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    k_rinsei

    だめであれな成人済みふじょし。😈義炭にお熱です。

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    k_rinsei

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    現パロ義炭。お付き合いするようになって浮かれているふたりの話。

    #義炭
    yiCharcoal
    #甘々
    sweet

    パンのにおい「おはよう、炭治郎」

    例えるのならお菓子よりも甘くバターよりも濃厚。そんな蕩ける微笑みを向けられて炭治郎は思わず腰を抜かしてしまった。生徒保護者の皆様、この鬼教師こんな顔するんですよ。見せませんけど。声高らかに宣言したかったが動悸息切れに襲われて何もできない。寝室の出入り口で真っ赤な顔のまま、立てない炭治郎を義勇が担ぎ上げて甘やかす。記念すべき同棲1日目の出来事だった。


    穴場だと評判の竈門ベーカリーは炭治郎の実家である。小ぢんまりとした店内だが素朴な味わいのパンは家族を思い出す、ほっとする味だとかなり好評だ。遠方からの来客も少なくない、そんな根強い人気を誇る竈門のパンが義勇は大のお気に入りだった。お隣さんで常連さんだった両親に連れられて行ったのは幾つの頃だったか。穏やかな空間に置かれたパンは、きらきらと輝いてまるで宝石のようだった。すっかり義勇も常連になった頃、竈門家に幸せが舞い降りる。

    「はじめまして、たんじろう」

    葵枝の腕に抱かれ炭治郎と名付けられた小さな命。ふくふくした頬を突くと赤子はきゃっきゃと笑んだ。首がすわっていない身体を支えながら抱かせてもらう。ぎこちない動作だったが炭治郎は泣くことなく、大人しく義勇の腕に収まっていた。

    「義勇くん。仲良くしてあげてね」

    葵枝に声をかけられ頷いてからもう一度声をかける。たんじろう。名を呼べば炭治郎はにぱっと目尻を下げて微笑む。すんと鼻を鳴らすと何とも言えない甘い香りが五感をくすぐった。

    炭治郎が義勇に懐くまで時間はかからなかった。身近に年の近い子がいなかったせいか、ぎゆくんと呼んでは後をついて回り彼を慕い義勇も炭治郎をよく構って甘やかした。炭治郎に弟妹が誕生しても関係は変わらない。それどころか義勇の過保護は加速した。長男だからと張り切る炭治郎が、いつか壊れて無くなりそうに思えたからだ。頑張り屋であることは重々承知しているのだが、炭治郎をどうしても手放したくない。己のいないところに行かないでほしい。不埒な考えが頭をよぎった瞬間、義勇は自分の気持ちに気付く。炭治郎に懸想していることに。思春期を迎えても擦れたところは一切なく変わらず慕ってくれる炭治郎。義勇が大学生の頃、炭治郎はまだ中学生である。そもそも男同士、幼い彼に押し付けてよい感情ではない。気持ちに蓋をすると決めた瞬間だった。

    「炭治郎がいちばん、好きだなぁ」

    愛情あふれる声で呟いた義勇は己の失言に気づく。炭治郎の持ったトングから焼き立てのパンがぽとりと落ちる。トレーの上に落ちたためパンは無事だったが、今は気にしている場合ではない。まずい、完全に無意識だった。来店時の恒例となっているパンの紹介を受けている最中である。炭治郎の話は若干上の空で、横顔を見つめるので必死になりすぎた。

    「…ち、違うんだ、炭治郎。お前の焼いたパンが、良いって意味で」
    「……義勇さん。今日は俺、厨房入ってないって…今、言いました」
    「……」

    こういうのを藪蛇というのだろうか。講義で聞いた気がすると義勇は明後日の方向へ思考を飛ばした。ああもう優しい幼馴染のお兄さんではいられないと完全に理解できた。意図せず後退した足を見た瞬間、咎めるように炭治郎が腕をつかんだ。逃がして、くれない。

    「あの、義勇さん。今のって」
    「……おかしいと思うか?ずっと見守って、大切にしてきた子に思いを寄せていたんだ。お前はまだ中学生だ。これから色んな出会いをして、色んな経験をする。譲りたくないけど、譲らないとって……ずっと、葛藤していたんだ」

