自室で試作をしていた時の事だ。
肉の切り身を塩と胡椒でシンプルに焼いただけ、それなのに十分旨いとネロはひとり口角を上げた。
目玉商品というわけではなく、普通に陳列されていたがよく見ると上質な肉という、市場での掘り出し物が大当たりだったと気分がよくなる。
更に手を加えたいなとスパイスを並べネロは悩む。
ひとつずつ試してみたいぐらいにいい肉だったが、量はそれほど多くはない。絞り込まなければと塩と胡椒のみの状態で何度か味見を繰り返しながら吟味する。
方向性は決まった、けれどあと一押しが足りない。
ひとりうんうん悩むネロの鼻に、ふと届いた香りがあった。上品な華やかさに滲む魔力の正体を察すると同時に閃いた。
するりと頬を撫でる煙をそのままに、ネロは猛然と手を動かす。
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