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    三点リーダ

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    三点リーダ

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    マリオンと第13期の『ヒーロー』たちが対話をする雰囲気小話。

    09 ビリー・ワイズ マリオンがドアを開けると、ちりんという綺麗な音色が部屋に響いた。
     その音に驚いたように目を見開いたマリオンは、しかしものの数秒で険しい表情へと変化させると、この状況を作り出したであろう人物――ビリー・ワイズへと視線を向ける。
     
     
    「あ、マリオンパイセンだ!」
    「……これは何だ」


     当の本人であるビリーは、マリオンの姿を認めると元気よく手を振った。その挨拶を返すことなく問い詰める彼をものともせず、ビリーは首を傾げる。
     
     
    「パイセン知らない? これは『風鈴』っていうんだよ!」
    「それは知ってる。ボクは何で風鈴がここにあるんだと訊いているんだ」
    「HAHAHA~! そんなの、ボクちんが持ってきたからに決まってるヨ!」
    「……」


     部屋の窓に飾られていたのは風鈴だった。無機質な会議室では浮いて見える硝子製のそれは鮮やかな青色をしており、その下に吊り下げられた短冊が風にそよいでひらひらと揺れている。

     
    「ここってすご~く静かだから、何か音が欲しかったんだよね。でも、音楽とかは趣味が結構違ったりするから、偶然部屋にあった風鈴を持ってきたんダヨ!」
    「理由を聞いても『何故風鈴なのか』の意味が分からないな」


     にこにこしながら話された彼の言い分にマリオンは嘆息する。するとビリーは「えぇ~?」と不満そうに声を漏らした。

     
    「俺っちの読み的にマリオンパイセンはこういうの嫌いじゃないと思ったんだケド」
    「……」


     彼の指摘にマリオンは答えない。否定もしないという彼の反応を肯定と捉えたらしいビリーは、嬉しそうに口角を上げた。
     
     
    「パイセンって、日本に行ったことある?」
    「行ったことは無いが、話は色々と聞いている」
    「あ、そういえばヴィクターパイセンやレンレンは【サブスタンス】の回収で行ったことがあるんだっけ。オイラも行きたかったけど行けなかったんだよネ~」


     残念そうに机に突っ伏すビリーを冷ややかな目で見ながら、マリオンが対面の席に座る。話されている内容には興味があるのか、会話を打ち切ることはしなかった。

     
    「それもあるが、以前から話は聞いていた」
    「まぁ、ここにはリトルトーキョーがあるぐらいだから、知らない方が難しいカモね」
    「あそこには侍も忍者もいないがな」
    「えっ……」


     マリオンの発言に、ビリーは弾かれるように顔を上げる。ゴーグルから透けて見える瞳は、普段よりも大きく、そして丸かった。

     
    「何だ」
    「えっとぉ……。その話、誰から聞いたのカナ~って思って!」


     ビリーにしては珍しく、戸惑うような声が上げられる。どう反応すれば良いのか分からないといった調子で、彼の反応からは戸惑いがありありと浮かんでいた。
     
     
    「ヴィクターだ。それに日本へ行ったお土産として侍が使用するカタナというものを貰った。アイツの話は嘘も多いが、これに関しては信用しても良いだろう」


     そんなビリーの戸惑いに気がついていないらしい。そう言葉を返したマリオンが冗談を言っているという気配は微塵も感じられなくて。そんな彼の口から出てきた『ヴィクター』という名前に、ビリーは納得したように息を漏らした。

     
    「あ~……成る程……」
    「何を1人で納得しているんだ」
    「何でもないヨ! ヴィクターパイセンとマリオンパイセンのお茶目なところを見れちゃったナ~と思っただけ!」
    「それはどういう意味だ」
    「HAHAHA~! 細かいことは気にしな~い!」
    「おい――」

     マリオンの問いをひらりと躱すビリーに、彼の眉間の皺が濃くなる。追及しようと開かれたその口が言葉を紡ぐ直前――窓から心地の良い風が吹き抜けた。
     その風は2人の髪と共に、風鈴の短冊を揺らす。ちりんと不規則に流れる涼やかな音に、マリオンは聞き入るように言葉を止めた。
     
     
    「今、凄く良い風が入ってきたネ」


     風が吹き止んでから暫くして、ビリーが静かに言葉を発する。マリオンは先程まで音を鳴らしていた風鈴を見つめながら、穏やかに話し出した。
      
     
    「風鈴の音は日本で魔除けの意味があったらしい」
    「魔除け?」
    「風鈴は『風鐸』という青銅製のものが元になったと言われている。それから流行病などの災いを払うお守りとして用いられ、その後夏の風物詩として定着した。だから昔の硝子の風鈴は、魔除けの色である赤色が塗られているらしい」
    「へぇ~そうなんだ! パイセン、詳しいね」
    「アイツ――ブラッドがそう話していた」


     話した内容が受け売りなことをあまり好ましく思っていないのだろう。すらすらと話していたマリオンの顔が僅かに歪む。

     
    「あ、そっか。ブラッドパイセンは相当な日本フリークな上、マリオンパイセンの元メンター! だもんね」
    「不本意なことにな」


     ビリーの言葉に軽く返すと、この話は終わりだと言わんばかりにマリオンが顔を逸らす。
     そうして暫く沈黙が流れた後。ビリーは「そうだ!」と思い立ったように人差し指を立てた。
     

    「第13期の『ヒーロー』みんなで日本に行こうヨ!」
    「そんなの、現実的ではない」
    「少しぐらい夢見たって良いデショ? 絶対に楽しいと思わない?」
    「それは……」


     ビリーの提案にぴしゃりと言い放つマリオンだったが、続いた彼の言葉に黙り込んでしまう。それは、言葉よりも雄弁にマリオンの感情を物語っていて。

     
    「いつか、行けたら良いね」
    「……そうだな」


     その声に賛同するかのように、風鈴がちりんと音を鳴らした。
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