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    NazekaedeG

    @NazekaedeG

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    NazekaedeG

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    8〜9割近く書いたけど「見どころは……どこだ……?」となってお蔵入りしたリュカアリ。

    これを完成させるかどうかを悩んでます。

    #リュカアリ

    禁断の果実は酸いた味だった。あの時知恵の実を囓らなければ恋だと気付かなければ、こんなに苦しくなかったのに。


    最初は、気にも止めてなかった。
    『記憶喪失の女がSeed隊員になった』と最初聞いた時は、「Seedはそんな素性の怪しい奴を引き入れるほどに人手不足なんだな」と思った位だった。
    Seedは嫌いだ。嫌いだが、会う前からSeed隊員になった奴も一緒に疎むことはない。そんなことをしたら、自分が嫌悪するSeedと一緒だ。
    そんな訳で心象は良くなかったが、パルモさんに言われて挨拶くらいはしようとついていった。そのくらいの心持ちだった。
    だから、最初会った時は驚いたものだ。
    太陽に煌めく金糸、澄んだ若葉色の瞳。そして。
    「初めまして!これから宜しくお願いしますね」
    今までに会ったどんな奴よりも邪気のない笑顔に、今思い返せば惹かれていたのかもしれない。
    「……おぅ、よろしく」
    その時のオレはその心境の変化に目を背けて、ぶっきらぼうに返事することしか出来なかった。


    アイツ……アリスは、それから急速に周りに馴染んでいった。
    本人の努力の賜物だろう。『お近付きの印に』、と皆にプレゼントを配る姿も何度も見た。
    …大抵は昼寝スポットの一つである、木の上からだったが。
    (マジメちゃんは大変だな)
    自分が姿を現せば、きっとアリスは誰にでも向ける笑顔で話しかけてくるのだろう。それが、なんとなく面白くない。

    ――何故なのかは、分からないが。

    それに、大人達からはこの頃アリスと比較されて小言を言われることも多くなってきた。「彼女はこんなに頑張ってるんだから、お前もやれ」という内容で。うんざりである。
    (まぁ、アイツは生真面目だけど、どことなく抜けているんだよな)
    彼女には、ついつい手を出したくなる不思議な魅力があった。何度、その行動に突っ込みながら手を貸したか、もう数えてない。
    それもこれも、アリスが生真面目で誠実な性分の女性だから。
    そう気楽に考えていた。だから、あんなことを聞いてしまったんだ。


    ***


    それは、アリスがリグバースに来て半年くらいした時。季節がすっかり秋めいて、空気が肌寒くなってきた時だろうか。
    一度だけ。アリスへ、恋愛についてどう思うのか、聞いたことがある。
    「あんた、恋人とかつくらないのか?」
    その時の答えは、予想外の内容だった。
    「私、過去がないじゃないですか。」
    突然言われた内容は、記憶喪失について。あまりにも馴染んでいたから、忘れてたこと。
    声はいつもと同じ調子だけど、どことなく笑顔がかげっていた。
    「何者か分からない私では、相手にご迷惑おかけすると思うんです。」
    自身の過去に汚点があって、露呈した時に付き合ってる相手にも波及するかもしれない。
    突然に自身の過去を知る者が現れて、そのまま引き離されてしまうかもしれない。
    懸念は無限大にある。
    「そう考えると、怖くないですか?」
    自嘲気味な声色は、いつもの彼女と違った。冷たい風が、彼女の髪をさらう。
    手で触れられそうな距離なのに。まるで、ガラス板を隔てた向こう側に彼女がいるような、そんな気配におののいた。
    「それを思うと…ちょっと。恋愛するのは、気が引けちゃうんです」
    そう、結論付けているのか。アリスの、自身へ向ける視線の厳しさと不安定さが、如実に現れる瞬間だった。
    「そうか…。すまなかったな、変な事を聞いて」
    無理して笑うアリスに、あの時は謝る他無かった。
    薄氷の上に立つような危うさの上に、彼女は形成されている。だから今、アリスを無理に歩ませる訳にはいかない。いつ足場が割れて落ちるのか、分かったものではない。
    「いえ、こちらこそすみません。リュカさんだけです、こんなこと話せるのは。」
    今となっては顔が広くなったアリスの、思わぬ言葉に驚いたが、振り返ってみると確かにそうかもしれない。
    皆に良い顔をしているアリス。そんな彼女が頼れる人間は、そう多くないからである。
    その中に何故か自分がいるのがおかしく思えたが。どうにも危なっかしいせいで放っておけずに、柄にもなくついお節介を焼いていたから、だろう。
    決して他意はない。ない、はずだ。
    「このような者ですが、どうかこれからも仲良くして欲しいです。」
    しかし、彼女にとっては大事な話し相手、と思ってくれているのだろう。
    少し震える声で言われたら、頷くことしか出来ず。
    「勿論。あんたが嫌じゃなければ、な。」
    リュカの返事に、アリスの昏い顔に光が戻った、ように見えた。どうやら自分に嫌われるのを怖がってたように見える。
    上手く言葉に出来ないが、その言動になんとも不安になる態度だ。
    杞憂で終わればいいが、と、つい言葉を続けた。
    「なぁ、辛いことがあったら、ちゃんと相談するんだぞ。あんた、すぐ無茶するから」
    「はい、分かりました」
    そう回答するアリスはすっかりいつもの顔に戻っていた。不安の芽は無事に摘めた気がして、リュカはほっと胸を撫で下ろした。
    この時の感想は、「なんて危なかっしい奴」。
    あいつが転がり落ちた時には、手を差し出せる距離にいないと。いつか消えてしまいそうな不安定さが、心配だった。


