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    きょう

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    きょう

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    ある日引き出しからでてきた写真について語る唐つぐとはじめの話。notCP。
    父親とのエピソードを捏造しまくっているのでご注意ください。
    勢いであげたので雑だヨン

    #伝奇松

    忘却の写真はじめが父親とツーショットで写真を撮る機会は稀だった。
    小学校の入学式の写真も、卒業式の写真も、居心地の悪そうな顔をした自分が一人だけで写っていた。家族が二人しかいないのだから、当たり前だ。
    稀に、親切な第三者が撮影してくれるときもあったから、二人で撮られた写真が全く無いわけではない。しかし、数は圧倒的に少なかった。
    ある日、父の部屋の整理をしていると、引き出しの奥から、写真の束がでてきた。
    十二歳くらいの自分が遊園地で遊んでいたらしいスナップショット。大きなソフトクリームを美味しそうに食べて、遊園地のマスコットキャラクターとぎこちなく笑って。
    パラパラと写真を見ながら、こんなことあったかなぁと記憶をたどる。
    遊園地に連れて行ってもらったことは、過去に何度かある。その時の写真だろうか。
    しかし、どうにも写真を撮影したときのエピソードを思い出せない。
    次の写真を見る。予想していなかった写真に驚いた。
    父親と二人で写った写真があった。
    珍しく口を大きくあけて笑う自分と、目を細めて優しく見つめる父の姿。
    残念ながら、撮影者の指がはいりこんでしまっていて、写真としての完成度は低かった。しかし、良い写真だと思った。
    自然に笑うこんな写真、今まで見たことがなかった。
    カメラの方を全然見ていないことから、撮られたことにすら気づかなかったのだろう。それが結果として良い表情になっている。
    父の表情を指でなぞる。優しく、穏やかな父の顔だ。
    しかし、と一つ疑問が浮かぶ。
    この写真にうつりこむ、指。これって―――。

    「良い写真だなぁ」
    「うわっ!?」 

    びくりと肩を震わせた。驚いて振り返ろうとして、ゴツッ、と何かにぶつかる。
    肩だ。人間の硬い骨ばったところに額を打ち付けて、痛みで言葉が出てこなかった。

    「す、すまない、そんなに驚くとは……」

    狼狽した唐次の姿が、そこにあった。

    「音もなく近寄ってこないで下さい!」

    青戸唐次が家に入り込むのにはもう慣れた。合鍵を渡したのは自分だし。かといって、こんなに近くにきて急に話しかけてきたら、驚いて心臓が飛び出てしまう。

    「すまん、ごめんって」
    「謝罪が軽いんだよなぁ……」
    「オレも肩痛いし、痛み分けということで……」
    「あ?」
    「急に声をかけてしまい、大変申し訳ありませんでした。………それよりそれ、良い写真だよなぁ。はじめとお父さんだろう?」

    唐次が写真を指さした。

    「うん。遊園地で遊んでいたみたいなんだけど……、こんなの撮られた記憶、なくて」
    「昔の記憶なんてそんなもんじゃないか?」
    「うん……でも、気になることがあって。これ、誰かが撮影してくれた写真だろうけど、誰が撮ったのかなって」
    「通りすがりの人とか……?」
    「通りすがりの人に、こんな写真撮られないでしょう。写ってるおれと父さん、全然写真に気づいてないし」
    「じゃあ、一緒に遊園地に行った人?子どもの頃だと、仲の良い家族同士で遊びに行ったりするだろ?」
    「そういう機会、滅多になかったから、さすがにそれだったら憶えてると思うんだよね。父親以外と遊園地、行ったことないと思う」

    うーん、と唐次は考え込んだ。そして、写真の束をはじめから貰い受け、パラパラと一巡させる。そしてはじめと父の二人の写真を、もう一度マジマジと観察するように見つめていた。

    「この指の主……もしかして、子どもか?」
    「え……」

    同じように写真を見つめる。たしかに、うつりこんだ指は細く丸みを帯びていて、言われれば子どものもののように思えた。

    「いやいやいや待って待って怖いわ急にいきなりホラーじゃん、ゾクッとする」
    「フッ……オレも言ってちょっと怖くなってきたぜ」
    「格好つけて格好悪いこと言うなボケナス。……それに、言われてみれば、ってレベルで、断定はできないと思います。ま、おれが覚えていないだけで、誰かと行ったんだよ多分」
    「なら、他の写真にその誰かが写ってないのおかしいだろ」

    その通りだ。このスナップショットの束の中に、はじめと父以外が写っているものはない。
    たくさんある写真の中で、その第三者が父とはじめどちらとも写真を撮ってない……なんて、あるのだろうか。
    写真に残しておきたくない誰か。父と、はじめと、自然に砕けた距離にいた誰か。そしてその誰かのことをはじめは一切思い出せない。
    二人の間に沈黙が流れる。

