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    NazekaedeG

    @NazekaedeG

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    NazekaedeG

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    リュカの誕生日に……と思って書いてたけど間に合わなかった代物。
    後日仕上げます…!

    ※リュカと付き合う前の時間軸です。

    #ルンファク5
    lunfaq5
    #リュカアリ

    微睡みの蝶と、優しさの温度と、冬の月の26日。

    その日、リュカは朝からふわふわとしていた。夢見心地といえばいいのだろうか。
    「ふぁ……」
    今日は仕事が休みの日。だから日が高くなる時間まで惰眠をむさぼっていた。(尚、彼は仕事の日でもよく寝坊するのだが、そこは今回追及しない。)
    常時睡眠不足なので、寝起きでもまだまだ眠たいのはいつものことだが、今日はやけに胸が高鳴っている、気がする。一体何故だろうか。
    ――自分の誕生日である27日まで目前だからだろうか?
    (そんな、誕生日を楽しみにしてどきどきする、だなんて……子供じゃあるまいし)
    今までの誕生日だって「楽しみにしてない」と言ったら嘘になるが、流石にここまで浮ついた気持ちにはならなかった。
    ――いや。今までと違うことに、一つだけ、心当たりがある。
    (…………アリス)
    春に現れて住み着いた、今では立派な町の住人。素性は分からず、苦手なSeedに属する、正反対の性格の女性。だけど、どうにも気になる存在。
    彼女は今まで、リグバースに住む面々をいつもお祝いしてくれていた。
    ……期待し過ぎてはいけないが、もしかしたら。自分の誕生日も、祝ってしてくれるだろうか。
    (少なくとも……嫌われては、いないはずだ)
    以前に、彼女へ色々と嫌われかねないことをやらかしたが、それでもアリスはいつも笑ってくれていた。最近はちょくちょく一緒にお出かけにも誘われるし、差し入れだって貰う仲だ。
    「………ったく、ガラじゃねぇな」
    なんで、アリスからプレゼントを貰えるかどうかを不安に思うのだ。どうにも彼女のことになるとネガティブになりがちだ。
    弱い心に喝を入れると、不満の代わりにぐぅ、と腹の虫が鳴った。
    「あー……メシを食いに行くか」
    自分らしくないのは、きっと空腹だからだろう。少しは腹に物を入れたら気持ちが落ち着くはずだ。食事を摂るために、リュカはこのリグバースで唯一のレストランへ向かうことにした。


    ***


    そうしてリュカが着いたのは、レストラン「気の向くままに」。ここは街の住人にとって憩いの場であるし、自炊をしない者にとっての生命線でもある。後者であるリュカがいつもの席に向かうと、そこには既に先客がいた。
    (あれは……)
    アリスと……あれは、マーティンだろうか。向かい合って座る二人は談笑していたようで、なんとも穏やかな空気が流れている。
    一体、何の話をしているのだろうか。
    (……なんだこれ、もやもやする)
    彼女が絡むと、どうにも感情が乱される。理不尽な感情であるのは否定しないが、面白くない気持ちをどうにか晴らしたい。少しからかえばすっきりするかもしれない、と、リュカは真っ直ぐに二人の元へ向かうことにした。
    「あ、リュカさん」
    先に自分のことを気付いたアリスが、笑顔で手を振る。そのふにゃっとした雰囲気にいささか毒気を抜かれるが、いやいや一言物申すぞと足を踏み出した瞬間。