    だから、そのやりとりをしてからは、友人以上、恋人未満の距離が一番である、と思うようにしていた。
    欲を孕んで彼女に触れることは許されないが、挫けそうな彼女を支えるには十分な距離。
    存外、この位置は心地良かった。いつまでもこのままでいて良いように感じていた。
    彼女から許される間は、友人でいるよう努めたい。あの時確かにリュカはそう思っていたのだ。


    ***


    それなのに。
    いつの日からか、それだけでは満足出来ない自分がいる。いることに、気付いてしまった。
    最初のきっかけは、ジュリアンの手を引くルーシーの姿。
    いつもの光景だ、と横目で見ながら歩いていたら、向かいにアリスがいた。
    声を掛けようか、と思ったその時。
    二人の様子を見ていたアリスの目が、一瞬だけ。硝子玉に見えた。
    その表情がにわかには信じられなくて思わず瞬きをしたら、彼女はもういつもの顔に戻っていた。
    「あ、こんにちは、リュカさん!」
    呆然としていたら、自分に気付いて先にアリスの方から声を掛けてきた。あれは幻だ、と言わんばかりに、見慣れた笑顔を貼り付けて。
    もしもあの瞳を見なければ、きっといつもの風景の一枚にしていただろう。気付いてしまった今は、もう戻れない。


    …失礼かもしれないが、あの時。少しだけ安心したのかもしれない。
    (あのマジメちゃんだって、人の子なんだな)
    清廉潔白、真面目一辺倒に見える彼女の、奥底に眠るエゴに触れられた気がしたから。
    それは自分しか知らない、アリスの心の闇。
    先日のアリスは、リグバースの皆に嫌われるのを、何よりも恐れているようだった。きっと、今までの模範的な行動や親切を行う根幹も、きっと皆に『嫌われない』ように。
    あの時は何故なのか、分からなかったが。
    もしかしたら。
    (アリスは、欲しいのだろうか。)
    心の隙間を埋める存在を。
    彼女にとっては輪郭を失って、もう形が分からない『家族』を。
    (…それを言うんだったら。オレも、欲しい)
    自分の手から零れ落ちてしまった、自分の『家族』を。
    アリスは無意識なのか分からないけど、『家族』を想起させるものを避けている。先程のルーシーとジュリアンが良い例だろう。
    きっとそれは、自分と同じ空虚を抱いているから、なのかもしれない。
    その隙間をお互いで埋め合うことが出来れば。彼女にあんな顔を、もうさせなくてすむのだろうか。
    ――と、思い至った時に。
    (…おいおい。何を、考えているんだ)
    自分に当てはめて、同情するなんて。なんと烏滸おこがましい。
    でも、きっと。彼女の唯一かぞくになれたなら。きっと居心地がいいのではないか、なんて。
    (それは。アイツの為ではなくて、オレの為じゃないか)
    とんでもなく自分本位で甘っちょろい考えなんだ、と一蹴したかった。


