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    さまなし

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    欲情とありますがエッなことは一切ないです。

    #ゼン蛍
    #hailumi

    【ゼン蛍】抱き枕と欲情 目を覚ますと、外は陽が傾き始めていて少し赤らんでいた。彼の腕の中、視線を上げると彼は私が起きたことにも気付いていないかのように本を読み進めている。小さくあくびをして出来るだけ邪魔をしないように指を組んだ両手を前に伸ばせば、私を支えていた右手が私を支え直す。
     アルハイゼンの家で本を読むとき、彼は何故か私を足の間に座らせたがる。何故そうなったのか、きっかけはもう覚えていない。それでも最初の方は遠慮をしたし、拒否の姿勢を見せたこともある。けれど何だかんだと気付けば彼の足の間にいて、それが何度も続けば抵抗する方が馬鹿らしくなるもので。
     背中を預ける形でいたのも、今では少しでもお互いが本を読みやすいように横抱きの形になった。慣れるとその体温の心地良さに気付けば寝てしまうことも多くなり、彼のゆっくり上下する胸が更に眠気を誘い、今日も彼の腕の中で眠る始末。
     こてん、と頭を傾けてその胸に寄りかかり、今日もまた眠ってしまったと、まだ眠気の残る頭で思う。少し視線を動かせば、彼の脇に置いてある私が読んでいた本。最近は毎回この本を手にしているけど、何度も寝てしまうせいでまだ読み終わらない。
     本を読みに来ているのに寝てしまうのは、アルハイゼン的にどう思っているのだろう。しかも今読み進めているのは彼が勧めてきたものだ。問題があるなら直接言ってくる彼だから、特に問題に思ってないのかもしれないけど。それでも少しだけ申し訳なさを抱いてしまう。だから実は最近思っていたことを、この際だからと聞いてみることにした。
    「ねぇ、アルハイゼンって私の事、抱き枕か何かだと思ってる?」
     本に向いていた視線がチラリとこちらを向いた。少しの沈黙の後。
    「……抱き枕に欲情するような性癖は持ち合わせていないが」
    「? 誰もそんな話はして、な……」
     アルハイゼンの言わんとすることに気付いてカッと顔が熱くなり、思わずその胸を叩く。痛い、と批難の声が上がるが全然痛そうに見えないし、悪いのはアルハイゼンだ。
    「真面目に聞いてるのにっ」
    「真面目に答えているだろう」
     付き合っているのだから、そう言われて正直悪い気はしていない。けれど恥ずかしいものは恥ずかしい。顔の熱が引かなくて八つ当たりのようにぽかぽかとその胸を叩けば、本を置いたアルハイゼンにその手を掴まれ動きを封じられる。ほら、簡単に捕まるほどの力なのに、痛い訳がない。
    「それで。何が言いたい」
     恨めしい視線を向けても返って来るのはいつもと変わらない顔だ。でも確かに唐突すぎる問いだったと言葉を改め、掴まれた手をそのままに問う。
    「どうして、いつもここに座らせるのかなって思って」
     結果寝てしまうのは彼がそうするからで、普通に座っていれば寝てしまうこともないはず。……うん、ないはずだ。だからまずは寝てしまうことに対してよりもそちらについて聞いてみる。
    「君に触れていたい。それだけだが」
     さらりと返された言葉に私は言葉を失う。そうなのかな、と思わなかったわけじゃない。けれど実際に本人から聞くそれは大した破壊力だった。この人はどれだけ私の顔を熱くさせれば気が済むのだろう。
     私の手を掴んでいた手が腰や背中に回り、体を引き寄せられると彼の顔が近づく。
    「だが、君が望むのなら、抱き枕扱いしても構わないが?」
    「本気で言ってるなら、流石に怒るからね」
     揶揄われてるだけだとは分かっているけど、もうっ、と少し怒ったような態度を取れば小さく笑われた。
    「それより、本はもういいのか?」
    「……それは皮肉?」
    「何故そうなる」
    「だって、わざわざ本を読みに来てるのに寝ちゃうから」
    「随分と今更な話だな」
     確かに今更な話だ。何度彼の腕の中で眠ってしまったことか。
    「でも、アルハイゼンが勧めてくれた本なのに」
