世界が、職場が、狛枝が、おかしいのだとずっと思っていた。けれど、ある日思ったんだ。本当におかしいのは俺の方なのかもしれないって。
ぽたりぽたり。積み上げられた仕事の三分の一ほどを終えて、帰宅の途につく合間、あたたかな雨が降っていた。局所的なそれは俺の頬を濡らすばかりで、他のところにはシミひとつすら残しやしない。不思議に思って宙をみやっても、曇ひとつない星空が広がるばかり。なぜこんなことが?と首を傾げかけて、ああ、涙だからかとようやく合点がいく。
けれど、なぜ自分が泣いているのかわからない。なぜ湧き上がってきたものか見当もつかない。悲しいわけでも悔しいわけでもないというのに。なぜ、俺は泣いているんだろう。
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