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    フジワラ

    @wt_0014
    WTじんあら派の19歳組箱推し🥳
    拙いですが、溢れるパッションから漏れ出た物をそっと置いています。

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    フジワラ

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    はっぴーじんあら😃💕を目指して!
    バレンタインの片思い(両片思い)→両思いのじんあらのお話です。

    #迅嵐
    swiftashi
    #迅悠一
    xunyuichi
    #嵐山准
    arashiyamaJun

    ベリーハッピーラブ、バレンタイン 嵐山准はモテる。
     老若男女あらゆる方向からモテる。
     その清廉潔白で真っ直ぐで人当たりの良い性格と整った外見、言い出したら聞かない頑固な部分はあるがそれも言い方を変えれば揺るがない信念を持った人間であると言えるので欠点らしい欠点がない。そんな嵐山准はとにかく人から好かれた。
     と、言えどもただの高校生なのでモテると言ってもたかが知れていた。精々学校内や近所くらいの範囲だった……が、あのボーダー記者会見からその範囲は大きく変わることになる。あの記者会見以降、ボーダーの広告塔として人前に出るようになると嵐山の外見だけでなく誠実な人柄は多くの人に好意的に受け止められ好感を抱く人が多くなった。……そう、モテる範囲が学校内から街全体に広がったのだ。
     そうなってくると嵐山に恋焦がれる人間が増える。嵐山に恋する人間なので基本的には善良な人間が多いのだが、全部が全部そうだとは限らない。どんな事でも母数が増えれば増えるだけイレギュラーが発生するのは仕方がないことだ。
     勿論、ボーダーの上層部や関係者もそれはわかっている。迅だってそのサイドエフェクトを使って上層部に進言や対策を行ってきたし、上層部や関係者も嵐山自身や嵐山の関係者に被害が出ないようにしてきた。その甲斐もあり、今のところは嵐山に被害が起きることはなく日々を過ごすことができている。
     そう、これからもそのつもりだし、被害なんて起こすことなんてない。自分がそれをさせないし許さない、そう迅は決意していた。
     
    「……ん?」
     今、何か嫌なものが見えた気がした。
     迅は目の前で弁当を美味しそうに食べている嵐山を改めて見る。
     正確には目の前の嵐山ではなく、嵐山の未来だが。
     チョコレート? そうだ、嵐山が受け取ったのはチョコレートだ。ああ、そうか。もうすぐバレンタインか……相変わらずモテるな……って様子がおかしい。
    「んんん?」
    「どうした?」
     焼きそばパンを咥えたままの状態で動きを止めて唸り始めた迅を不思議そうに嵐山は声をかけた。反応がない迅を見ながら、同じように迅の様子を見ていた柿崎に嵐山は焼きそばパンが美味しくなかったのだろうか? と聞いてくる。いや、でも焼きそばパンで当たり外れってあるのか? と柿崎の言葉にそうだよなと嵐山は頷き、柿崎が焼きそばパンの味の問題か? と頭を抱えた。
     唸っていた迅が急に口をあんぐりと開いて立ち上がる。
     そのため落ちた焼きそばパンを慌てて嵐山が手を伸ばし受け止めた。嵐山の素晴らしい反射神経に柿崎は内心感嘆の声をあげる。よかった! 床に落ちなかったぞ! と笑顔で迅に焼きそばパンを差し出すが、迅はそれを受け取ることはなく「んあー!」と急に叫び出した。
     その声に嵐山と柿崎が驚きの表情で迅を見上げる。
    「どうしたんだ迅?」
    「ああああああ嵐山ああああ!」
     ガシッと焼きそばパンを差し出している嵐山の肩を迅は掴み、前後に揺らし始める。
     迅が視たのは、嵐山がバレンタインでとある女性からチョコレートを受け取った場面だった。見かけない女性だったので同じ学校なのか一般の人なのかはわからない。とにかく迅の見覚えのない女性から受け取ったチョコレートが問題だった。それは普通のチョコレートではない、入ってはいけないものが入っている代物で、それを疑うことなく口にした嵐山が大変な状況になるのが視えたのだ。
     普段から根付やら迅やらにみんながみんな善意の人ではない、相手に悪意はなくとも結果的に害を受けることがあるのだと口酸っぱく言われているので、嵐山だってわかっているはずだ。その嵐山がそんなものを受け取ってしかも口にしているなんて何か理由があったのかも知れない。
     畜生、誰だこいつにそんな危険物食わせようとする奴は。そんなのでこいつを手に入れられると思ってるのか? そんなのでこいつが手に入るんだったらおれがやってるぞコノヤロウ! と内心、誰かもわからない相手に向かって迅は心の底から罵倒する。
     
