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    konegi8tak

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    konegi8tak

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    最魔津
    数年前に同人誌に収録したもの。

    #最魔津
    theMostMagicalOfTsu

    終わったり始まったり「欲しい」

     その姿を見た時、純粋にそう思った。
     好みの服を見付けた時のように、美しい宝石をみつけた時のように、そのおぞましき姿を目にした時に、渇きにも似た欲望を感じた。
     今まで見た中でも類を見ないおぞましい悪霊。とてもとても強くて恐ろしい、誰もが目を背けて逃げ出す存在。それを手に入れることができたなら、どんなに素敵なことかしら。
      美しさと強さと恐ろしさは同じもので構成されている事を私は知っている。綺麗は醜い、醜いは綺麗と言ったのは誰だっただろうか。弱って消える寸前のそれをなんとか捕まえた時に私は喜びに震えた、とても可愛くて素敵な私の「プリンちゃん」。運命的の出会いに感謝をして、一人きりカプセルに口付けをした。

    「……い、おい。起きろ。目を開けるんだ」

     誰か、どこかで聞いたことのある男の声。体を揺すり「目を覚ませ」と声をかけてくる。いつの間に気を失ってしまったのだろう、世界制服を目論む超能力者集団である「爪」が調味市を襲い、第七支部を壊滅させた霊能力者、霊幻新隆の弟子である超能力少年、影山茂夫が本部の構成員と幹部集団である5超の一員、植物使いの峯岸と応戦しているのを助太刀しようとして、それから……
    『おい、青二才』
     目を開けると、そこにいたのは不機嫌な顔をした若い男の幽霊。その姿を捉えた魔津尾は天敵に出会った小動物の如く目を見開き、がばりと起き上がり、さっきまで気を失っていたとは思えぬ俊敏さで後ろに飛び退き距離をとる。
    「アナタ……どうして此処に居るのよ!」
     逃げたはずじゃないの?震える声と怯えた瞳。仕方がない。魔津尾の目の前にいるのはこの世の何よりも強く恐ろしい悪霊なのだから。
     最上啓示、かつて世間を賑わせた稀代の霊能力者……その成れの果ての大悪霊。
     自ら命を絶った彼は強力な悪霊となり、その怨念を晴らすべく人々に取り付いては人生を狂わせて殺してきた。しかしそんな彼も影山茂夫との戦いに破れ、霊能力者であり悪霊使いである魔津尾に捕らえられ、そのまま彼の使い魔となる……筈だった。
     除霊され、傷つき力は失っているといえど、その凶悪な霊魂は魔津尾の手に負えるものでは無かった。
     やっとの思いで霊力を込め呪符を貼った小瓶に封印したは良いが、霊力を常に注ぐために常に小瓶を持ち歩いていたのが裏目に出、調味市を襲った超能力者達と争った際に瓶を割られ、野に放たれた禍々しきその姿。その場にいる者共の生気を喰らい、己を襲った植物達すら取り込み。阿鼻叫喚の地獄と化すかと思ったが、影山茂夫の説得により、その場の誰も命を落とさず。そして悪霊は消えた筈だった。
    『何も危害を加えられて居ないくせに、お前はずっとのびていたじゃないか……男のくせに情けない。お前が眠っている間に全て終わったんだ……もしも少年が奴等に敗れたならば私が行こうかとも思っていたのだが……あれを見てみろ』
      悪霊の指差す先に緑色の大樹が聳え立っている。そのフォルムはまるで、何処かで見たことのあるものであったが、あまりにも規模が大きすぎて魔津尾の脳では処理が追い付かない。
    「……あれ、もしかして」
      スーパーで、サラダバーで、洋食の付け合わせで、日常的に見慣れた緑色の野菜。いや、それにしてはサイズが違いすぎやしないだろうか。まるでこの世界は出来の悪いミニチュアのようにも見えてくる。なんとも滑稽な情景に、思わず魔津尾は声を出して笑った。
    「アンタがやったの?」と聞けば『まさか』と悪霊が答える。
    「じゃあ……」
    『勿論、先程の植物使いでも無い……少年がやったんだ』
    「影山茂夫……たしかに、あの子ならやりかねないわね」
     影山茂夫。若干十四才の少年、彼の超能力はあまりに強大であり、人智を越えた奇跡とも呼べる行為を何度も起こしてきた事を、魔津尾はその目で何度も見ていた。だから、このジオラマのような世界にそびえ立つ青々としたブロッコリーも「彼がやった」と言われれば、なんとなく納得をしてしまった。
    『あいつらと一緒になってのびている場合じゃないぞ、そろそろ残党狩りのために警察がやってくる』
     あいつら……本部からやってきた人工超能力者達。 いまだ意識が戻らない彼らを残して魔津尾と最上はその場から離れる。

