潜移暗化「何故左手」
小さな両手で魏嬰の手を握ると自分の方に引っ張って掌と黒狐を交互に見る。
「何故だろうなぁ」
俺はそっぽを向いて自分の9本の尻尾をパタパタとわざとらしく動かした。
「後悔しかない。大事な人守りたい人場所を失った」
「正解」
「命と同価値の物を守りたい人に渡した。その代用で得た物で守れた者がいた」
「うん」
「でもその力でまた失って、君は独りになった」
俺の左手を優しく撫でるのに線を読んでいった、まるで物語を語る親の様に。
「でも君は本当の独りじゃないことを覚えていたかった。
誰か解ってくれる人は一人でもいると」
「不正解、俺は独りになってしまったんだよ、最期の最期で振り払ってしまった」
ぎゅうとまた小さな手が俺の左手を握る。
「覚えてるの?」
「教えてもらった」
俺は何か大事な事と人を忘れているそうだ、これまで再会した人達は覚えているのだが誰かを忘れている、自分自身もモヤモヤして落ち着かない。
「次は右手」
「駄目だ」
「どうして、早く出して魏嬰」
片手は左手を掴んだまま空いた手を俺に差し出したがさっきとは違う方向にそっぽを向く。
「魏嬰」
「無理だから、お前でも見えない」
「見てみないと解らない」
腰を上げて顎を乗せている右手首を掴むと力ら任せに自分の方に引っ張る。
「うあっ、お前力ありすぎだ・・・痛い」
引っ張る勢いで顔面から机に思い切り叩きつけられて、バンという大きな音が静室に響き渡り、
「痛い・・・ものすごく痛い」
「すまない、でも素直に右手を見せない君が悪い」
「多分額に傷が出来てるぞ。ひりひりする。俺は藍湛に傷モノにされてしまった。」
額と鼻は痛いのは本当だ、でも子供に力で負けるのが悔しかったので意地悪してみたくなった。
「顔を上げて傷をみせて」
ヒョイと顔を上げて藍湛の瞳とぶつかって、至近距離で見ると益々綺麗な顔立ちだなとか思っていたら
「少し赤くなって血が出てる。そんなに力込めたつもりは・・どうしよう」
「じゃあ、舐めて治してよ。」
冗談交じりで両眼を閉じて額を藍湛に押し出すと水気のある音がし始めて眼を開けた。
「藍湛・・藍忘機さん何をしてるの」
「君が言った、少し我慢。龍族の唾には傷を癒す力があるから大丈夫」
暫く舐められ最期には鼻先まで舐められた。
「うん、治ってる」
満足そうな顔しやがってこの子供は、子供の姿だけどもしかしたら俺より年上なんじゃないのか。
「こんなに恥ずかしい事されたら責任とってもらわないとな~」