倫理観ないなった「なんかつまんな〜い!ねぇレジちゃん、もっと楽しくてポイント稼げるの知らない?」
室内にもかかわらず武器を振り回し、行儀悪くソファの背もたれに座りながら彼女は言う。
楽しくてポイントが稼げる、ねぇ…。
そんな都合のいいものあったかと顔に手を当て考える。
つい最近依頼で貰った飴を口の中で転がし、ふと思い出す。
飴。そういえば彼からの依頼は楽しいかもしれない。運が良ければかなりのポイントを稼げるし、いつもより大人数でやればチャンスも生まれるかもしれない。
「1個だけ思いついたけど……マリルちゃん、お姉さんのお友達呼んでもいい?」
「いいよ!楽しみにしてる!」
先程の不貞腐れた態度とは一変し、輝かんばかりの笑顔を見せてくれた彼女にほっとする。
あまり彼女の機嫌を損ねたくはない。彼女とバディでいることが1番効率がいいのだから。
――
「はろーレジーさん。珍しいねキミから呼ぶなんて。」
虎の尾を垂らし、ヘラ〜っと笑いながら彼…小虎がやってくる。
彼は依頼と称して一緒に人狩りに誘ってくれる。律儀に報酬としていいとこの飴を持ってきてくれるあたり、奥底の人の良さを感じる。
「ちょっと楽しいことしようと思ってね。今日は依頼は関係ないわよ。」
「なんだ、頼ってきたわけじゃないんだ〜。で?その"楽しいこと"と…そっちの子は?」
「この子はマリルちゃん。私のバディよ。でね、今日はこの子と一緒に上位の人を狩ろうと思って!」
「楽しいことってそれか〜。キミのバディがいたらなにか変わるの?」
いつも通りの笑顔だが、トゲが隠しきれていない。私が私情で呼び出すのもリティカちゃん以外に居ないし、当然とも言える。
「うちのマリルちゃんはとっても強いし、最後まで戦うわよ。私たちと違ってね。」
「ふーん!じゃあいいかも!その話ノった!」
「ねぇねぇさっきから聞いてたら、バディであるマリルちゃんを置いて2人で楽しそうなことしてたってこと?」
ぷく〜っと頬をふくらませ、いかにも不機嫌ですと言わんばかりの顔でこちらを見つめる。
「だって依頼だもの。普段だったら見学料をとるわよ〜。」
「ずるーい!!今度からはマリルちゃんも入れてよ!!」
「報酬ちゃんと用意してあげるなら考えてあげてもいいわよ。」
「レジちゃんのケチー!!」
ぽこぽこと殴られるが一切痛くない。多分バディじゃなかったらそれなりに痛いんだろうな〜と思いふふっと笑みがこぼれる。
「……で、3人でやるの?」
「ああいや、トラくん以外にももう1人呼んであるわよ。」
「へー、どんな子?」
「女の子でね、暗殺の依頼を受けてて……ああ、ちょうど来たみたい。」
カランカランとドアベルの音が鳴る。
黒い服を身にまとい、カツコツとブーツの音を鳴らして入ってくる。室内だからかフードをとり、その鮮やかな金色の髪がふわりと揺れる。
「こんにちはレジーさん。今日は何か……あ。」
「あー!!!」
「あら、お知り合い?」
「うーん顔見知り?ていうか聞いてよレジーさん、この人この前ボロボロで放置されてたんだよ。」
「あら〜居合わせたら治療してあげたのに。」
小虎くんと彼女がお互いの顔を見合わせた瞬間、大きな声を上げる。かと思えばニヤニヤと楽しそうに顔を近づけて相手の失態を話してくる。
「ちょ、それ言うなよ!違うんだよレジーさん、元チームの人に殴られただけだって!」
「言ってたね〜。やられる前にやれなかったの?」
「やったけどやり返されたんだよ!」
お互い楽しそうに笑いながら騒ぎ出す。仕事以外でなかなか会わない2人だから、こんな楽しそうに話すんだと少し驚いた。
「ねぇレジちゃん、黒い服の人は誰?」
「ああ、マリルちゃんは知らないのね。彼女はラトスちゃん。たまーに殺しの依頼を手伝ってるのよ。」
「へー、ラトスちゃんは殺し屋なんだ。」
「どっちかって言うと暗殺者ね。奇襲が得意だから。」
「ふーん!」
きっとこの顔は戦ったら楽しそうという顔だ。これから一緒に戦うというのを忘れなければいいけど。
「はいはい!今日は作戦を考えてきてるから聞いてくれる?」
「作戦?いつも通り奇襲して危なかったら逃げればいいんじゃないの?」
「それはトラくんと2人だけだから逃げてるだけよ。アンタお姉さんのこと置いてくじゃない。」
「気のせいだよ〜一緒に逃げてるよ〜。」
「そういう事にしといてあげるわ。」
ヘラヘラと笑って、ちょっとイラッとするのも許して欲しい。小虎くんは勘が鋭いのかなんなのか、危険だと感じるのが早い。そのため私を囮にして逃げているが絶対に簡単には囮になってやらないと意地で逃げている。
「……で、まあ作戦と言っても単純よ。まず最初にラトスちゃんに奇襲をかけてもらう。そういうことはいちばん得意だからね。次に二手に別れて挟み撃ちみたいに戦う。それだけよ。」
「2人組か……ボクはちょっと動きづらいかも。」
「そこはマリルちゃんがいるから大丈夫よ。」
ラトスちゃんはマリルちゃんを2度見する。まあ確かに見かけだけ見ればただの子供だからわかる気がする。マリルちゃん自身も首をかしげるが、褒められるとわかったのか少しドヤ顔をする。
「マリルちゃんは戦い方が派手だもの。こうやって動いてねって言ってもあんまり聞いてくれないし。ラトスちゃんぐらい隠れるのが上手なら何回も奇襲できるんじゃないかしら。」
「…すごく適当だね。」
「だって作戦考えた後に報酬がないんだもの。やる気もないわよ。」
「そんなもんなんだ…」
「ちょっと待って、レジちゃんちゃっかり愚痴言わなかった?」
「いや?気のせいよ?」
ふふふと笑って誤魔化す。誤魔化しきれてないとかはどうでもいい。2人とも微妙に納得しきれてないような気もするが、結局は本番勝負だ。ここで細かく決めても相手の動きも分からない以上意味が無い。
「…じゃ、おれちゃんはレジーさんと組むってことか。」
「そうね。何回も戦ったから慣れてるし、最悪私の武器の範囲だったらトラくんの電気に感電しないし。」
「獣化すること前提なの?」
「いざとなったらよろしくね〜。」
「はぁ……は〜い。」
若干困り眉になりながら笑って答える。決定力があるとしたら小虎くんぐらいだから仕方ない。
「はい、じゃあこれで質問がなかったらもう行くわよ。準備して〜。」
「質問受け付ける気ないじゃん。いいけどさ〜。」
「マリルちゃんはもう準備おっけー!」
「ボクもそのまま行けるかな。」
「よし、じゃあ行きましょう!」
鼻歌を歌いながら部屋を出る。マリルちゃんは合わせて歌ってくれるが、なんだか呆れたような視線を感じる気がする。気のせいよね。
楽しい楽しい人狩りメンバーに人が増えて、年甲斐もなくはしゃいでしまっている。