特別でないただの一日「……男二人でホールケーキとかふざけてます?」
玄関を開けると唐次が白い箱を抱えていた。
世にいうクリスマスイブ。もうプレゼントを心待ちにする歳でもなくなった。
「一人でホールケーキよりはマシだと思わないか」
なるほど、確かにと納得しそうになった。だが、一人でクリスマスを過ごすことと、男二人でケーキをつつく絵面と、どちらが一体マシだろうか。
いわく、仕事の取引先の関係上、ケーキを購入しなければならなかったらしい。
初めて見る大きな白い箱に興味がないわけじゃない。
毎年、父と二人では持て余すからと、ホールケーキではなくカットケーキを一つずつだった。
「……な、ほら、チキンもあるから」
ビニール袋を持ち上げて、ガザガサと中身を取り出す。派手な紙袋に包まれた大手コンビニの有名な鶏肉だった。
「マツチキ……」
「うまいだろ。マツチキ」
「うまいですけど、なんか」
クリスマスってもっと特別なんじゃなかったっけ。同じ揚げた鶏肉なら、この時期おなじみの有名なファストフード店じゃないのか。
「ケーキがある、チキンがある。そして今日はクリスマスイブ!完璧じゃないか」
「どこが完璧だよ」
「クリスマスに一人で寂しいだろうから
わざわざ来てやったんだぞ」
「さっき一人でホールケーキ食べるよりマシだからって言ってましたよね」
「…………」
唐次がピタリと止まった。もう策が尽きたんだろうか。
「ホールケーキ持ってチキン買って。もし、おれが今日家にいなかったらどうするつもりだったわけ」
「はじめが……?あぁ、しまった。そういえばそうだったな」
「え?本気でそこまで考えてなかったの?」
「そうだなぁ。絶対家にいる気がしたし……なんでだろうな。お前とケーキ食べるってこと以外、想像つかなかった」
「…………そ、う」
この人のこういうところが、おれの弱いところをつつく。
熱くなる頬を誤魔化すようにして大きく咳払いした。
「ま、入んなよ。シャンパンはないけどさ」
二人に不釣り合いなホールケーキと、コンビニで買ったチキン。
そんなものでも、あなたがいれば特別になる――――、なんてことは全然なく、ホールケーキに胃もたれを起こしながら二度とこんなクリスマスはゴメンだと、心の底から思うのだった。