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    【田内】節句祭2023

    #okdeeer_Tauchi

    レギュラー(シングル)税込400円 本拠地でひたすら同じような手法でかんたん鯉のぼりを量産しながら、そういえばダッツを強請られていた、とふと思い出す。
    「――節句祭で勝ったらダッツ、奢ってください!」
     部室の掃除をしながら、随分と思い切ったようにそう言ってぱちん、と手を合わせた後輩は、そういえばこれまで他のヤツらがダッツダッツ鳴いてるときも、困ったような顔で笑っていただけだった。
     俺に集ることに遠慮があるのかそれとも単に強請るのが恥ずかしいのか、これまで一度もそういった直接的な要望を伝えられたことはなかったように思う。それが決死の覚悟みたいな顔をして要求するのがちょっと高いアイスクリームなのだから、まぁ後輩というのは可愛いもんである。
     勝ったチームがダッツを得られる条件で了承した。つまり、緑が勝てば俺はダッツを六つ買ってくる必要があるわけで、これは受験に向けてこの春にバイトを辞めた懐には結構ダメージだった。しかもガリガリ君ならまだしもダッツである。メーカー希望小売価格351円(税込)の。それが六つやから……フフ〜ン、ちょっと考えるのやめとこか。
     一度了承してしまったもんを曲げるような俺ではないが、まぁまぁ頭を悩ませる問題であることはご理解頂きたい。できれば敗北は遠慮したいわけだ。
     俺は相変わらず運動制限中の身で攻め手に回れない分、節句祭中は本拠地に籠ってひたすら鯉のぼりを大量生産していた。傍には市場の水揚げみたいに、大量の鯉のぼりが積まれている。これは割と仕事した方じゃないでしょうか。
     戦況は繋いでおいたグループ通話から随時流れてきていて、俺は左耳のイヤホンでそれを聞いていた。三年は本部まで立てて随分とミッチリ作戦を練っていたおかげか、なかなか優位を取っているらしかった。大人気ないと言うべきかもしれないが、行事には常に全力の弊学年、ここで可愛い後輩相手だからとガチらないのはかえって失礼というものである。
    『弓道場前の一年の急襲、追い返した!』
     ガチガチもガチやな。同級生達の気迫に思わず笑いながら時計を見れば、もう残り数十分で合戦が終わるような時間だった。道理で腹が減るわけだ。
     ちらりと水揚げされた鯉のぼりの山を見る。三年生の青い旗は既に敷地内に三本立っていて、そのうちここにある一本と図書館横の一本はガッチリと防御を固めたので取られる心配はない。残り時間いっぱい弓道場の旗を守り切れば勝てるので、合理的に考えれば既にこちら側には積極的に攻める理由がなかった。
     しばらく鯉のぼり制作の手を止めてイヤホンから聞こえる戦況に聞き耳を立てていると、まだまだ諦めてはいなさそうな後輩達の様子に苦笑いが漏れた。分かってはいたが、この学校の生徒は全員負けず嫌いなのかもしれない。まぁ俺も人のことを言えたタチではないことは自覚している。
     俺はこの本拠地から一歩も出ていないから、外で同級生や後輩達がどんな動きをしているのか、このグループ通話の音声とたまに戻ってくるヤツらから聞く話でしか把握できていない。しかし時折わざわざ俺に「陸部の二年足はっっやくねえ!? こえーよ!」とか「お前また陸部でダッツの約束しただろ」とか言ってくる同級生がいるので、どうやらウチの子達が頑張っているらしいことはわかった。
     できれば後輩達には、行事は全力出して遊んで欲しかった。別に勝った時のご褒美の為でもなんでもいい。あとから思い返した時に、その全力さを笑えるなら一番いいと思っていた。アイツらが全力出して楽しむ為と思えば、多少俺の懐が痛むくらいは……まぁ、ダッツじゃなくてもええやんとは思うけど。
    『ちょっとみんな〜! 学園長出た! 金兜!』
     イヤホンから流れる最新情報に、思わずお、と声が漏れる。どうやら残り時間も少なくなったこのタイミングで大物が現れたらしい。攻め手がまだ残っていた。
     あと五本鯉のぼり作ったら俺も出てみるかあ、となんとなく思う。秒で他のやつに兜取られる可能性の方が高いけど、リード取ってるからと言って時間まで防戦というのも性に合わない気がした。トラックの先頭を走っていた時だって、前に誰もいないからと抜いて走るような真似はしたことがなかったはずだ。
     同級生達の参戦表明を聞きながら、十中八九他チームもこれを狙ってくるんだろうと確信めいた予想を立てる。想定よりずっと本気でこの行事を楽しんでいるらしい後輩達に、何故か安心していた。俺が引退しても、卒業しても、ご褒美アイス巡ってギャーギャーやっていてくれたらいいと思う。
     頭の中で今回の経費を計算し直す。あー、サーティワンのレギュラーってなんぼやったっけ。
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