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    さまなし

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    カヴェ曰く「何を見せられてるんだ」
    2023/04/04誤字修正

    #ゼン蛍
    #hailumi

    【ゼン蛍】当事者だけが気付いてない「だからそれはこの前も言っただろ。そこは――」
    「それは最新の論文で否定された。今の見解は――」
     頭上で交わされている、全く内容の分からない会話。最初はちょっとした好奇心で二人の会話を聞いていたけれど、チンプンカンプンで早々に理解するのを諦めた。だからそのままここにいても邪魔だろうとお暇しようと思ったのに、私は未だにアルハイゼンの足の間に座らされている(ちなみにパイモンはさっさと逃げ出した。ズルい)
     会話が始まる前から読んでいた本も読み終わったし、飲みかけだったコーヒーもお菓子もとうに尽きた。いい加減解放されたい。けれど立とうとすると逃がさないと言わんばかりに引き寄せられるのでどうしようもない。……流石にトイレに行きたくなったら行かせてくれるとは思ってはいるけれど。
     仕方なく今楽しめることを探そう。そう思って周りを見回してみたものの、手の届く範囲に私が楽しめそうなものは置いていない。元々本以外は無いと言っても過言ではないくらい他に物は無いし、その本も私には難しすぎて読む気になれず何かで楽しむことも絶たれた。
     うーんと悩んで、今ではすっかり椅子代わりになっているアルハイゼンに体を預けて何気なく動かした手が、私を支える彼の腕に触れる。
     少し触れただけで分かる筋肉。なんとなしに隆起した部分をついっと指でなぞるとピクリ、と背後の彼が反応した。見上げるとこちらを見る彼と目が合う。けれど制止の言葉はないから視線を戻して今度は左の手を取ってその平を観察する。
     自分とは全く違う、骨ばった手。自分の右手を重ねるとその大きさの違いがよく分かった。

     この手が時に剣を握り、本を広げ、――私に触れる。

     手の平全体を撫ぜるように手を動かせば、微かにざらつく指先。紙で切ってしまったのだろうか、細かい傷跡があることに気付く。中指のリングは彼の体温でほんのり温かく、手甲を固定するバンドは意外と厚みがあった。剣を握る時邪魔になりそうなのに、彼は攻撃の型によって器用に柄を握り直し普段その存在を全く感じさせない。
     そんなことを思いながら好きに触っていると、急にその左手に右手を掴まれる。驚いて顔を上げれば、アルハイゼンはしれっとした顔でカーヴェとの会話を続けていた。少し好きにし過ぎただろうかと視線を落としてじっとしていると、掴まれた手がゆっくりと解放され、完全に離れる前にするりと指を絡められた。そして少しだけ力が込められたかと思えば、すぅっと指を滑らせ私の指の背を撫でていき、ただ指が触れただけなのに、ぞわりと何とも言えない感覚に襲われる。
     これはまるで……。
     何を考えるんだと軽く顔を振って思考を散らす。
     少し抗議の意味も込めて両手で左手を握りこみ動きを止めれば、自由だった右手にその両手ごと包み込まれた。それが出来る程大きな手なのだと、少し驚いた。それから人差し指が私の左手の甲をトントンと規則的に叩くから、私も自分の右手を引き抜いて同じように彼の右手をトントンと叩いてみる。何も意味はないけれど、他にすることもない今ただじっとしているよりは楽しい。
     そうやって特に意味のない手遊びをして時間を潰していると、ようやく話が終わったらしい。今回は喧嘩にならなかったみたいで良かった。そう思っていたのに。
    「それより君は人が真面目な話をしてるのに、彼女とイチャつくんじゃない」
     ん? とその言葉に引っかかりを覚える。
    「何の話だ。普通に話をしていただけだろう」
     アルハイゼンの言葉に内心うんうんと頷く。けれどカーヴェは少し声を荒げて抗議してきた。
    「それのどこが普通なんだ! そもそもその座り方からしてイチャついてる証拠だからな! それなのに手を握ったり絡めたり……僕は一体何を見せられてるんだ!?」
    「ご、ごめん?」
     思わず謝罪の言葉を言ってしまったけれど、これは私たちが悪い……のだろうか。アルハイゼンが大きく息を吐くのが聞こえて、抱き締め直される。
    「羨ましいなら、君も好い人を作ればいいだろう」
     アルハイゼンでもそんなことを言うんだ、と私が驚いていると、それ以上にカーヴェが愕然とした顔をして一瞬言葉を失っていた。
    「きっ」
    「何だ」
    「君は一体誰だ?! 君はアルハイゼンじゃない!!」
    「はぁ? 君はついに目まで悪くしたのか?」
    「知らない、僕の知っている君はそんなことを言わないっ!」
     アルハイゼンの言葉を聞いているのかいないのか、耳を塞いでいやいやと首を振る。確かに意外な言葉を言ったとは思うけど、そこまで言わなくても。
    「大体君はっ」
    「……うるさい」
     うんざりしたような声で呟き、抱き締める腕に力が入る。終わったはずなのに始まってしまった。結局こうなるのか……。少しでも早く事が終わるのを願って、私は改めてアルハイゼンに体を預け直した。
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