    ふらり。

    まるで、床が抜けて雲の上を歩くような感覚に、思わず踏鞴たたらを踏む。なんでだ、と思う間もなく、ぐらりと視界が反転した。
    「え、リュカさ………!?」
    「おい、リュカ!」
    二人の声が、やけに遠く響く。目は光に眩み、物体の輪郭が霞んでぼんやりとしていく。まるで、全てがリュカを置いて遠ざかっていく、ような。
    (なん、で、いきなり、)
    ぶれていく輪郭が霧散し、世界がブラックアウトしていく。暗闇に染まる視界の端に、ちりちりと光の粒が浮かぶ。蝶の鱗粉を想起させるそれは、自分を他から切り離すために現れたのだろうか。
    (いや、待ってくれ、誰か――)
    平衡感覚を失ったリュカが、まるで藻掻くように手を伸ばした先に掴めたナニカにしがみつく。しかし、そのナニカは急なことでバランスを崩したのだろう。
    「ひゃあっ!?」
    もつれて一緒にどたりと転がり落ちた。
    (なんだろう、温かくて柔らかいような…………)
    ナニカをぎゅっと抱き込むと、なんとも落ち着く香りがした。しっくりとくる抱き心地が良くて、リュカをゆったりと眠りの世界へいざなってくれる。
    「リュカさん、しっかり……しっかりしてください!」
    耳元で叫ぶ優しい声を聞きながら、リュカの思考は泥濘ぬかるみに沈んでいった。



    ***



    あの後、アリスとマーティンは気絶したリュカをどうにか抱え、大慌てでリグバース診療所へ駆け込んだ。
    「しかし、先程は大丈夫だったか?まったく、リュカはいつもアリスに迷惑をかける……」
    「い、いえ!特に怪我もしてないので大丈夫ですから!」
    いきなりリュカがアリスを引き寄せて倒れたのには、その場にいる皆が吃驚した。がっしりアリスを抱え込んでいたから、彼女を引き剥がすのに一苦労したのは言うまでもない。
    先程のことを口にしながらも、二人は焦る気持ちを抑えながら会話を探す。
    「しかし、リュカさん……大丈夫でしょうか……」
    「あいつはそんなやわな奴ではないから、心配する必要はない……大丈夫だ」
    しかし最後はリュカの身を案じる言葉がループしてしまう。出口のない会話を繰り返し、二人は待合室のソファに腰掛けて結果を待つ。

    どれだけの間、待っていただろうか。

    そわそわと焦れながら待っていた二人の耳に、ぱたんと扉の開く音が届いた。リグバース診療所の院長であるシモーヌがやってきたのだ。
    「お待たせ、二人とも」
    「シモーヌさん!あの、リュカさんは……大丈夫ですか?」
    シモーヌのの診断結果が部屋に響いた。
    「あぁ……。風邪、だな」
    「かぜ」
    聞き慣れない言葉のように、アリスは抑揚なく言葉を繰り返して瞬きをする。初めて知った単語のような反応のアリスに、シモーヌは苦笑した。
    「数日の間、安静にして薬を飲めば治るだろう。厄介な病気ではなかったことを喜ぶべきだな」
    「それはまあ、そうですが……」
    シモーヌの言うことは一理ある。大病ではなく、薬だってある。すぐに治る病名で良かったのは事実。
    だけど、アリスは悲しげに眉を下げたままだった。
    「明日は、折角のリュカさんの誕生日なのに……」
    数日の間寝ていないといけない、ということは、彼の誕生日もベッドの中になるだろう。そのことにアリスは肩を落としていた。
    「……アリスが気に病むことはない。タイミングは確かに悪いが、体調管理が疎かになっていたリュカの自己責任だろう」
    アリスを慰めるためだろうか、マーティンは厳しい言葉を投げる。でも、マーティンだって意地悪でこんなことを言ってないのは承知している。
    だって先程も、マーティンとアリスは「リュカの誕生日にどんなことをするか」サプライズの打ち合わせをしていたところだったのだから。
    「でも……彼だって、好きで病気になった訳ではありませんし……」
    尚も困った様子のアリスが、どうしたら良いか分からず手をこまねいている。そんな彼女を見て、シモーヌはニヤリと笑った。
    「だったら、リュカの看病をしてやったらどうだ?」
    きっと、喜ぶぞ。
    何故か自信満々なシモーヌに、アリスは懐疑的な目を向ける他ない。その隣で、マーティンは真面目に考え込んでいる。
    「そうでしょうか……。私、看病は素人ですよ?マーティンさんは、どう思いますか?」
    きっと否定するだろう。そう思い尋ねてみたが、予想外の返答がマーティンから返ってきた。
    「まぁ……一般的には、嬉しいと思う」
    弱っていた時、誰かに世話をしてもらえるのは、嬉しいことだ。マーティンはそう補足した。
    「そういうものなのでしょうか……」
    ここでは自分以外の全員が賛同している状態だ。形勢の不利を悟り、アリスは弱気になりながらも観念する他無かった。
    「……リュカさんが、それで喜ぶなら」
    本当に素人の看病、しかもリグバースの住人になって日の浅い自分でいいのだろうか。不安を振り払うように、リュカの容態を確認しようととりあえず触ったおでこが、熱い。
    「熱が凄いですね……」
    最初に彼を見た時から頬が赤かったので、きっと朝から熱があったのだろう。よくもこの状態でレストランまで来れたものだ。
    「確かに熱が酷いが、先程解熱剤は処方した。悪いが、風邪なら容態が落ち着いたら家に連れて行って欲しい」
    個人経営の診療所であるが故、病床はそんなに多くない。もっと大きな怪我や病気をした者のために、ベッドは空けておきたいのだ。
    「分かりました。えっと、マーティンさん……その、リュカさんを家まで運ぶ件ですが」
    「あぁ、分かってる」
    皆まで言わずとも、とマーティンが一つ頷いた。それくらいの男手を気安く貸してくれる、リュカの友人はとても心強かった。
    「まったく、こいつはいつも面倒をかけるな……すまない、アリス」
    口から飛び出る憎まれ口とは裏腹に、マーティンは彼の容態を心配そうに見ている。その軽口は、リュカとの心の距離の近さ故だろう。
    「いえ。私も心配ですから」
    自分は、まだその距離にはいない。積み重ねた時間の重みを感じて、アリスは弱々しく微笑んだ。