     ……そう、迅は嵐山に絶賛片想い中なのである。
     
    「お、おい迅、嵐山を揺らしすぎだって」
    「じじじじじん……ど、どうしたんだ?」
    「いいか! バレンタインは佐補ちゃんか小南かおれ以外のチョコ貰うの禁止! 絶対受け取るなよ!」
    「……え?」
     必死の形相で言う迅の言葉に嵐山を始め、柿崎もポカンとした表情で首を傾げた。
    「佐補か桐絵か迅……?」
    「そう! 佐補ちゃんか小南かおれ!」
     ポカンとしたまま復唱した嵐山に、再度強調するように迅は頷きながらそう叫ぶ。必死すぎる迅のただならぬ様子に横で見ていた柿崎も言葉を挟めず、ただ茫然と二人を見ているしかない。
    「……迅が、くれるのか?」
    「あげる! おれがあげるから! だから絶対に他の人から貰うのはやめて!」
     迅は嵐山に訪れるかもしれないあの不審物チョコレートを受け取る未来を阻止することに必死だった。
     あんな未来は絶対に来てはいけない。それを阻止するためには受け取らせないことが必然なのだが、なにせその不審物チョコレートを渡してくる人物が誰かも、いつかもわからないのだ。
     ならばもういっそ誰からも受け取らせないのが一番手っ取り早いし確実だった。
     この身内を溺愛する男に最愛の妹と従姉妹から受け取るなと言うのは無理だとわかっているし、あの二人は間違いなく安全圏なのもわかっている。
     反対にその二人以外は全員が怪しい。
     嵐山だって男なのだから、もしかすると身内以外からチョコレートが欲しいのかもしれない。でも彼の安全のためには我慢してもらうしかない……ならばせめて自分が渡そう、そう思っての迅の提案だった。
     だから迅は気付いていなかった。必死なのと未来視と阻止すべき対応策にいっぱいいっぱいになっていて気付けていなかったのだ。
    「……そうか、迅がくれるのか。わかった!」
     そう言って頷く嵐山の頬がほんのり染まり、嬉しそうに笑っていたことにも。
     そんな嵐山や、明らかに嵐山のその様子に気づいていないで「よし! これで防げる」とガッツポーズをとっている迅を、柿崎が生温い視線で見ていたことにも。
     遠巻きに見ていたクラスメイトが色々な意味でこの二人のやり取りに騒ついていたことにも。
     その後、速攻で今年のバレンタインは嵐山はチョコレートを受け取らないと学校中の女性陣を初め、嵐山ファンのネットワークに拡散されたことにも。
     
     
     その日の夜にベットに入りながら迅は確認のつもりで嵐山の未来を視ると、あの不審物チョコレートを受け取る未来が消えていた。
     未来の嵐山はきちんと自分との約束を守ってくれたのだろう。
     これで安心だ……と息をつきながら布団をかぶり、不意に日中の嵐山とのやり取りを思い出す。
     改めてあのやり取りを思い出し、迅は固まった。
     待て待て。あの時の自分のあの台詞はなんだ……?
     
    『おれがあげるから! だから絶対他の人から貰うのはやめて!』
     
     これはまるで……嵐山を好き過ぎるあまり独占欲丸出しの彼女のような台詞ではないか? ……まるでではなくその通りなのだが。
     自分と嵐山は友達だ。自分の嵐山に対する恋愛感情は外には出さず友達として接してきたし、これからもそのはずだ。なのに……あの台詞は、友達と言うものではないな? 完全にお前が好きで誰からもチョコレートもらって欲しくないという……恋心だけでなく独占欲まで丸出しの台詞ではないか?
     いやいや、自分はそんなつもりはなかった。あの未来を阻止するために、嵐山を守りたい気持ちだけで……。
     ……いや、正直に言うと嵐山が女の子から恋心が詰まったチョコレートを笑顔で受け取るのは面白くないとか、モヤモヤしたものがないと言えば嘘になるが。
     好きすぎて独占欲がないのかといえば、それも嘘になるが。
     つまり、迅は隠していたつもりのこの恋心を無意識のうちに本人に向かって吐き出した状態になっていたことになる。……今更ながらそれに気づいてしまった。
    「う……、うああああああー!」
     恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。
     両手で顔を覆いながら叫び、それでも湧き出る羞恥に耐えられずベットの上を右に左にと転がる。
     残念ながらそんなことをしても羞恥は消えず、ますます転がる動きや叫び声が大きくなり、結果ベットから落下した。
     