    「気にしていない。さっきも言ったが俺は君に触れられているならそれで構わない」
     アルハイゼン本人から直接そう言ってもらえて安堵する。するとさらに彼の顔が近づいて額同士が触れる。その際に頬に触れた髪が少しくすぐったくて、安心したせいか思わずふふっと笑い声が漏れてしまった。
    「アルハイゼンこそ、本はもういいの?」
    「君を放っておいてもいいと言うなら続きを読もう」
    「……やだ」
     首に腕を回しぎゅうっと抱き付く。
    「今日のアルハイゼン、ちょっとイジワルだね」
    「そんなつもりはないが、そう感じさせているのなら君が随分とつれないことを言うからだな」
    「つれない?」
    「俺が君を抱き枕にしていると。なら君は俺を寝台がわりにしているのか?」
    「そんなことしてない!」
     腕を突っぱねて彼と距離を取る。断じてそんなことはしていない。アルハイゼンが足の間に座らせるから寝てしまうのだ、なんて彼のせいにしてみても、以前はどうであれ本当は嬉しくて、今では期待して来ているのだから。
     アルハイゼンと目が合い、自分が言った言葉がフラッシュバックする。私が言ったことは今彼が言ったことと何が違うというのか。
    「……ごめんなさい」
     そんなつもりは無かったけど、失礼なことを言ってしまったことには変わりなく、謝罪する。
     申し訳ない気持ちで知らず俯いた顔に右手が伸びてきて頬に触れた。そろりと顔を上げると親指で優しく目元を撫でられ、泣いているわけじゃないのにまるで涙を拭うかのように撫でた指に力を込められた。
    「謝る必要はない」
    「でも」
    「気にしていないものに謝られても意味がない。言っただろう、俺は君に触れていたいだけだ」
    「……うん」
     私に触れる手の動きは止まらず、頬や髪を撫でていく。アルハイゼンの言葉をそのまま受け取るなら、こうして触れている今もそういう気持ちでいてくれるのだろうか。一度引いていた顔の熱がじわりじわりとぶり返してくる。
     何と言っていいのか分からず続く沈黙と恥ずかしさで居たたまれず、とりあえず何か言わないと、と口を開く。
    「え、と……アルハイゼンがそんな風に思ってるなんて思わなかった」
    「理由もなく、君は他人に触れるのか?」
    「そうじゃなくて、アルハイゼンってあんまりそういう欲求みたいなのがあるように見えないから。その……そう思うのって私が好きだから、でいいんだよね?」
     アルハイゼンの手の動きがぴたりと止まった。少しだけ寄せられた眉根に何かいけないことでも言ってしまっただろうかと不安になる。
    「それ以外に何がある」
    「だってアルハイゼンって好奇心の塊みたいな人だから」
     ハァ、と溜息を吐かれて思わず小さく体が跳ねる。触れていた右手が顎を掬い上げ、強い視線が私を射抜いた。
    「先程からどこか噛み合わないとは思っていたが……君は俺がその好奇心だけで君に接していると言いたいのか」
    「そう、じゃないけど、もしかして私が思ってる以上に好かれてるのかなとは思ったよ」
    「好かれてるのかな、じゃない。君は君が思う以上に俺から好かれていることを自覚した方がいい」
     言っている意味がすぐに理解出来なくて動けなくなった私の反応を待っているのか、アルハイゼンはじっとこちらを見ている。ようやくその言葉を吞み込んだ時、私の体は燃えているんじゃないかって言うくらい熱くなった。
    「な、んで、そんな、だって、全然」
    「“そんな風に見えなかった”、そう言いたいのか?」
     痛めてしまいそうになるくらい首を何度も縦に振る。弾かれた手がその動きを止め、さらに言葉が続く。
    「なら、今すぐその考えを改めた方がいい。それと、そんな風に見えなかったと君は言うが、俺は分かりやすく接して来たつもりだ。貴重でもない本を勧めておいて何故、暇なら読むといいと本を貸し出さないのか。触れられるだけでいいのなら何故、毎回こうして座らせるのか」
     一度言葉を切ると、視線は外さぬまま再度顔が近づき、そして。
    「聡い君ならもう、理解しているだろう?」
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