     もう道と呼んでいいのかすらわからない程に荒れた道路、割れたガラスを、転がる瓦礫を避けながら魔津尾は歩く。
     数日前、この街を歩いていた時にこのような光景を想像できただろうか。この崩れた街は、元に戻るのだろうか……かつては何度も起こってくれと願った革命は、ただの暴力であり、破壊だった。
     傷つき倒れている人間を時々見かけたが、一般人ではなく爪の構成員達だった。死んでいる者は居なかった、この規模の暴動で死者が出ないとはなんという奇跡だろう。介抱のために倒れている構成員に近づこうとする魔津尾に対し最上は『放っておけ、情けをかけている余裕など、今のお前には無い』と咎めた。
    「これからどうなるのかしらね……街も、そしてあいつらも」
    『どうもこうもしないさ、壊れた物は新しく作られる。出ていく奴等も居るだろうが、復興が進めば新しく人も入って来るだろう。あいつらは……ああいう馬鹿どもは昔から居る。革命だなんだと、安っぽい選民思想を吹き込まれた阿呆が騒ぐんだ。クワと鎌、ゲバ棒と火炎瓶……今回は超能力を使っただけだ』
      白いヘルメットをかぶり首に手拭いを巻いた若者達が山荘に立てこもり「革命だ」と騒いでいる。青臭いフラストレーションを「革命」だなんだと薄っぺらい大義名分で飾り立て、破壊衝動を発散するためのお祭り騒ぎ。
      この悪霊にしてみれば“爪”も昭和の学生達も同じなのか。と魔津尾はなんだかおかしくなった。
    『昔、人探しを頼まれた。学生運動にのめり込み家を飛び出した息子を見付けて欲しいと』
      それはテレビに出演するようになる以前の話である。 当時、高校生であった最上は唯一の家族である母が病で倒れた為、学校を中退せざるをえなかった、地元の工場で働く傍ら、失せ物探しや人探しなど、霊能の依頼を請け負っていた。報酬など無いに等しい。そうすることで自分が働いて家にいない間、近所の住民に病に臥せる母親を看てもらっていた。そうやって依頼が増え、噂を聞いた地元の新聞局が取材に来た。
     そんなおりに一人の依頼人が来た。霊障を解決した際に取材を受けた新聞記事の切り抜きを握り締めた彼女は、最上が中学生だった頃の担任であった。国語の教師である彼女は、本を読むのがが好きだったが小遣いが少なく満足に本を買えなかった最上に、図書室には無いロシア文学や漢詩の本を貸してくれたものだった。
    「学生運動に身を投じるうちに、過激派の学生達と知り合って、そのまま感化されいって……もう、何ヵ月も連絡が取れないの」
     最上がまだ中学校に在校していた数年前までは、活発で、歳よりも若く見らていた筈の彼女は心労のためか実年齢よりもずいぶん老け込んで見えた。
     恩師の為と依頼を無償で請け負った最上は直ぐに彼女の息子を探し当てた。彼女の息子はN県の山の中に居た。
      その死体は獣と虫に食い散らかされ、無残なものだった。 死体の側には大学生らしき青年の霊がぼうっと立っていた。その顔は酷い暴行を受けたのだろう。ぶくぶくに腫れ上がって紫色をしていた。おそらく絞め殺さられたのだろう。捻った電気のコードがぐるりと首に巻かれていた。
    『どうして……どうして……』
     掘り出された死体の前で、死してなお現実を受け入れられない青年は虚ろな目をして誰も聞くものがいない問答を繰り返す。犯人は対立組織でも警察でも暴力団でも無い……身内だったという。
     ささいな対立からの集団リンチ。 世間的には下火となった学生運動。それでも残っていた彼らの組織はその思想をどんどんと過激なものにしていった。それはいつ国家権力に潰されてしまうのでは、組織が消えてしまうのではという不安や、身内から裏切り者や組織を抜け出すものが現れる畏れと疑心暗鬼から来るものだったが、彼らの内側にある獣達の行き場の無い暴力性を解消させるためには十分だった。彼らの獣はついに同朋を食らい、自らの手足を、腸を食らい。そして……
    「最上くん……私は、自分の子が誰かを殺すような、そんな思いをしないように。平和なこの時代に、誰も殺さない、誰にも殺されない……好きな本を読んで良い……戦争なんて終わったこの時代に生まれた事を祝福するために“和史”をいう名前を付けたのよ……それなのに、この子はどうして……」
      泣き崩れる教師を見て、当時の最上は彼女を哀れに思ったが、彼女の息子には少しも同情をしていなかった。むしろ、己が生活のために棄てなければいけなかった「学問」というものを、せっかく親の金で受けることができているのに、それを無駄にして「学生運動」なんてお祭り騒ぎに興じ、馬鹿なことに命まで無駄にした、どこまでも救いようのない愚か者だと思っていた。
    『馬鹿なやつらだ……自分が利用されている事にも気付かない。ただの“駒”でしかないくせに』
      それに喜びを感じているんだ。質が悪い。と悪霊は苦々しく吐き捨て先程の爪の構成員達や、自分や、そして過去に出会った誰かに向けて言っているようだと魔津尾は思った。
      最上啓示自身もまた、傲った者の一人だった。 行き場の無い怒りを、悲しみを絶望を、この世への復讐……世直しという言葉で飾り付け、ひたすらに八つ当たりを繰り返していた。

