鬼が笑う「たかすぎ、明日になったらおせち食べる?」
「あァ、そうだな」
「お餅も⁉︎」
「武市に頼んである」
「やったー! おれあんころ餅食べる!」
「分かったからちったァ落ち着け」
炬燵から出した尻尾をゆさゆさと揺らす銀時の頭を、同じく炬燵に足を突っ込んだ高杉が手を伸ばして撫でる。三角の耳が、小さく震えた。
「晋助様、銀時、お茶淹れたっスよ」
「あァ、いただこう」
「ありがとまた子!」
炬燵に入らないかと誘われ、最初は固辞していたまた子も、銀時の上目遣いのお願いには勝てなかったらしい。
「し、失礼します……」
恐縮しきって高杉の向かいの掛け布団を捲り足を入れた彼女も、暖められた空気に思わず息を吐いた。
また子に強請ってみかんを剥いてもらいながら、銀時が目を輝かせて言う。
「大晦日はみんなで夜更かしする日なんだろ? おれ、日付変わるまで起きてるから!」
「銀時、今日昼寝もしなかったのに起きてられるっスか?」
「ヨユーヨユー」
大掃除に年末の買い出しにとバタバタしている皆を手伝い、珍しく銀時は昼寝をしなかった。心配そうなまた子の言葉にも、銀時は自信満々に頷くのみだった。
そのとき、廊下に面している障子が開かれ、一気に冷気が流れ込んできた。
「おや、皆ここに居ましたか」
「わ、私は銀時がどうしてもって言うから……!」
「別に誰も責めていないでござるよ」
炬燵を囲む三人を、万斉と武市は微笑ましげに見る。また子は何か言われると思ったのか、少し顔を赤くして言い訳を口にした。
「武市と万斉も! 一緒に入ろ!」
銀時に無邪気に招かれた二人は、顔を見合わせた。
「お誘いはありがたいのですが」
「どうやら定員オーバーでござるな」
確かに、炬燵の辺は四つしかなく、既に三辺は埋まっている。そもそも様子を見に来ただけだったのだろう。私たちはこれで、と武市が断りかけたとき、高杉が炬燵の掛け布団を少し上げた。
「銀時、こっち来い」
「うん!」
銀時は迷うことなくその隙間に入り、高杉の膝の上に腰を落ち着ける。キラキラとした赤い瞳に見つめられては、流石の参謀と右腕も折れざるを得なかった。
やや狭いながらも五人で同じ炬燵を囲み、点けっぱなしのテレビを流し見る。今年の顔の芸能人がVTRを見ながら賑やかな笑い声を上げていた。銀時はあまり画面には興味がないようで、小さな手で剥いたみかんを高杉の口に放り込んでいた。
「……平和ですね」
「平和っスね」
ここら一帯を牛耳っている吉田組、その中でも泣く子も黙ると言われている鬼兵隊の幹部が集まっているとは思えない穏やかな空気。だがそれも、最近になって現れた銀色の子供のお陰だと、本人以外は誰もが気付いていた。
しばらく、皆で今年の出来事や来年の計画を話す。内容が多少物騒なのはご愛嬌だろう。組織が大きくなり、こうして皆でゆっくりと顔を合わせるのも実のところ随分久しかった。
ふと武市が時計を見上げ、目を丸くする。
「もうこんな時間ですか。そろそろ年越しそばでも作りますか」
「そうでござるな……おや」
「銀時、寝てるっスね」
話している間に、睡魔に負けてしまったようだ。銀時は高杉の腕の中で、こくりこくりと船を漕いでいた。また子が顔を覗き込み、微笑む。
「年越しするって張り切ってたのに……晋助様、もう少ししたら起こすっスか?」
「いや、良い。寝かせとけ」
高杉は銀時の髪を撫でながら優しく目を細める。ぴすぴすと鼻を鳴らしながら、銀時は気持ちよさそうに眠っていた。
「良いのですか? 明日起きて拗ねてしまうかもしれませんよ」
銀時が拗ね、皆で必死に機嫌を取ったときのことを思い出したのだろう。武市にそう尋ねられても、高杉は構わねぇさ、と頷いた。
「どうせこの先、年越しなんて何回もあるんだ。無理する必要はねェだろ」
その言葉に、部下は思わず顔を見合わせる。やがて誰ともなく、その言葉に頷いた。
「それもそうでござるな」
「では私は、四人分のそばを作ってきます」
「あ、私手伝うっスよ!」
「では拙者も。晋助はゆっくりしてるでござる」
炬燵から立ち上がる部下たちを、高杉は銀時を抱えたまま見送る。銀時の小さな手が、高杉の着物をしっかりと掴んでいた。
その稼業柄か、特に個人的なことに関しては、未来のことをあまり語ろうとしなかった高杉が、こうして来年以降の話をする。そんな些細な変化を、周囲の誰もが密かに喜んでいた。