    「……いや、今のは聞かなかったことにしてくれ」
    「う、うん……そうする……」

    ほのぼのとした家族写真が、一転して恐怖の心霊疑惑写真になってしまった。
    写真を撮影したのは誰なのか。
    そもそも、過去に父と遊園地に行った記憶はあれど、その記憶と写真の内容が一致しないのはおかしい。
    単純に忘れてしまっただけなのか。

    「……でも、写真は、いい写真だと思う」

    例えそれが心霊疑惑写真だったとしても、父親とのこんな写真は二つとしてない。撮影したのが誰であれ、この父と自分を写真に残してくれたことに心から感謝していた。

    「それは同感だ!フッ……撮影者は凄くセンスの良い人に違いない。さながらスクープを撮り逃がさないオレのように……なっ!」
    「それは……ちょっとわかんないです」
    「えっ」
    「……あ、でも、大事な写真ほど失敗するのは唐次さんっぽいかも」
    「ええっ……」
    「それより」

    悲しそうにする唐次の手から写真をもぎとり、机にしまい込んだ。

    「今日は一体、どんな用件で来たんです?」

    唐次はフッ……と意味ありげに笑ってみせた。

    「スクープに決まってるだろう、はじめ。とある村の奇祭について取材する。九十九年に一度しか開かれない祭りの日に、必ず起こる悲劇!その悲劇が何か、聞きたくないか?ン〜?」

    彼曰く、この《スクープ》は過去に類をみない劇的なものらしい。真相を掴めば、間違いなくトップ記事だと。
    何度その言葉を聞いたことだろう。この男の取材やらスクープに付き合って散々な目に遭ってきた。正直断りたい。
    でも、一人で突っ走ってしまうこの人を放って置くほうが後々惨事になる。
    はじめはハァ、っと重い溜息をついた。

    「…………ま、付き合ってやりますよ」

    はじめは鬱陶しそうに吐き捨てた。
    だが、少しだけ楽しそうに笑ってみせた。


    ◁◀



    「ちょっと二人とも、待つんだヨン!」

    こんなに嬉しそうにはしゃぐ息子の顔を、男は久しぶりに見た。
    兄が連れてきた子どもと、初めこそ人見知りしていたが瞬く間に打ち解けてしまった。
    そうしたらもう手が付けられなくなってしまった。暴れまわる二匹の怪獣たちは元気よく跳ね回っている。

    「ハハハ、元気なんだヨン」
    「そんな悠長な……誰かにぶつかったら危ないヨン」

    兄は愉快そうに笑っていた。
    この子どもたちを会わせてしまって本当に良かったのか。男はずっと悩んでいた。
    息子が大きくなり、父親と二人だけの遊園地にいささか退屈を覚えるようになった。
    遊園地に行くより読書していたい。
    せっかくの連休だというのに、そんなことを言う息子に男は大いに慌てた。
    元々大人びたところがある子だとは思っていたが、まさかこんなに早く子どもらしいイベントを楽しまなくなるとは。
    そんなことを兄に相談すると、兄も同じように、少しずつ大人になっていく息子との距離感に悩んでいた。
    兄と何度も話し合い、大いに苦悩した。そうして、一つの試みとして、男たちは子どもたちを引き合わせることにした。
    結果は良好。子ども同士で張り合うように遊び合っていた。乗り物にのり、大声を上げて楽しんでいる。
    男は、そんな息子の様子に頬が緩んで仕方がなかった。

    「そういえば、オリさんにこのことは……?」
    「大丈夫。内緒にしてある。それに今日が終わったら……薬を飲ませるんだヨン」
    「薬?」
    「そう。それで全部、今日のことは忘れるんだヨン」

    兄の声は少し寂しそうだった。
    来年は中学生になる息子たち。段々と大人になっていく彼らと、どの程度思い出が積み重ねられるのだろう。
    自分が想像するよりも息子が成長していくスピードはあっという間だった。
    ついこの間まで手を引いて歩いていたと思っていたのに。
    小さく柔らかな手のひらが、骨ばっていく。声が低くなっていく。背もぐんぐん伸びていく。
    そんな息子の成長は喜ばしくもあり、寂しくもあった。
    人間の子どもは、思春期を迎えると父親と余り触れ合わなくなるらしい。
    ならば、大人になっていく彼と思い出を作りたい。
    そんな、父親らしい一抹の寂しさを乗り越える手段としてこの方法は間違っているのかもしれない。
    このことが村の連中に知られたら、どれほど大目玉を食らうことか。
    しかし、それでもやらずにはいられなかった。
    息子の喜ぶ顔がみたい。
    そのためなら多少のリスクを背負っても構わない。

    「なぁ!オレは将来スーパー記者になるから、その助手をやってくれ!」
    「えっ……やだ……」

    今日、この日の記憶を息子は忘れてしまう。忘れさせてしまう。
    でも、私は忘れない。――――機能停止するその日まで。


    〈了〉
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