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    umeno0420

    @umeno0420

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    umeno0420

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    ぐだビリとしていますがふたりは友達です。
    将来的な可能性としての表記であり恋愛の話はしていません。

    #ぐだビリ
    #ビリー・ザ・キッド
    billyTheKid
    #ぐだ♂

    忠誠心の幻肢痛「君が死んだら戦争をあげる」

    ビリーはそう言って微笑んだ。俺は頰を搔こうとして、両手が添え木と共に包帯でぐるぐる巻きにされていたことを思い出す。彼が怒っていることが分かったのは成長か、それとも怒っていることしか分からなかったから退化か、果たして今から考えても間に合うだろうか。

    世界を救い始めてから、もう幾度目かの大怪我だった。でも負けてはいないから、俺は今日も生きていた。生きて、なんとかカルデアに帰り着いて、自室のベッドに寝られるようになったころ。そういうタイミングを狙い澄ますように、ビリーは現れる。特に挨拶なく部屋に入ってきて、デスクに備え付けの椅子をベッドの横まで引きずってきて、無言のままどかりと偉そうに腰をかけた。それで俺からかけた声を遮って、言うことには。

    「戦争って」
    「うん」

    俺の声に、彼はいかにもとってつけたような完璧さで笑った。自然と眉間に皺が寄るのを感じながら、曲がった唇の内側で言葉をより合わせる。華やかな笑顔とは裏腹に、ビリーはそれきり黙ってしまった。そのくせ席を立つ素振りはないのだから、きっとまだ言いたいことがあるのだろう。

    「戦争をあげるって、ビリーが、その、始めるの?」
    「ああそうとも。馬小屋に火を放ち、勝手口以外の窓と扉を残らず壊してやる。そしたら誰もがひとつの出口に詰めかけるだろ? めくら打ちが捗るってもんさ」
    「分かった、ごめん」
    「ごめんだって! なんだよそれ。君、今なんで謝ったんだい?」

    脱輪した勢いのままに回る唇を止めたくて口にした謝罪は、歯切れの良い嘲りに笑い飛ばされておしまい。ビリーの失望が剃刀のように首筋に押し当てられる。そうなってくるともう呼吸だって楽にできない。俺は存外、彼に嫌われたくないみたいなので。だから慎重に、けれど怯えては見えないように、充分な量を呼吸をした。

    「今度こそ死んだかと思った?」

    俺は確かにこう言った。だから本当は、ビリーに怒られるきっかけなんか明白だった。ただこんなに怒られると思っていなかっただけ。

    「俺は正直、ちょっと思ったよ。笑っちゃうよな」

    だって何気ない台詞だった。あるいはビリーには、必要以上にそう聞こえてしまった。安心してほしいとかいう下心は唇に過剰な油を指すらしい。あるいはアルコールを? なんて、お酒なんかまだ飲んだことないんだけど。

    思わず溜息をつく。当然ながらただの人間の吐いた息には体温以上の熱は宿らなかった。息を吐くだけで炎が周囲を包む方がおかしい。火を吐く竜を、絵本以外で見ることになるなんて思わなかった。俺はどうしようもなく愚かなので、神話みたいなその姿に見惚れてしまう。カッコいいなって見上げて、自分の腕が燃えるまで動けなかった。こんなことは今に始まったわけじゃない。おかしな、常識であったことにまるで縋れない世界で、俺は生きてしまっている。

    「マスター」

    凪いだ重油の輝きで、彼の瞳は俺の返答を待ち侘びる。ほんの一瞬だけ、ビリーの言葉に頷いたらどうなるのだろうと思う。ビリーは、誰かの家に火を付けるのだろうか? 逃げ惑う人間を端から撃ち殺すのだろうか。まぶたに思い描いたその様は、荒れた筆先で描いたように、あるいは日に焼けた写真のように、とうの昔にぼやけていた。

    それでも確信がある。きっと俺が首肯したら、あるいはそれも悪くないと笑えば、彼は実行してしまう。心底冷えた笑みを浮かべ、思う様に戦争を始める。そうして多分今度は捕まることはなく、どんな姿になっても戦い続けるのだ。

    「ビリー」

    彼の瞳が俺を眼差しながら、水晶体よりも奥でいつかの牧場主を見ていることに、俺はとっくに気がついている。せんそうをあげる。開き切らない口の奥で、アルファベットは牙を持つ。笑顔を装った皮膚の裏側で、朽ちた頬骨はナイフへ転変する。そうしてビリー自身を滅多刺しにするのだろう。