     …ベットから落ちて打った尻は痛いし、叫び声とベットから落ちた音やらで煩いわよ! と小南に突撃され、木崎に心配され、それでも消えない羞恥と明日どんな顔で嵐山に会えばいいんだという悩みで……迅は眠れない夜を過ごすことになる。
     
     
     ***
     
     
     嵐山准の容姿は優れている。
     だが、それは嵐山一人だけと言うわけではない。
     父も母も、祖父や祖母も昔の写真を見ると疑うことなく美男美女だ。弟や妹も今は幼さやあどけなさが目立っているが成長すれば間違いなく兄に負けないくらいの容姿になるのは予想が出来る。従姉妹である小南桐絵も黙っていれば間違いなく美少女だ。
     なので、容姿が優れているのは嵐山一人だけの突然変異と言う訳ではなく、一族の血筋なのだろう。
     その為、両親も祖父母も容姿が優れている人間が決して良いことばかりを体験するわけではないことを、この容姿によって人の悪意や不条理な目に遭うことを知っていたし、それが嵐山に訪れることを憂いていた。
     だから、少しでもそんな出来事が嵐山に訪れないように、防げることは事前に避けて行けるように気を使い教えてきていたのだ。
     
    「准、気持ちが込められた贈り物を受け取る時は自分も同じ気持ちを返すんだよ。だから、同じ気持ちを返すことができないのなら貰うべきではないよ」
     
     小さい頃そう教えてくれたのは祖父だっただろうか、祖母だっただろうか。
     その言葉がきちんと嵐山の心に残っていたので、幼い頃からよく女の子からプレゼントやバレンタインにチョコレート等を贈られる機会があったが、基本的には断り受け取らないようにしていた。ある程度大きくなってきてからは大なり小なり人付き合いと言う関係で受け取らない選択肢が選べなくなる時があったが、その時は同じ気持ちは返せないときちんと誠実に伝えてきた。
     今ならばあの言葉の意味がよくわかるし、不要なトラブルを避けるのにも的確な教えだったと思う。
     よく嵐山はバレンタインで沢山貰って羨ましいと言われることがあるが、ほとんどは断っているので、周りが思うほど貰ってはいない。きちんと贈られた気持ちに返せるもの、友達としての義理だったり、ついでのお裾分けのものであれば同じくらいの気持ちを返せるのでお礼を言って受け取る。だが、恋愛感情を持って贈られるものは自分は気持ちを返せないので受け取る事はできない。
     嵐山がそういう意味で気持ちを返すことができるのは一人だけだ。 
     その相手はきっと自分と同じような気持ちを自分には持っていないだろう、それでも良いと思っている。人の気持ちなのだから、それは仕方のないことだ。
     でも、自分が貰いたいと思っている贈り物をもらう事はないのだと思うと胸の奥が切なく痛むのを感じた。
     そんな中で言われたあの言葉。
     
    『おれがあげるから! だから絶対他の人から貰うのはやめて!』
     
     迅が、自分にチョコレートを贈ってくれる。
     きっと何か事情があるのかもしれないのは、その前の迅のただならぬ様子から察する事はできた。
     でも、それでも迅がバレンタインにチョコレートを自分に贈ってくれると言ってくれた。
     他の人からのなんて、気持ちを返すことができないから受け取れないし受け取らない。
     自分が気持ちを込めて受け取りたいのは一人だけだ。
     
    「……そうか、迅がくれるのか。わかった!」
     
     嵐山はずっと心に秘めていたが、迅悠一に絶賛片思い中だった。
     
     正直バレンタインは少し憂鬱で面倒な日だったが、今年からはバレンタインが来るのが楽しみで仕方ない日になった。
     迅からチョコレートを貰えると決まった翌日、ウキウキと楽しみが隠しきれずにいる嵐山と、嵐山の様子を伺いながら赤くなったり青くなったりと挙動不審な様子を見せる迅を柿崎はしばらく見守ることになるのだった。
     