    ***


    暗闇の中、蝶が舞う。ひらひらとリュカの周囲を踊っている。
    (あれ、は…?)
    赤のような、青のような色彩の蝶が羽ばたく度に、虹色の鱗粉が散って周囲を照らす。あちらには真夏の海、こちらには紅葉の並木道。通常、肉眼で見ることなど叶わない、幻想的な光景が広がっていた。
    (あぁ、これは、夢だ)
    そうだ。こんな景色、見れるわけがない。それに気付けば、そわそわしていた気持ちが落ち着いた。
    しかし、どうしてこんな夢を…?
    ぼんやりした思考のまま、身体がゆらゆらと揺れている。海で泳ぎ疲れた時に、波に身を任せて浮かんでいる時のように。
    (海か)
    海は良い。潮騒はいつでも心地良く、磯の香りは生命の活力に満ちている。
    また今度、海へ魚でも釣りに行こうか。マーティンやルーシーと釣果を競ったり、釣った魚を料理が得意なプリシラやアリスにお願いして捌いて貰って皆で食べたり……
    (あぁ、また行きたいな)
    去年の海へ思いを馳せていたら、突然揺れが収まった。それと同時に、ふわりと柔らかい温もりがリュカを包む。
    この温度は知っているような気がするのに、あまり思い出せない。
    (昔……どこかで……)
    どうにか昔の記憶を掘り起こそうと、脳内のメモリーを洗い出す。

    あれは……自分が幼い頃、パルモの元ヘ引き取られた直後。

    パルモはいつも忙しくて、小さかった自分は足手まといなのだと痛感していた。
    (「早く、自分も一人前になりたい」って、あの時は思ってたな)
    いや、それは今もか。リュカは思わず首を横に振った。
    だからそう、いつも、パルモがせわしなく働く背中を見つめることしか出来なかった。
    そんな役立たずの自分が、毎日時間を切り詰めて仕事と自分の世話を両立させてるパルモへ向かって何かお願いするなんて。ましてや、「今日は身体がだるい」なんて、そんなこと。
    (いえない)
    言えなかった。不安そうにしているパルモへ、繕うように笑うことだけが、リュカに出来る唯一のことだった。
    「だいじょうぶだよ、パルモさん」
    リュカは精一杯背を伸ばす。震える足を悟らせないよう、必死に虚勢を張ってパルモに告げる。
    「ひとりでも、だいじょうぶだから」
    本当はふらふらするなんて言えない。
    足取りが覚束おぼつかない原因は熱なのか、背伸びの結果不安定になった足元なのか分からないまま。
    そうだ、そしてそのまま倒れた時に包まれた温もりだ。
    「リュカ、リュカ!しっかりしてクダサイ!」
    あの時甘えたかった。でも、甘えられなかった。
    「パル……モさん……」
    まだ父と呼べない己を、許して欲しい。言葉にならない懺悔を繰り返しながら。

