。
    「当局の襲撃からあの人をかばって助けたとき、霊力をいくら与えても腕の中で私が血の気をうしなって冷たくなっていくのが相当トラウマになってしまったらしい」
     事件直後はしばらく一睡もできず、睡眠薬に頼りカウンセリングにも通ってようやく眠れるようになったが未だにごくたまにあの日の夢を見る、と打ち明けられた。
     藍渙が当時そんなに苦しんでいたとは江澄はまったく知らなかった。
     婚約をしてからは、江澄の前では暖かな春の日差しにきらめく湖のように彼はいつも朗らかで翳りなどちらりとも見せることはなかった。
    「君が危ない目に遭ったときいつでも駆けつけるようにしたかったんだ。結果的には君を四六時中監視する形になってしまったことは謝りたい」
    感情を何ら高ぶらせることもなく素直に謝られてしまえば、過去の自分の行いが原因だったこともあり江澄は何も言い返せなかった。
    そもそも彼を助けるためではなく、英雄になって死ぬために江澄は彼に向って放たれた銃弾に倒れたのだ。
    今思えばなんという幼稚で浅はかな考えだったのだろうと反省しきりだが、その身勝手さがどれほど深く藍渙の心に傷を残してしまったか、彼の口から伝えられるまで江澄は気付いていなかった。
    「私の知らない所で君が息絶えることだけは耐えられない」
     膝の上にのせられたまま江澄はぎゅっと強く抱きしめられた。江澄のこめかみに藍渙はその白い鼻先をうずめた。まるで襲撃されたあのときを再現するかのように。
    「――まさかと思うけど、曦臣哥哥は江哥のことを好きっていうより、襲撃のときに助けられなかった罪悪感から執着しているわけじゃないよね?」
    「いやそれはないな」
     江澄は頬から耳をうっすら赤らめて答えた。あの夜膝の上にのせられて聞かされた告白を思い出したのだ。
    「胸の傷の責任をとりたいと言って君の家に結婚を申し込んだけれど、本当は君の芯の強さに惹かれたから叔父に婚約を頼んだんだ。初めて叔父にわがままを言った」
    「私はあのとき生まれて初めて人に守ってもらった。藍家に生まれたときからずっと何十万といる従業員の生活や一族の命を、自分自身の命すらも自分で守るように求められてきたのに。君は私よりも古武道の段は低かったはずなのに私を守ろうとしてくれた」
    「病院で目覚めた後も体に傷が残ったのに君は私に恨み言ひとつ言わず明るい笑顔で迎えてくれた」「事業が傾きかけたときも私に弱音一つ吐かずに背筋を伸ばして嵐を迎え撃った。だが本音を言えば少しぐらいは相談してほしかったかな」
     江澄のどこに惹かれたか、どういうところが好きか、どれほど好きかたっぷり囁かれた身としてはもはや彼の愛を疑うことはなかった。
     深夜まで愛をこんこんと告げられて根負けした江澄は、無断で盗聴されていたことを許すことにした。
     翌朝主管にオフィスを移動しない旨と急遽休むことを伝えて婚姻届を役所に出し二人とも笑顔で証明写真を撮影した。
     結婚してから初めて君のために茶を点てたいと言われ、茶請けに餡のしっかり入った月餅を食べ抹茶を一服飲んだら江澄は夫にタタミの上へ組み敷かれた。
    「君がやっと私のものになってくれた」
    「あなたも私のものになった」
     夫は蕩けるような笑みを江澄に向け、二人は結婚して初めて交わった。コンドームがなかったのと彼と離れがたかったので江澄は精を体の奥に出すことを許した。
     明日にでも屋敷でいっしょに暮らしたいと請われたが、家規だらけで食事も口に合わない藍家の屋敷に入るのは嫌だ、しばらくは別居がいいと断った。彼は渋々ではあるが了承してくれた。
     その日の夜には夫を置いて自宅へ帰ろうと思っていたら、藍渙には藍忘機から江澄には主管と魏無羨から、それぞれ緊急の連絡が入った。藍渙の懐桑への暴行と江澄連れ去り動画や写真がSNSに拡散してしまった件だ。
     それぞれ財閥の広報や主管と相談し、謝罪コメントを出すことでひとまずは騒動の沈静化を図った。
     けれど当分の間パパラッチに追いかけ回される可能性があると藍渙に説得されて、二人ともリモートワークにしてビルの最上階であるペントハウスにしばらくひきこもることになった。
     江澄の身の回りのものはマンションからアシスタントに持ってきてもらい、食糧品類はビルに入っている高級スーパーに頼んで届けてもらい、江澄が主に料理している。
     部下たちとの会議や打ち合わせはリモートで今のところ済んでいるが、会議などでは言えない話などは麻雀ルームで麻雀をしながら話している。たまに夫も参戦してくる。
     下のフロアに会員制のスポーツジムがあり、そこには古武道用のトレーニングルームもあるので体がなまることもない。
    「むしろジムのトレーニングマシンのおかげで筋肉がついたな」
     江澄は二の腕の大きな力こぶを自慢げにみせてきた。ちょくちょく藍曦臣と手合わせもしているという。
