Noir 研ぎ澄ました刃先が、音もなく紙面に踊る。
見本と寸分たがわぬ、むしろ更に流麗な線が、無垢なページを埋めていく。
――書道はいかがでしょう。
恩師の提案が間違っていたことはほとんどない。
――集中力と空間認識能力。しかも、何かを生み出すことができる。
「俺にそんな器用な真似ができるでしょうか、先生」
「やってみたらどうです。向いていると思いますよ」
師はからりと笑いながら、
「何より、悩みの時間が潰れる」
と言った。
藍色のインク壺にきらめくペン先を差し込んで、慎重に水滴を落とし、深呼吸。
当初だいぶ大味だったヒュンケルの筆跡は、今は魔界の飾り文字で数ページを埋めつくすまでに上達している。
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