    蝶は舞う。はらはらと舞い散る。記憶の狭間を縫って、過去から現在へ。


    ***


    次に浮かんだのは、見慣れた天井。いつもの自分の部屋だった。
    「…………?」
    だるさと共に、微睡まどろんだ意識がゆっくりと浮上する。
    う、と声を漏らすと、遠くから声が響いた。
    「あ、気が付きましたか?」
    鈴が鳴るような声の持ち主が、トレーを持って部屋に入ってくる。
    一つは湯気が立っている。それはゆっくりとくゆらせて、アリスの顔にかかる。
    「ぁ…………ここ、は……」
    「リュカさんのお部屋ですよ。すみません、勝手に入っちゃいました」
    申し訳無さそうに謝罪するアリスの声が遠く感じる。
    「わっ、まだ安静にしてないと駄目ですよ!」

    【牛乳粥をリュカに差し出す】

    「こっちは牛乳粥ですけど……牛乳粥、大丈夫ですか?」
    「平気。」
    いつもだったらからかいながら焦らすところを、今日はすんなりと頷いてしまう。その余裕の無さが、リュカが弱っている証拠にみえた。
    「良かったです!じゃあ、口を開けてくださいね」
    牛乳粥を掬った匙を、はい、と差し出すアリス。ゆっくり口を開けてそれを受け取ると、彼女の作った優しい粥の味が口を満たす。
    温度も火傷しない温かさで丁度良い。
    「お……美味いな、これ」
    「そうですか?お口に合って良かったです!」

    【アリスが初々しく看病するシーンを足す】

    (…………え!?)
    当然のように看病されている流れに、今更ながら戸惑った。
    「な、なぁ、あんたは今日、仕事は……」
    「リュカさんが倒れたから看病します、と言って、署長から了承は貰ってますよ。パルモさんにも『よろしくお願いします』って言われました」
    パルモが多忙なことは、皆の周知のところだ。リュカはすっと頭が冷えた。
    (オレのためだけの対応ってわけじゃなくて、こいつは「パルモさんが困ってるから」オレの看病に来たんだな……)

    【アリスが頑張って看病するシーンを足す】

    「すりりんごですよ。風邪引いたときには、りんごが一番だそうなので」
    スプーンで一匙すくって口元に近付ける。無意識に口を開けると、そのままするんと口の中へスプーンを滑り込ませた。口内にりんごの味が広がった。
    「うまい……」
    熱で火照ほてった体に、冷たいりんごが染み込む。すりおろしてあるから、頑張って噛む必要がないのがありがたい。
    「無事に目が覚めて良かったです」
    心の底から安心したような声色に、嘘は混ざっていない。
    すりりんごも無事に完食すると、アリスは微笑みながら器を片付けた。



    ***


    【※ここはもう少し文章を厚くする】
    日が落ちてきた頃。リュカの顔色は大分良くなってきていた。
    「リュカさん、体調は如何ですか?」
    「まぁ……朝よりは調子良いかもな」
    本人の申告もそうだが、声がしっかりしている。もう大丈夫だろう、とアリスは立ち上がった。
    「……どうした?」
    「リュカさん、もう大丈夫そうですね。だったらそろそろおいとまた方がいいですかね」
    ではこれで、と扉の方へ振り向こうとしたアリスの袖を咄嗟に掴んだ。
    「…………?」
    「ま……待って、くれ」
    きゅ、と握った袖口に己の手汗が染みてないだろうか。そんなしょうもないことが、無性に気になった。
    「………もう少し、だけ……傍にいてくれないか」
    快方に向かっているというのに何を馬鹿なことを、と。呆れられてしまうかもしれない。
    だけど、病で弱った心では、いつもの虚勢を張れるほどの余裕は無かった。
    (しまった……余計なこと言ったか?)
    不安気に見上げると、アリスと視線が合う。
    アリスは一回瞬きをした後、嬉しそうに頷いた。
    「わかりました、リュカさん」
    ずっと、一緒にいますよ。手を優しく握り返してくれた。
    「そう、か……ありがとな……」
    にこりと微笑む、アリスの空気の柔らかさに安心して。リュカはもう一度微睡みの世界に旅立った。
    今度は、確かに知った温もりを連れて。



