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    きょう

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    きょう

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    消したカラ一(バス保)

    #カラ一
    chineseAllspice
    #バス保
    busProtection

    夜明け前は密やかに「だって、おれの方が先に死んじゃうからさ」

    ぽろりと漏れた本音だった。八つ年下の恋人は言っている意味を理解できないと言った顔で、ぽかんと口を開けていた。言葉を咀嚼するようにゆっくり瞬きをすると、目の端からひとつ、滴が落ちていった。
    あーあ、またやっちゃったな。その涙を見てするのは何度目かの後悔だ。
    おれたちが出会ったのは恋人────カラ松が、まだ初々しい高校一年生の頃だった。場所は学校。保健室。一目惚れしたのだと、怪我をして運ばれた次の日にはお小遣いで買ったらしい薔薇を一輪持って告白してきた。
    当然、教職についていたおれは「無理」の一言で押し通した。
    教え子で、男同士で、年の差があって。おれたちが恋人として成り立つ前に立ち塞がったハードルはいくつもあり、その一つ一つがとても大きいものだった。わざわざそんな面倒なハードルを超えてまで恋人同士になりたいなんてこれっぽっちも思わなかった。
    まだまだ子どもである将来有望の少年を歪めてはいけないと言う、ゴミ教師なりのカケラだけ残った良心もあった。
    それでもおれたちは紆余曲折と、何年かの時を経て恋人になった。
    先生、と少年特有の幼さを残したおれを呼んでいた声は、低く太くなって、一松、と甘く囁くようになった。
    あれよあれよと言う間に一緒に暮らし始めて、一年が気づけば経っていた。
    だと言うのに────おれは何度も何度も乗り越えようとしたハードルを、問題点を蒸し返してしまう。
    教え子ではなくなった。男同士なのも、まぁ、今はまだ寛容になろうという時代の流れがある。歳の差だけが、絶対に超えられないハードルだった。
    30も半ばを過ぎれば、年老いたことを実感する。階段で息が上がりやすくなったりだとか、筋肉痛が遅れてくることだったりとか。
    まだ二十代の、特に健康なカラ松との違いを見せつけられるようで、そこからくる卑屈から、つい口の端にネガティブな言葉が上ってしまう。
    それは鬱屈とした皮肉を込めた軽口のようなものだったが、総じてカラ松との恋人関係の消失を匂わせていることが多かった。
    その度に、怒ったり、泣いたり、様々な反応を見せるカラ松を見て、安心していた。実に馬鹿馬鹿しい試し行動だ。やってから、自己嫌悪と後悔に苛まれる。
    特に今回は度が過ぎたようだ。

    ずっと一緒にいよう、と言われた。何かに感化されたのか、そんな歯の浮くようなセリフを言われたものだから、思わず言い返してしまった。

    ───ずっと一緒にいられるわけないでしょ。おれの方が先に死んじゃうからさ。
    こんな言葉は軽口の範疇で、試し行動の一つで、生来の卑屈さがもたらしたもので。そんなマジに捉える必要なんてないんだって。
    だが、そんな思惑とは反対にカラ松のひとつだけ落ちた涙は止まることはなかった。洪水のように両の目いっぱいに溢れさせている。

    「あ、あのさ…しょうがないだろ、おれの方がオッサンなわけだし。お前、同世代より健康そうでしょ。長生きするじゃん。年の差から言ったら順当にさ、そうなっちゃうワケで────」

    違う違う、こんなこと言ったら余計泣いちゃうだろ。あぁくそ、おまえだって二十代って言ったって終わりの方だろ。こんなことくらいでいちいち泣いてんじゃねぇよ。いや、元はと言えばおれがこんなこと言ったからだよなぁ。何を棚にあげてんだ、戒めろ松野一松!

    「……し、い、」
    「え?」
    「嬉しい…っ!」

    ヒック。しゃくりあげた嗚咽。泣いている。確実に泣いてる。なのに、嬉しい?
    ぽかんと口を開けてしまったのは、今度はおれの番だった。

    「な…、に、言ってんの」
    「嬉しいって言ったんだっ!」
    「いや、それはわかるけど。え、何?」
    「だって、一松が、死ぬまでずっと一緒にいてくれるってことだろ」
    「いや、話聞いてた?」
    「聞いてた!!」

    いやいや、聞いてないでしょ。と反論をすることはできなかった。
    カラ松の手が伸びて、おれをぎゅうぎゅうに抱きしめてきたからだ。額から、鼻筋、頬、と顔中にキスを落とすと、ゆっくり唇を重ねた。

    「ちょ…、っと、待って」
    「いやだ」

    ソファに押し倒された。最近、こんなにも強引に迫ってくることなんてなかった。心拍数が上がる。心の準備が追いつかない。おれの体を弄る指は、すぐにおれの弱いところを探りあてる。いじられるたび、抑えられない声がおれの口から漏れていく。カラ松はおれの体のどこを触ればいいかわかっている。

    「嬉しい。嬉しい一松」
    「ずっと、一緒にいような」
    「でも、できる限り長生きしてオレと一緒にいてくれ」

    頭がクラクラする。そんなつもりで言ったんじゃないのに。おれが、お前の死顔見えなくていいなって思っただけだったのに。
    おれを見るカラ松の瞳は、少年の頃と変わらず、真っ直ぐおれを捕らえていった。



    さらりと、髪をすくって指に絡めた。
    久しぶりに何回もしちゃったな。明日になったら、一松に怒られるだろうな。
    でも仕方がない。あんな可愛らしいことを、この人は言うのだから。

    一松はずっと不安がっていた。男同士であること、歳の差があること。そして、それを理由にオレが離れていかないかということを。
    ────子どもが欲しくなったら。おれ以外に好きな人ができたら。おれに飽きたら。ちゃんと別れるって約束して。
    何年越しの恋が叶った後、最初に言われたのがそれだった。
    そのショックがどれだけ大きいものだったか。
    だって、何年も何年もかかってようやく結ばれようとする瞬間だぞ。どれだけの回り道を経たことか。あらゆる困難と問題をようやく乗り越え、半ば無理矢理、恋人同士になれたというのに。
    先生は、どれだけオレが執念深いか全く分かってない。
    きっかけはもちろん一目惚れだが、それだけを理由に、高校生の淡い初恋ごときでこんな十年以上アタックし続けるわけないだろう。別れるなんて問題外だ。たとえ一松から別れたい、なんて言われたって逃すわけないのに。
    これは、今後一生涯をかけてどれだけオレが一松を愛しているかを分かってもらわなくてはいけない。そんな覚悟すらしていた。
    一松の試し行動に近い言動だって愛しかった。憎まれ口を叩くのも、卑下も、全てはオレを愛しているが故にでることなのだから。

    でも、あんなこと言うんだもんなぁ。

    一松よりさきに死ぬ気など毛頭なかった。この人は一人きりで生きていけるほど強い人ではないのだ。それに万が一にもオレが死んだあと、後釜に誰かが、なんて考えるのもおぞましい。
    さいごの一瞬まで、この人の両目に映るのはオレだけであればいい。
    そんな独占欲をこの人は知っているんだろうか。
    明日は、必ずやってくる。その最期もいつかは訪れるだろう。
    だが今だけは。
    明日に背を向けて夜に留まりたいと希う。
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