    炭治郎は義勇の言葉を黙って聞いている。俯いているので表情は伺えないが、出来れば一刻も早くこの場から逃げたかった。

    「炭治郎が可愛くて仕方なかった。出来れば無理をさせたくないし、無理をするのなら俺が全部変わってやりたかった。炭治郎にはずっと笑っていてほしかった。……幻滅しただろう、こんな」
    「…義勇さん。俺からも、いいですか」
    「……いいよ」
    「……俺、ずっと好きな人がいるんです」

    ぐさ。炭治郎の恥ずかしそうに零れ落ちた一言は、義勇の胸を真っ直ぐ貫いた。なんて、残酷なんだ。

    「その…、そのひとは、ずっと……ずぅーっと……俺が産まれてから、ずっと、一緒にいてくれました。俺が寂しがる暇もないくらい、寄り添ってくれて。父さんが亡くなったことも…、俺はそのひとのおかげで乗り越えられたのかも、しれません」
    「た、炭治郎。それ、は……」
    「体育の先生を目指している……、お隣に住んでいるお兄さんが好きだと言ったら……、おかしいと、思いますか?」

    衝動を抑えきれず義勇は炭治郎を抱きすくめた。炭治郎の手からトレーとトングが落ちてけたたましい音を立てるが、気にしていられない。苦しいと笑う炭治郎の向こう側に置いてあるパンは初めて会った時と同じ、いやそれ以上に神々しく輝いているように見える。炭治郎の首筋に顔を埋めると、なんとも言えない甘い香りが鼻を擽った。


    「……そんなことあったか?情けない奴だな」
    「なーに他人事みたいに言っているんです?告白してくれた時の義勇さんは慎ましくてとっても可愛かったのに!同棲すると羞恥心も忘れてセクハラおやじになっちゃうんですか?!」
    「おい。おいやめろ」
    「義勇さんがやめたらやめます!」

    炭治郎を抱え上げソファに移動した義勇は、勝手知ったる恋人の身体と言わんばかりに一回り小さい身体を弄り始めた。朝から何を考えているんだと炭治郎は頭を叩いて押し返す。負けじと義勇の指が不埒な動きを見せるので、傍から見ればそれは子犬同士でじゃれあっているようにも見えた。

    「俺はこんなに嫌がっているのに……ひどい恋人です」
    「どれだけ我慢したと思っている?」
    「……ぎ、義勇さんから……とてつもなく、甘い匂いがしますぅ……」

    炭治郎がうう、と唸る。顔を隠す両手に口づけて、義勇が優しくそれを解いた。

    「炭治郎もいい香りがするよ。甘すぎなくて、俺好みだ」
    「貴方がそんなに鼻が利くなんて、聞いたことないんですけど」
    「お前ほどじゃない、が」

    初対面の時から炭治郎はいい匂いがした。最初は製菓のかおりかと思ったが違う。焼きたてのパンが立ち並ぶあの空間で、それはいつも際立っていたから。店の扉をくぐれば義勇さんと満面の笑みを向けてくれる炭治郎。会えて嬉しい、そんな感情が漂い、透けて見えた。一回り小さい身体を抱き締めて可愛がれば香りはいっそう増す。恥ずかしい、心地いい、気持ちいい。もっと。義勇さん、もっと。そんなかおりだ。

    「……お前が分かりやすい性格で助かったよ」
    「あっ、ばかにしてますね?」
    「炭治郎が可愛いって話だ」
    「はっ?かっ…?!」

    言葉一つで喜怒哀楽を表す炭治郎が、義勇の目には美味しそうな食べ物に見えてならない。好物が食べごろを見極めているような、食べられるのを今か今かと待っているような、そんな感覚。自分は炭治郎のように鼻が良いわけじゃない、炭治郎に関することのみ、長けているだけだ。

    「旨そうだと言ったら、笑うか?」

    義勇の厭らしい微笑みに炭治郎は可哀想に固まってしまった。瞬間、鼻をくすぐる甘いかおり。お気に入りのパンより余程そそるそれに、そんなに喰われたいのならそうしてやると義勇は唇に噛み付いた。(了)
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