     
     ***
     
     
    「こちらをお納めください」
     そんな台詞と一緒に高校の教室の自分の席に、なんの変哲もない机に綺麗にラッピングされた小ぶりな箱が置かれた。
     二月十四日、バレンタインデーである。
     高校二年のバレンタイン前に盛大に教室内で大きな声で「おれ以外のチョコレートは貰うな発言」(迅から盛大に違う! そんな風に言ってない! と異議が入ったが、その訴えは無視された)があったせいで、周りのクラスメイトは「ああ、例のやつね」と迅が嵐山にチョコレートをこうやってみんなのいる教室内で贈っても、違和感なく受け入れられていた。
    「ありがとう!」
     いつもの倍はキラキラと輝いた笑顔で嵐山はそのチョコレートを受け取った。
    「うっ、眩しい……」
     あまりのキラキラした笑顔に迅が小さく呻く。
     いつも嵐山の笑顔はキラキラと眩しいのだが、今日は一段とその威力を増している。それは受け止める迅自身の気持ちの部分もあるが、実際に嵐山自身の気持ちの部分で本人は無意識でも高揚する気持ちが抑えきれず、笑顔に溢れていた。
     そう、あの「おれ以外のチョコレート貰うな発言」(だからそんな風に言っていない! と迅が異議をとなるがやはり却下である)の時は互いが互いに片思いしていた二人であるが、今年のバレンタインはあの時とは違う。
     なんだかんだあって……本当になんだかんだあって晴れて二人は両思いになれたのである。
     それからのバレンタインだ。一見何も知らない人が見たら友達同士へのチョコレート献上と見えるだろうが、本人達にとっては渡す方も渡される方も気持ちや思い入れが違う。
     思っていたよりもドキドキしながら渡した迅は、無事に渡せた達成感で安堵のため息をつき机に突っ伏した。
    「あ、これ……美味しいって評判良いんだろ? 佐補が言ってた」
    「そうそう。佐補ちゃんのお墨付きで小南も美味いって言ってた。この前俺も教えてもらったの」
     突っ伏した姿勢のまま顔だけを上げて迅はそう言った。
     佐補や小南のおすすめなだけあって手に入れるのは大変だったが、これで喜んでもらえるのであれば苦労した甲斐はある。
    「おれも食べてみたけど美味しかったよ」
    「……そうか」
     先程までニコニコしていた嵐山が急に真顔になり手にしていたチョコレートを見つめ始めたので、迅はあれ? と首を傾げた。今のやり取りで嵐山が真顔になってしまうような部分があっただろうか?
     迅が首を傾げている頃、嵐山はこの前見てしまった光景を思い出していた。
     先日、ボーダー本部にてたまたま見てしまったのだ。
     迅が女性隊員からチョコレートを貰っていた。
     少し恐縮したように迅はそのチョコレートを受け取っていたが、それがずっと引っかかっていたのだ。
     迅はこう見えてずっと真摯で誠実な人間だから、自分と両思いになった以上は他の人の告白を受け入れるとは思えない。そこは迅という人間を信頼している。
     チョコレートを渡されたからと言ってそれが告白とも限らない。もしかしたらその子は以前迅に世話になったり助けられていてそのお礼として渡したことも考えられる。
     迅はこの件について嵐山に何も言ってきていないのだから、嵐山としては別に気にしなくて良い案件なはずだと頭ではわかっていても、なんだか気になるし気に入らないのだ。これが嫉妬やヤキモチというものだとわかっている。だから飲み込んで心の奥底に沈めようと思っていたが、迅が美味しかったよと言ったそのチョコレートはもしかしたらその時のチョコレートだったかもしれない、そう思ったら奥底に沈めた感情が浮上してきてしまった。
     嫌だ。なんだか嫌だ、迅は俺のだ。
    「……なあ、迅」
    「ん?」
    「俺はちゃんと約束通りあれから佐補と桐絵と迅以外からは貰っていないぞ」
    「うん? ……うん、そうだね」
     言葉の真意が掴めず、迅はキョトンとした表情で嵐山を見る。
     真剣な表情で嵐山は真っ直ぐに迅を見つめるので、咄嗟に迅は机に突っ伏していた姿勢から真っ直ぐ背筋を伸ばして手を膝の上に置いた。
    「だから、迅。お前も俺以外にチョコレート渡すなよ」
     きっと迅の立場上、色々考慮して全てを受け取るのを拒絶するのは難しいというのは嵐山だって理解しているつもりだ。最善の未来を選ぶのに行動する、そんな彼の行動を例え些細な出来事でも何に影響するのかわからない以上、制限すべきではない。
     制限すべきではないとはわかっていても、でもせめてこれだけは……これくらいは両思いになった相手として我儘として言っても良いだろうか。きっとこの我儘でも迅の最善の選択をするときに邪魔になるのだったら、きっとそう言ってくれるだろうと信じて嵐山はそう言った。
    「……お前なぁ……人を誰にでもチョコレートを配る奴みたいに言うなよ」
    「ぼんち揚は配っているだろ」
    「誰がぼんち揚配り星人だ! ぼんち揚は美味しさの布教も兼ねて配ってるんだよ」
     はあー、と大きくため息をついて迅は真っ直ぐな姿勢から脱力するように椅子の背もたれに寄りかかる。
    「はいはい、あげないよ。頼まれてもお前以外にあげない」
    「そうか……!」
    「だいたい何でお前以外に渡さなきゃいけないんだよ」
    「そうか、そうだよな……うん、ありがとう迅!」
     呆れたように言ってみせるのに、嵐山の表情がみるみる内に明るいものになり嬉しそうに頷いた。
     何が嵐山の琴線に触れたかはわからなかったが、とりあえず嵐山が嬉しそうに笑ってくれるならそれで良いかと迅は思う。
     頬杖をついて嬉しそうに笑っている嵐山を見ながら、迅も無意識に笑みが溢れる。
     売店から戻ってきた柿崎と生駒が二人を見て「何、二人でニコニコしとるん?」と言ってくるまで、二人はただただお互いの嬉しそうな顔を見て笑っていたのだった。
     
