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    三点リーダ

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    三点リーダ

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    マリオンと第13期の『ヒーロー』たちが対話をする雰囲気小話。

    11 ガスト・アドラー ちくたくと時計の秒針が鳴る音が響く。そんな空間にマリオンの目の前に座る人物――ガスト・アドラーは、どこか居心地の悪そうに身体を動かしながら口を開いた。

     
    「なぁ、マリオン……。何か話さねぇか?」
    「今更こんな状況でオマエと話すことなんて無い」
    「いやいや、そんなことねぇって」


     マリオンとガストがこの部屋に入ってから、一体どれだけの時間が経過しただろうか。しかしその経過時間とは裏腹に2人会話という会話を行うこともせず、ただひたすらに時間を消費しているというのが現状で。
     
     
    「というかお前、どことなく機嫌が悪いのは何でなんだ?」
    「別に。いつも通りだ」
    「明らかに嘘だろ……」


     ふいと視線を逸らしながら答えるマリオンに、ガストが困ったように眉を下げる。

     
    「確か、昨日からこうだよな? レンには普通だったし……。俺が何かしたのか?」


     うんうんと唸りながら記憶を辿るガストに、逸らされていたマリオンの瞳が彼に向けられる。「教えてくれないか?」と懇願するようにガストが言葉を口にすれば、彼は口を尖らせながら言葉を放った。
     
     
    「……昨日、パトロールで子供を庇っていたな」
    「あぁ。【サブスタンス】の攻撃で瓦礫が降ってきた時な。能力使って子供の元に行くのが精一杯だったから、マリオンが瓦礫を破壊してくれて助かったぜ」
    「……」


     へらりと笑うガストに、マリオンが鋭い視線を向ける。彼の地雷を踏んでしまったことに気づいたらしいガストは、はっと息を呑むと下手に出ながらその理由を尋ねた。

     
    「えーっと、何か悪かったか?」
    「ボクなら庇うまでもなく子供を助けられた」
    「いや、そうだろうけど……。どうしてそれでお前の機嫌が悪くなるんだよ。確かにドジったかもしんねぇけど『ヒーロー』として市民を助けるのは当然のことだろ?」


     まるで子供のような言い分に、ガストは戸惑いの表情を浮かべる。するとマリオンは再び視線を逸らすと、呟くように言葉を漏らす。

     
    「ボクは、軽率な行動で命を落とした『ヒーロー』を知っている」
    「……!!」


     その言葉は小さな声だったものの、しんと静まりかえった部屋によく響いた。
     唐突に語られた『ヒーロー』の死という内容に、ガストは驚きで言葉も出ない。
     
     
    「【イクリプス】の攻撃から身を挺して市民を守った、凡人の癖にお人好しなヤツだった。駆けつけるために能力を使い、【イクリプス】に反撃することすら出来ず、命を落とした」
    「それって……」
    「オマエの状況に似ているところがあるだろう」


     ガストの言葉尻を拾い上げるように、マリオンが続きを口にする。

     
    「ソイツは『名誉ある死』だとか『勇気ある行動』だとか周りから言われた。守られた市民やその親族からは感謝の声が已まなかったと聞いている」
    「そりゃ、そうなるだろうな」
    「だが、そんなのは全部詭弁だ」


     ガストの同意を、マリオンは明確な意志を持って否定した。その語気の強さに圧倒されたように、ガストは目を丸くしてマリオンを見つめる。
     
     
    「死んでしまえばそこで全てが終わる。その先など、存在しない」


     生まれた時から【HELIOS】と関わってきたマリオンが口にすることによって、その言葉はとても重みのあるものへと変化した。
     当時のことを思い出したのか、マリオンは呆れたような、怒っているような、そして――悲しんでいるような、そんな複雑な表情を浮かべる。

     
    「だからあんな軽率な行動を褒めるだなんて愚行、ボクは絶対にしないからな」


     その表情は一瞬で普段通りのものへと戻り、今度は僅かに怒りを滲ませるとガストに向けて強く言い放った。その言葉を向けられたガストはというと、何かを言い返すこともせずにただマリオンをじっと見つめていて。

     
    「何だよ」
    「いやぁ……」


     マリオンが疑問を口にすると、ガストは人差し指で自分の頬を掻く。どこか言いにくそうに口ごもる彼に「早く言え」とマリオンが一喝すると、ガストは少し照れたように言葉を放った。


    「心配してくれてるのかなって思って」
    「は?」


     ガストの口から放たれた予想もしない言葉に、マリオンは何を言っているのだと言わんばかりに顔を顰める。その表情に気づいていないのか、ガストは頬を緩めながら続きを口にした。 

     
    「態々それを指摘してくれたってことは、俺にそういう行動をして欲しくないってことだろ?」
    「……相変わらずおめでたい思考をしているな、オマエは」

     
     マリオンが呆れたような視線をガストに向ける。はぁ、と態とらしく吐かれた溜め息に、ガストは苦笑を零した。

     
    「ははっそうかもな」
    「ふん……」


     ガストの言葉に、マリオンが軽く鼻を鳴らす。
     ちらり、とガストを窺うように覗かせた菫色の瞳が、彼の感情を何よりも雄弁に物語っていて。

     
    「くれぐれも、ボクを失望させてくれるな」


     どこか祈るように告げられたその言葉に、

     
    「――あぁ。約束するよ」
     

     ガストは力強く頷いた。
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