「この度は……誠に申し訳ありませんでした……っ!」
床に額を擦りつける勢いで、土下座をする。
ベッドに腰掛けているアレイン殿下の顔は見えないけれど、困惑している雰囲気は伝わってきた。
「あ、アデル、顔を上げてくれないか? 俺はもう気にしていないし……」
「俺が気にするんですよ! だって俺、殿下にあんな酷い事……」
殿下を抱き潰した挙げ句、中に出してしまったのは勿論だけど。
首筋に噛み跡は付いてるわ、手首に痣は出来てるわで、俺が相当無茶してしまった事は想像に難くない。
更に最悪なのは、俺は自分が何をしたか、全く覚えていなかったのだ。
言葉を濁す殿下から断片的に聞き出した話を繋ぎ合わせると、どうやらオーシュ殿の術で前後不覚になっていた──らしい。けどそんな事をしてしまったのはオーシュ殿のせいではなく、俺が心のどこかで殿下に対してそういう欲望を抱いていたからだ。
殿下の事は大好きだし、大切にしたい。
それは紛れもない事実だが、ただその……ベッドの中だとちょっとだけ、悪い考えが浮かんでしまう事もあったというか。少し強引に、乱暴に責めてみたらどうなるかな、とか。泣かせてみたいなあ……なんて。俺ってそういう趣味があったんだろうか、などという懸念を抱いたりもしつつ、何とか押し殺していた訳だ。
全く心当たりがないなら、術のせいです! って言い訳が出来たかも知れない。だけど俺自身に心当たりありまくりなので、これは俺の責任としか言い様がないんだ。
「殿下、俺はどんな処罰も受け入れます。だから何でも仰ってください!」
頭を下げたまま、固い声で殿下に伝える。けど相変わらず殿下は困っているようで、うーんと唸りながら暫く考え込み、
「そ、それなら……」
ごほん、と殿下の小さな咳払いを聞きながら、俺は顔を上げてみる。すると殿下は苦笑を浮かべて、
「あの時はアデルの顔が見えなくて、その、少し……寂しかったし、怖かったんだ」
「あ゙あ゙あ゙、すみませんすみません!!」
「だから……いつもみたいにもう一度してほしい、というのは……駄目だろうか」
そう言って、今度は照れたように笑う殿下。
──え。
殿下の言った事を、俺は一瞬考え込んで。まさかそんな、と思いつつも、聞き返す。
「……ええと、それは、つまり。とても都合のいい解釈なんですけど、俺がまた殿下を抱く……という事で合っていますでしょうか」
「あ、ああ。そうだ」
赤い顔のまま、こくりと殿下が頷く。
「それ……俺にとってはご褒美にしかならないんですけど、いいんですか……?」
「アデルにしてほしい事を考えたら、こうなったんだ。何も罰を与えるだけが全てじゃないだろう?」
「~~殿下っ!」
あまりの嬉しさと愛おしさに、思わず飛びついて押し倒してしまった。
可愛い。なんて可愛いひとなんだ。俺の殿下は。
頬に何度か口付けていると、殿下が笑顔でこちらを見つめながら、俺の頭を撫でてくる。しかも何だか妙に嬉しそうな様子で。
「殿下? どうかしました?」
「いや、アデルはどんな時でもアデルなんだなって……」
「???」
頭上に疑問符を浮かべる俺の前で、ふふ、と小さく笑っている殿下。
むう。
殿下からのなでなでは相変わらず続いていて、謎の敗北感があるというか、腑に落ちないところはあるけれど。
そんな殿下も可愛くて、俺は彼の唇を自分のそれで塞いだのだった。
* * *
殿下は『いつもみたいに』と言っていたが。
そう言われると逆に意識し過ぎて、いつもってどんな感じだっけ……? と自分でも分からなくなってしまいそうだった。とにかく優しく触れる事だけを考え、
「……すみません。ここ、痛かったですよね」
殿下の服を脱がしながら、首筋にそっとキスをする。
「そうだな。確かにちょっと、痛かった」
「ゔっ……」
あれから数日経って噛み跡の痛々しさはだいぶ薄れたが、まだ完全に消えていない。
殿下の声には少し笑いが混ざっていて、責めるような口調ではなかったし、悪いのは俺だと分かっていても──改めて痛かったと言われると、やはりグサッとくるものだ。罪悪感でまたヘコみそうになったが、殿下はどこか照れ臭そうな笑みを浮かべて、
「でも……アデルにされる事なら、全部嬉しい。跡をつけられるのだって、嫌いじゃないぞ」
そんな殿下の言葉に、絶句してしまう俺。
……ああもう。殿下が俺に言ってくれたセリフじゃないけど、どこまで俺を喜ばせたら気が済むんだこの人は……!
また勢いに任せて殿下に触れたり、事を急いてしまいそうになるが、ぐっと堪える。
……そうだ。今日は優しくするって決めたんだ……!
俺は深呼吸をひとつしてから、殿下の首筋や鎖骨辺りに繰り返し口付けを落としていき──やがて辿り着いた胸の先端に唇を寄せる。ちゅ、と音を立てて吸ってみたり、舌で転がすように舐めていたら、そこはすぐに芯を持って硬くなり始めた。
「……ん、アデルっ……」
片方を舌先で、もう片方を指で摘まんで、くにくにと弄ぶ。
小刻みに甘い声を漏らしながら、身体を震わせる殿下。俺は思わず口を離して、
「ここもすっかり弱くなっちゃいましたね、殿下」
「……っ……」
へへ、と殿下に笑いかける。すると赤面した殿下が俺を睨みながら、両頬を手で挟み込むように、ぺちんと叩いてきた。
……ほんっと、かわいいなあ。
怒られているというのに、顔が緩むのが抑えられなくて。
すみませんと謝りつつ、殿下の機嫌を取るように、俺は彼の額にキスをした。