    ***


    「夜間パトロール、ねぇ……」
    最近、不審者が夜によく目撃されるから。夜間パトロールを実施する、と通達があった。
    一瞬「自分のことか?」と怯えたが、中身を聞いて安堵したのは秘密だ。
    「二人一組で行動します。」
    てきぱきとスカーレットが指示を出し、パトロールの準備が整っていく。
    今回の巡回は、アリスと組むことになったようだ。
    「宜しくお願いします」
    「はいはい。まぁ、ちゃっちゃと終わらせようぜ」
    ペアで組まされる相手が誰であれ、面倒であることは変わりない。やる気のない返事にアリスは苦笑した。

    【二人でちょっとお話する】

    「あ、みささぎさんとひなちゃん」
    「パトロールですか?」
    「はい、そうです」
    「いいな〜、ひなもパトロールしたい」
    ひなが興味津々な様子でリュカとアリスを見ている。
    「駄目だぞひな、こんな時間に出歩いたらこわ〜いお化けに会うかもしれないんだぞ?オレとアリスは、お化けがいないか確認してるんだから」
    脅かすように両手を挙げるリュカに、ひなはぷるぷると震えた。
    万が一でも、夜に外へ出るなんて考えてほしくないから。これはリュカなりの優しさだ。
    だから、次は自分の番。
    アリスが膝を折り、ひなに目線を合わせて優しく笑う。
    「だからひなちゃんはちゃんと家にいて、みささぎさんをお化けから守ってあげてね」
    この物言いは、ひなが自身のことを『強い』と思ってるから。こう言った方が、ちゃんと言う事を聞いてくれるのを知ってるからだろう。
    「分かった!ひな、おかあさんをちゃんとまもるの!」
    「良く出来ました。……みささぎさん、すみませんが宜しくお願いします。」
    「はい。アリスさんもリュカさんも、ありがとうございます。ひなったら家を飛び出したくて仕方無かったようなので」

    【文章繋ぐ何かを入れる】

    「リュカもアリスちゃんも、お化けに気を付けてね!」
    「おう、ひなも気を付けろよ」
    屈託なく笑うひなに手を振り、二人を見送ると
    先程『お化け』を話題に挙げてから、身体の動きがぎこちないような気がする。
    「……大丈夫か?」
    そっと耳打ちすると、不自然なまでにびくりと身体を強張らせる。
    「だ、大丈夫です。いきましょう」
    聞き慣れないと分からないが。少しだけ、声が震えてる…?まさか。
    一つの可能性が脳裏によぎったから、リュカはアリスに手を伸ばす。
    「まぁ、大丈夫だとは思うが。足元暗いし念の為だ、手を繋ごうぜ」
    そして相手の返事を聞かずに有無を言わさず手を掴む。経験上、向こうは「大丈夫です」で断るだろうから。

    彼女は、甘え下手だ。

    お化けを怖がらず、「任せてください」と笑ってた彼女。
    …だがそれは違う。彼女は、怖がれなかったんだ。
    手を握ったから、分かる。彼女の身体は、震えていた。
    安心させるために手を握り直すと、隣から息を呑む音が聞こえた。
    「いくぞ」
    それだけ言って手を引くと、アリスはついて来た。
    顔は見えないが、きっと安心しているだろう。ほっと息を吐く音が、遠くに聞こえる。