     
     ***
     
     
    「うー……あー……」
     玉狛支部のリビングにて、ずっと小南の前で迅は机に突っ伏して唸り声を上げ続けている。そのうち静かになるかと思い放っておいたが静かになる気配はない。
    「うううう……うあああ……」
    「ちょっと、煩いわよ」
    「むああ……小南におれの海より深い悩みなんてわからないんだ……ぬああ……」
    「どうせ准に渡すチョコレートのことでしょ」
     まさかドンピシャで当てられるとは思っていなかった迅は動きも呻き声もピタリと止めた。
     なぜ小南が嵐山へ自分がチョコレートを渡すことを知っているのか?
     ……嵐山だ。きっと間違いなく嵐山が小南に報告したに違いない。
     迅を悩ませているのは小南のいうとおり嵐山へのチョコレートだ。渡すこと自体はいい。問題はその渡すチョコレートをどこで入手するかである。
     いくら食事当番で食事を作っているとは言っても、お菓子作りなどしたことはない。精々、陽太郎のおやつで作ったホットケーキぐらいだ。なので手作りという案は真っ先に消えた。
     ならばスーパーやコンビニにある普通のチョコレートと思うが、それではあまりにも味気ないし、他の人からのチョコレートは貰うなとバレンタインの楽しみを奪ってしまった以上それなりのものを用意するのが奪った人間としての礼儀だろう。後、嵐山にこんなものかとガッカリされたくない。
     だからと言って、それなりに気合いの入ったチョコレートが売っている場所といえば、時期が時期なので沢山の女性で溢れている。……一般男子高校生の自分が単身突撃するには難易度が高すぎるのだ。
     ならばどこで手に入れるべきか? それでずっと迅は悩み続け唸り続けているのである。
     小南は何も悪くないし誰のせいでもないのはわかっているのだが、つい恨みがましい視線で小南を見てしまう。そんな迅の視線など気にすることなく小南は何かのパンフレットを眺めていた。
    「……それ、何のパンフレット?」
    「デパートでバレンタインチョコレートの催事をやってるのよ。今度行ってみようと思って」
     そう言いながら楽しそうに色とりどりなチョコレートの写真が載っているパンフレットを眺めている。それはまた、女性が溢れていそうな空間だな……と、そこにいく自分を想像してゾッとした。
     いや、待て。
     迅はふと気づき小南をじっと見つめた。
     その視線に気づき小南が怪訝そうな表情を見せる。
    「何よ?」
    「それ行くの、おれも行っていい?」
     自分一人で行くから耐えられないのだ。小南と一緒に行けば小南の付き添いという体で言い訳ができるし、その華やかで色とりどりな気合いの入ったチョコレートを手に入れることができるではないか。ヤバい名案すぎる、おれさすが実力派エリートだぜと内心で自画自賛する。
    「……いいけど、宇佐美も誘うわよ」
    「うんうん、いいよ」
     さすがに小南も例えそんな関係ではないという事実があっても、迅と二人でバレンタインチョコ売り場に行けば誤解される可能性があると思ったのだろう。普段のスーパーへの買い物等ならば全然気にせずに二人で出掛けるのは良くやるが、バレンタインチョコレート売り場で同じ学校の人間に会って誤解されるのは困る。
     また、宇佐美と出掛けようとこの前話していたので良い機会だった。
     宇佐美栞は今度、玉狛支部に異動してくる本部のオペレーターだ。小南とは同い年で宇佐美自身も面倒見が良くフランクな性格なので小南とも打ち解けていい関係を築いているらしい。二人が仲良くなっているのと、自分の悩みが解決したことに迅は気分が上向きになってくる。
     