     パパラッチから隠れるためとはいえ、どこからどう見ても彼ら二人は新婚生活を満喫していた。懐桑は頬がひきつりそうになったが扇子で隠した。
     今日も本当は懐桑をペントハウスへ招けばいいと言われたが、こちらに非があるのにさすがに呼びつけるわけにはいかないと断ったそうだ。
    「あれ、もしや私のことを軟禁生活から久しぶりに外出するだしにした?」
    「そんなことはない。あの人のいない所で一度お前とちゃんと会って謝罪をしたかったんだ」
     だがサングラスの奥の視線が泳いでいるようなのは気のせいか。
     今江澄が可愛らしい三匹の仔犬のTシャツとジーンズというラフな格好に不釣り合いな大きめのサングラスをしているのは、陽射し除けというよりも周りに世間を騒がせた姑蘇財閥の宗主の婚約者だと気付かれないようにするためだという。
     この生活もパパラッチがあきらめるだろうあと数か月ぐらいの辛抱だ、と江澄は言った。
     その話を聞いて藍曦臣が自分を殴った真の目的に懐桑は気付いてしまった。
     数か月後には、おそらくいやきっと旧友は子供をはらんでいる――なんやかんやと今のようにうまく言いくるめられて。
     あの人はきっと江哥を一生あの雲深不知処の最上階に隠すつもりなんだ。
     懐桑は実兄の友人のことが空恐ろしくなった。この修身界市でまことしやかに流れている噂話だが、藍曦臣が十代のときに亡くなった彼の父親は、かつて自分を襲い古武道の恩師を殺した当局の諜報員に一目惚れしてしまい、監禁して子供をうませたという。
     もしこの噂が噂でないのであれば彼は父親と同じ業を繰り返そうとしている。
     だが元来臆病者の青年は、知人の容赦のない企みについて実兄はもちろん江澄本人にも黙っていることにした。
     人の恋路を邪魔する者はなんとやらだ。懐桑だってまだ命は惜しい。
     誤解だったとはいえ殴られる直前まで、彼はこちらの首をへしおらんばかりの強烈な殺気を放ってきたのだから。
     懐桑は自分のお小遣いでは到底味わえない高級ワインを飲みながら、『知らないよ知らないよ、僕は何も知らないよ」と心の中で呟いた。

     一年後。
     懐桑は殴られて気絶したバーへ江澄に呼び出された。
     ほとぼりが冷めた頃にこのバーへ来たところ、出禁をくらわされるどころかあの写真が宣伝になって店が有名になったとバーのマスターにむしろ感謝された。ここ最近は男女の三角関係を描いたドラマの撮影にも使われたらしい。
     バーの内装もサービスも特に何も変わっていないが、去年と大きく違う点は、懐桑は大学を中退して画商を始めたということと江澄が頼んだのがお酒ではなくオレンジジュースだということだ。
     藍家秘蔵の山水画は複数の鑑定士に念のため確認してもらったところ、巧妙に描かれた贋作だった。おそらくは藍曦臣の手によるものだ。伴侶に怒られたからとはいえやけにあっさり渡してくれたと思ったらなかなか食えない男だと懐桑は再認識した。だが、それがきっかけで絵師を集めて本物と寸分違わない贋作を描いてもらい最初から贋作と提示して売るというビジネスを思いついたのだ。まだ始まったばかりだが順調といえる滑り出しだ。
     江澄はといえば、彼が去年予想した通り犬柄がプリントされたラベンダー色のマタニティドレスの下に大きなおなかを抱えている。来月には臨月だそうだ。
     このとき藍夫人は去年の秋の始まりに最後に会ったときとちがい、護衛も結婚指輪もつけていなかった。貴重な白翡翠のペンダントも。
     スマホはこのビルの最上階にある寒室という茶室に置いてきたという。
    「あの人とはもうやってられないから離婚する。今からこのビルを出るからお前も手伝ってくれ」
     今日思い立ったかのように、夫からの旅立ちにはいささか小さすぎるスーツケースを横において江澄は居丈高に言い放った。
     今の旧友は触れれば切られそうなぐらいすこぶる機嫌が悪そうにオレンジジュースをがぶ飲みしている。
     何があったかはわからないがこの旧友の脱走を手伝うことは、まちがいなく藍曦臣と姑蘇財閥を永遠に敵に回すに等しい。
     大哥が後ろについているとはいえ、しがない画商の懐桑としては「知らないよ知らないよ知らないよ」と踵を返して逃げたいところだ。
     しかし、藍家の匂いがするものを何一つつけていない江澄をみて丹田の奥深くにある小さな金丹が大きく輝いてしまった。
     こんなに反応したのは古武道を習い始めてから初めてかもしれない。
     彼は「まずいぞ、関わるな。今すぐ逃げろ」と警告する脳とは裏腹に、小さな麒麟の形になった金丹に引き留められたかのように席から立ち上がらなかった。
     ほどなくして魏無羨も合流し、超高層ビルの最下層にあるバーのボックス席はかつて三人で笑い合った放課後のマクドナルドに早変わりした。

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