    ***


    【ここにもう1シーン挟む。】



    ***



    「う…………」
    朝日が窓から差し込み、リュカは微睡みから目覚める。
    ベッドの傍には即席のソファベッドに眠るアリスがいる。モコモコとした毛布がかかっているので、寒くは無いだろう。
    意識を失う前、自分がお願いしたことを守ってくれたらしい。
    (アリスには、悪いことをしたな……)
    何故、あんなことを言ったのか。
    【もう少し文章を足す】

    なにか違和感がある。どこだ、と思ったら自分の机だ。
    そう、机の上に置かれているのは、一つの包み。そこには手書きのメッセージが挟まっていた。
    「ハッピーバースデー、リュカさん。
     あなたにとっての幸せが沢山訪れますように。」
    流暢な文字が踊るメッセージカードは、筆跡からアリスのものだろう。
    (オレ宛のプレゼント……)
    今は朝。ということは、今日は冬の月の27日。
    つまり、自分の誕生日。
    (プレゼント、用意してくれたのか)
    アリスから、誕生日プレゼントを貰えた。それが嬉しくて仕方ない。
    (中身は……何だ?)
    本来、贈り主から了承を貰って開ける方が良いだろう。だが、自分の欲を通すために起こすのは忍びない。であるならば。
    (ふ、オレの特訓の成果を発揮する時ではないか!)
    そっとベッドから抜け出し、足音を立てずに机の方に忍び寄る。……アリスは、まだ起きてこない。
    (よし。後はこっちのもんだ!)
    プレゼントを手に取れば後はもう早い。好奇心のままに、包装を最低限解いて中身を確認した。
    包装された袋の中に入っていたのは、「闇の指輪」と呼ばれるアクセサリー。少し歪んでいるのは、手作りだからだろう。
    様々なデザインがあっただろうに、わざわざこれを選んだのは。彼の「格好良い」デザインセンスに近付こうとしてのチョイスだろうか?
    「…………はは、」
    思わず笑ってしまった。この、彼女の不器用な位の誠実さと、優しさに。
    参ったな、とリュカは思わず手で顔を覆った。
    「今日は、最高の誕生日だな……」
    身体はまだだるいが、間違いなく今日は最高の日だ。
    きっと今、心に巣食った闇を、この指輪は払ってくれる。闇の指輪は、闇への抵抗を強める効果があるからだ。
    早速右の人差し指に嵌めたら、ふるるとルーンの揺らぎを感じた。それと同時に、しゅるると指輪が小さくなってぴたりと指にフィットするサイズへ変わってゆく。そして、サイズが丁度良くなったところで振動は止まった。
    (どういうカラクリなんだろうな、これ)
    こんな指輪、リュカには作れない。問題ないだろうか、と左手の指で指輪をなぞると、ひんやりとした金属の感触とともに、心が暖まるような安心感を指の腹に伝えた。
    (やべ……ほっとしたら、また眠くなってきた)
    治りかけの身体が訴えてるのか、あるいは心身ともに温まって安心したからか、急速に眠気が襲いかかってきた。だがきっと、今なら安らかに眠れるだろう。
    近くで眠る彼女にバレないように、そっとプレゼントの包みを直して元通りに見せかけると、そろりとベッドに入り直した。
    ふわりと包み込まれる温もりに誘われて、もう一度リュカは瞳を閉じた。




    夢の入口で、極彩色の蝶が舞い上がって青い空へ溶けていく。
    淋しい夢は、もう見ない。
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