      瓦礫を避けながら朝焼けの街を歩く。行くあてはない……なんて、言えたら格好が付くのかも知れないけれど、どうやら家は無事だったようだ。
    「アナタ、これからどうするの?」

    『……さあな、貴様はどうするんだ?』
    そうね……魔津尾は空を眺め、少しだけ考えた後、おどけたように肩をすくめる。
    「別にどうもしないわ。いつも通りよ」
    『まともに生きようとは思わないのか?悪霊と手を切って、霊能力など封印して、まっとうな仕事に就こうとは』
    「あら、霊能力者だって真っ当な仕事でしょ?確かにカタギの仕事では無いかもしれないけれど……でも、私は自分の才能を活かしているだけ。これが私の“まとも”なの。これからも残った子達と生きていくわ」
    『そうか……』悪霊の体がふわりと宙に浮く。
    『では、せいぜいその力で生きてみろ。悪霊使い』
      幽霊の姿が薄くなり、一陣の風と共に消える。
     秋の空は高く、蒼い。 頬に当たる風が気持ちいい。残ったものは清々しいほどの喪失感。きっと、鳥かごから出た鳥ってこんな気持ちなのでしょうね。と魔津尾は思う。
     鳥籠などとうに無いものだと思っていた。しかしいざ「総て終わりました無くなりました」と言われると、それはそれで言い様のない心細さを感じるものだ。
      雨が降ってくれたら良かったのに。魔津尾は空を眺めながらぼんやりと思う。
      雨が降ってくれていたら、この頬を濡らすものをごまかせたのに。



    『私なりに考えたんだ』
     ローテーブルの向かい側に座る悪霊は宣う
    『貴様の側に居れば、少年の行く末を見守るのに都合が良いのでは無いかと。私は貴様の事をただあの場に居合わせて漁夫の利を得た三流霊能力者だと思っていたが、どうやら貴様と少年の間には何かしらの因縁があるようだからな…爪と言ったか?あの集団の中に貴様も居たんだろ?同胞の中には未だに何らかの形であの霊幻新隆とかいう似非霊能力者と関わっている奴等も居るようではないか』
      我が物顔で悪霊はリビングで寛ぎ、茶を啜る。
      あの別れから数日後、二度と現れないかと思っていた悪霊は、まるで数字遠出をしていた猫の如く、さも当然な顔をして戻ってきた。
    『それに、この部屋は心地が良い。元々霊道の上に建てられているようだが、どうやら周辺のそれらを無理矢理この部屋に集中させているようだな…どのような術を使っているのかはわからないが…飼っている悪霊だけでは物足りないのか、それとも“活き餌”のつもりかな?並みの人間ならば三日と持たず発狂するだろうな。よくもまあこんな部屋に住み続けられるものだ……しかし、それ故に飢える事はない……悪霊ならば。の話だが』
     インテリアに混ぜて置かれている呪具の数々と見て悪霊は笑う。霊道…その名の通り霊達の通り道だと言われている一種の地場を灌漑工事よろしく無理矢理集めて一つにまとめ、自分の部屋に通るように作り替えた。並の人間であれば無事では済まないであろうほどの障気がこの部屋には満ちている。まがりなりにも爪という組織の(下っぱではあるが)幹部を務めていた魔津尾であるから生活していけるのだ。それもこれもすべてはかわいい「悪霊ちゃん」達のため。動物を飼うとき、彼らにとって一番快適な場所とは“生息地と限りなく同じ自然のある環境”なのだそうだ。この部屋はいわば彼ら悪霊が住みやすいように環境を整えた水槽である。
    『……ところで、先程から頭を抱えているが……具合でも悪いのか?』
     よくわからない持論を振りかざされて、魔津尾の頭は痛くなる。項垂れる姿を心配した悪霊ちゃん達が側に寄ってくる。
    『霊障か?』と伸ばされた手を制して睨み付けるが、意地の悪い笑顔は崩れない
     なに普通に戻ってきてるのよ。私の涙返しなさいよ、いや、勝手にセンチメンタル気取って切なくなってた私も私だけれど、戻ってくるの早すぎなのよアンタ。
    「言いたいことは山ほどあるけど……とりあえず、一つだけ条件があるわ」
     悪霊使いの家に厄介になるなら、悪霊使いの作法に従ってもらおう。なに、簡単な事だ。
    「私にアナタの事を教えてほしいの。手元の悪霊について知るのは、私にとってとても大切なことなの。別に簡単な事で良いわよ。どこで生まれてどうして死んだか。なにが好きで何が嫌いか、語れる範囲で教えてほしいだけ……もちろん、私だってアナタが知りたいことを、語れる範囲で教えてあげる」
     アナタの事をもっと知りたいし、私の事も知って欲しい。だって、一時でも惹かれた相手だもの。

    「さぁ、お互いの話をしましょう」
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