雰囲気ホラー/官→ナギ 黄色いカーペット。湿気とカビの匂い。ぼんやり濁った明かりが転々とついている。不自然に明かりがないところが目立つ。
既視感。それが最初に抱いた思いだった。来たことがないのに、見たことがある。部屋と部屋を繋ぐ廊下、壁はうっすらと模様のある壁紙が貼られている。どこにでもありそうな光景だと言えば、それまでだ。
しかし決定的に、これがただのデジャヴなどではないと言える。廊下の角を曲がると、また廊下。意味もなく回廊の形になった箇所、広々とした空間が出てきたと思えば、身体を横にしなければ通れないほどの細い道、そして、それらのどこにも……
「何もないであります」
隣の男が漏らした一言は、同意も否定も求めず、淡々と事実を述べていた。そう、ここには何もない。ただ廊下だけ、ただ通路だけが続く空間。入口も出口も扉も部屋もない。
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