    ビリーはいつか、死人のために戦争をしたという。だから今、彼の身にのこされた幻肢痛は、果たせなかった忠誠だ。もしくは欠損しか残っていない友情。あるいは塗り潰したつもりの悔恨。

    俺は。

    「俺はそんなもの、要らないよ」

    彼は暫く俺を見ていた。光の下では冬の空のように鋭利な青をしている瞳が、白皙の頬の内で深海へ沈む。唯一そこへ灯ったハイライトは、探照灯よりも暗くこちらの真意を伺っていた。藍色に煙る灰。冷たく、暗い眼差しを、俺はただ見つめ返す。

    「……あっそ」

    長い沈黙の後で、ビリーはテンガロハットで表情を覆う。顔を隠したまま、吐息にそっくりの相槌を打った。その声を聞いて、俺は彼の呟きを鼓膜から逃す。きっとこれは、少年悪漢王の伝記には載らない台詞だから。

    「そういや僕も、戦争なんか嫌いだった」

    鼓膜から逃して、それから、俺は俺のともだちの言葉を脳裏に刻む。


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    umeno0420

    DONE※タグ、キャプションをご覧の上、ご閲覧ください。
    帝襟アンリさんが「元々私はなでしこジャパンに憧れてサッカー始めたんですけどやっぱり日本って女子サッカー界のクリスタルトーキョーになるべきでは?」「アンリちゃん、今の子はセーラームーン知らないよ」と言い出した感じでブルーロック内の男女比が240:60になっています。
    りんばち♀で未来捏造で同棲です。
    愛されてるって当たり前!たくさんおしゃべりがしたいなら、小さめの手仕事をもっとたくさん用意しなさい。

    そう教えてくれたのは優だった。だから今日の夕飯は、手作り餃子にすると決めたのだ。なんでって、凛ちゃんが久しぶりに日本へ帰ってきたからである。

    ブルーロックとかいうイカれたフットボールデスゲーム施設で、私と凛ちゃんは出会った。そうしてたまたま踏んだ影の寂しさがほんのり重なったことをきっかけに、私たちはどうにも絡まってしまったようだ。ぐにゃぐにゃのままお互いの手を掴んでみたり、間違えた片結びでみんなをたくさん振り回したり、最終的に国境を何度も超えてターンしたり! めちゃくちゃに転がり回った末に、彼が私を捕まえた。

    ここ数年は私が日本のチームでプレイしていて、凛ちゃんはヨーロッパリーグのあちこち武者修行中だから、凛ちゃんのオフシーズンだけ日本で一緒に暮らしている。そして今回のお休みのため、昨日の深夜に帰ってきたところ。移動の疲れと時差ぼけでとろけた凛ちゃんをお布団で包んだとき、明日は餃子を作ろうと決めた。
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    umeno0420

    DONE※※※ 一切合切あなたの自己責任においてご閲覧ください ※※※

    夭折したミヒャエル・カイザーの天文学的遺産を相続した潔世一が、それを元手に社会貢献活動をすると決める話。ビジネスフレンド出演、御影玲王。

    作中の相続に関する描写は全てフィクションです。現実の法制度等には一切準じておりません。予めご承知おきください。

    2ページ目は付録です。
    地獄の沙汰まで余らせないミヒャエル・カイザーが死んだのは、彼が現役を引退した1年後のことであった。

    世間には病死であるとだけ発表されたが、正確に言うならば癌だった。発見されたときにはもう全身くまなく転移しており、緩和ケア以外の治療の選択肢がほとんどなかったという。本人から聞かされた話だから、多分本当のことだ。

    「この癌といや遺伝的形質を持つことで有名だが、あいにく俺の親戚は癌になるほど長生きしないクズばかりでな。お陰で気づくのも遅れてこのザマ」

    昨年に行われたカイザーの引退試合はそれはもう華々しくて、いや本当これでサッカーを辞める選手とは思えないほど悪辣で元気いっぱいだった。相手チームの心をベキベキにへし折りながら当然のように勝利し、やつはピッチの上を去った。マスコミもコーチ陣もチームの運営もみんなして引退の理由と今後の予定を尋ねたが、カイザーは決してまともな返答をしなかった。やけに芝居がかった台詞で、きっぱりと未練がないことだけを語っていた。
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