    本当に、危なっかしい奴。

    この『マジメちゃん』は本当に、甘え下手だとしみじみ思う。
    人を惹きつけて止まない温かさと、気付けば遠くへ行ってしまいそうな儚さを両方纏う彼女。
    そんな脆い彼女の『安心』になりたい。隣に並ぶためこいびとの権利が、欲しい。
    思考がそこへ至った時に、無性に彼女を抱き締めたくなって驚いた。
    (……おい、これは……不味いんじゃないか?)
    手の届かない存在に、こんな想いを抱くとは。思わず頭を抱えたくなる話だ。
    この獲物を手中に収めるのはとんでもなく苦しい道程だってこと、分かっているのに。
    それでも、諦めたくない。
    あの空虚に囚われた彼女を暴いて、この腕に閉じ込めて護ってあげたい。


    ――これが、オレの恋の始まり。禁断の恋の味は、あまりにも酸っぱかった。


    ***


    初めてリュカに会った時、アリスは不安でいっぱいだった。
    自分のよすがは名前と僅かな記憶だけ。常識として保持している内容だって怪しいし、なんならここでは役に立たない可能性だってある。
    だから、値踏みされるような視線は当たり前だと思った。思ったからこそ、アリスは目一杯笑った。
    自分の不安を悟られないように。自分が居ても良いと思われるように。
    「初めまして!これから宜しくお願いしますね」
    これで、警戒を解いて貰えればいい。アリスの願いはそれだけだった。


    そして、街の人の困り事には積極的に関わるようにしていった。
    好きな物を把握してプレゼントするのは好きだった。相手が笑顔になってくれれば、それで良い。
    だが、リュカには相変わらず避けられている気がして、少し寂しく思った。
    (リュカさんは、あまり私のこと好きじゃないみたいですから)
    何故、こんなにリュカのことを気にかけるのかよく分からないまま、月日は流れ。
    少しずつ、リュカとも会話が出来るようになり。彼に渋々ながらもお願いしても良くなってきた。
    やっと彼とも打ち解けてきたのだ、と喜んでた頃。
    リュカからあんなことを聞かれるとは、予想外だったのだ。


    それは、秋のはじめの頃。
    木枯らしが吹き、少し着込まないと見回りが大変な季節だった。
    「あんた、恋人とかつくらないのか?」
    突然そう言われ、頭が真っ白になった。
    (こい、びと……?)
    考えたことすら、無かった。
    自分のような不完全なニンゲンが、恋人。
    それは、
    あまりにも、
    (恐ろしいこと――)
    そう思ったら、封をしていたモノが這い上がってきてしまった。ていの良い言い訳が口から溢れて止まらない。言うつもりなんて、無かったのに。
    はっ、と我に返ると。寂しそうなリュカの瞳が、心に焼き付いた。
    「そうか…。すまなかったな、変な事を聞いて」
    (なんで、そんなに寂しそうな顔をするんだろう)
    私のことの、はずなのに。
    「いえ、こちらこそすみません。リュカさんだけです、こんなこと話せるのは。」
    後半の言葉を発したのは、殆ど無意識だった。
    自分のことはあまり話す気にならなかったのに、リュカにはつい言ってしまうのだ。
    ――何故なのかは、分からないが。
    「このような者ですが、どうかこれからも仲良くして欲しいです。」
    リュカに、彼にだけは、嫌われたくない。これは、もう祈り縋る願いのようなものだ。
    「勿論。あんたが嫌じゃなければ、な。」
    柔らかい声に、安心した。やっと仲良くなってきたと思えたから、また振り出しに戻ったら辛い、と思ったから。
    「なぁ、辛いことがあったら、ちゃんと相談するんだぞ。あんた、すぐ無茶するから」
    心配そうに覗き込まれ、心臓がびくりと跳ねた。
    それを隠すように、いつもの笑顔を作る。
    「はい、分かりました」


    ***


    少しずつリグバースで知識と思い出を積み重ねていき、不安だった常識も大丈夫と言えるようになってきた頃。
    そんな状態になっても、アリスにはどうしても分からないことがあった。
    今、彼女の瞳に映るのは、ジュリアンの手を引くルーシーの姿。
    姉弟が家に帰る。きっと、家では母が待っている。なんの変哲もない、日常の1ページ。
    しかし、アリスには、その温かさが理解出来なかった。

    家族とは、なにか。

    遠い記憶の彼方に行ってしまった『家族』の虚像は、今もアリスを蝕んでいる。
    (家族、かぁ……)
    よく耳にする、『家族』というフレーズ。正直ピンと来ない。どんな風にその人と関わり、どんなことをするのか、分からないから。

    一緒に暮らしたら、家族になるのだろうか。
    それなら、同じ屋根の下で暮らすリヴィア署長やスカーレットは、家族になるのか。
    でも、マーティンとセシルや、エルシェとプリシラを見てると、何かが違う気がする。もっと気心の知れている、と言えばいいのだろうか。

    血が繋がっている者で一緒に暮せば、家族なのだろうか。
    ランドルフとユキを見てると、血の繋がりが必要とは思えない。それに、シモーヌ達を見ていると、今は父親が離れていても、帰ってきたらきっと家族の一員になるのだろう。

    答えの出ない問いが、リグバースで普段過ごしている中、影のように付き纏う。
    無性に寂しい日は、ペットのブラシがけを念入りに行ってしまう。つやつやと梳かした毛に顔を埋めると、冷たい心が少しずつ温かくなる気がしたから。
    ふ、と思い出す。
    (恋をして、結婚すると、その人と…『家族』に、なるんだっけ)
    心を傾けることの出来る人。隣に立ってくれる人。
    そのような気持ちになれるほどに。好きだと言える人が出来たなら、このがらんどうな心は埋まるのだろうか。
    そこまで考えて、愕然とした。
    (なんて、傲慢なことを…。)
    これでは寂しさを紛らわせるだけに、相手を利用しているに過ぎないではないか。
    その為に結婚するのは、相手に失礼な気がしたから。
    (私が本当に『好き』だと胸を張れる時までは)
    しばらく恋を封印しよう。あの時確かにアリスはそう思っていたのだ。


    ***


    それでも、意識してしまうことは度々発生する。
    それが恋なのか、それとも別の感情なのか分からないままに季節は過ぎていく。
    そんな不安定な気持ちに線を引くことになったのは、唐突だった。
    「ねぇアリス!あなたもパジャマパーティーに参加しない?」
    そう誘われて行ったパジャマパーティー。
    仲の良い女友達だけで行うイベントは、とても楽しい。
    その中で出た話題は、自分には無関係と思ってた恋の話。
    以前、大樹の広場の前でしていたように、皆の話に相槌を打っていよう。そう思って耳を傾けていたのだが。
    「アリスは、誰とならデートしてみたいって思う?」
    突然自分に向けたルドミラの言葉は、正に爆弾だった。
    「えっ!?か、考えたことないです」
    「そうなの〜?じゃあ、目を閉じて想像してみて。この街にいる人を思い浮かべた時に、誰とだったらデートしてみてもいいか。」
    ルドミラに促された通りに目を閉じて、想像してみた。
    誰と一緒にいたら。この孤独を埋めて貰えるだろうか。
    その時脳裏によぎったのは、あの秋の夕焼けの姿。寂しそうで、でも優しげな、灰色の瞳。
    いつも軽口を叩きながらも、背中を支えてくれる人。
    「リュカさん……」
    ぽろっと、その名を言葉にしたのは無意識。

    ――そうか。自分は、リュカさんのことを。

    気付いた時には、顔がどんどんと林檎色に染まる。どうにも気まずく視線を左右に揺らしていると。
    「うふふ、アリス可愛い〜!」
    ルドミラが抱きついてくれて、ちょっと安心した。こういう時はどうしたら良いか思い付かず、フリーズしていたから。
    (次会う時、どんな顔をしたらいいんだろう)
    こんな些細な事に悩むほどに、あっという間に心が一色で塗り染められる。
    恥ずかしい、と思う気持ちが大きいが。それでも一つの問いに解答が出て、視界が明るくなった、とも思えた。
    きっと、自分を空虚だと思わない。
    もう影に怯えることもないだろう。


    ――これが、私の恋の始まり。齧った恋は酸っぱいけれど、その酸味すら愛しいと感じられたのだ。
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