     そうしてこの年は小南と宇佐美そして迅の三人でデパートのバレンタインチョコレート売り場に行って無事に嵐山へのチョコレートを購入することが出来た。二人へはお礼としておしゃれなカフェでやたらと生クリームやイチゴの乗ったパンケーキをご馳走することになったが……。
     
     
     そして、その戦法は翌年も使われた。
     小南と宇佐美も心得ていたもので、一緒に行くんでしょ! とすでに決定事項として行く日程と時間を決められ……報酬としてその催事に、今年初めてくる有名なブランドのお高いチョコレートを買わされたのだった。
     その年は晴れて両思いという関係になってからの初めてのバレンタインということもあり事前に嵐山の妹である佐補よりリサーチしたブランドのチョコレートを購入した。その時に試食をさせてくれたので食べてみると、佐補がオススメというだけあり甘さもそんなに強くなく美味しいと思えたものだったので自信を持って献上したのである。
     ……その試食の感想が、まさか嵐山の嫉妬心や独占欲に火をつけるなんて思ってもみなかったが。
     
     
     その翌年。すでに高校は卒業してしまったので、チョコレートを渡すのは学校の教室からボーダー本部の嵐山隊隊室に変わっているが、いつものように「お納めください」「ありがとう!」というやり取りを無事に終えた。
     その後の雑談の中で、今までチョコレートを買うのにこんな風に乗り越えてきた話を笑い話のつもりで迅は話していた。そう、今となればあの悩みも苦労も笑い話になる……と思ったのだが、嵐山はそうではなかったらしい。
     急に嵐山の笑顔が消えてスン、と真顔になった。
     え? なんで? と戸惑いながら迅は嵐山の様子を伺う。
    「浮気か?」
    「…え? なんで?」
    「俺以外にチョコあげたのか? 浮気だな」
    「いやいやいや! 待って。小南と宇佐美だよ?」
    「浮気だな」
    「だから小南と宇佐美だってば!」
     聞く耳を持たずに「浮気だ」と繰り返す嵐山に、迅は必死で弁明する。
     自分と小南や宇佐美がそんな関係になるわけがないことを嵐山だってわかっているはずだ。それにあの話は誰がどう考えても浮気になる話じゃないはずで……どうやっても自分一人でチョコを買いにいけないヘタレた自分にあの二人が付き合ってくれた(の割には自分達の目的のチョコを手に入れていたし、迅なんかよりずっと楽しんでいたのだが)話だったはずだ。それに、正確には迅が二人にチョコレートをあげたのではなく買わされたのが正しいのだが……。
    「浮気は許さないぞ」
    「あーもう! そうじゃないってば! あの二人にはそういう感情はありません! おれがそういう感情あるのはお前だけだって!」
    「そういう感情?」
    「だから! 好きなのはお前……っ! おまっ……!」
     にっこりと笑顔を見せる嵐山を見て迅は言葉を失った。
     自分が嵐山の思惑に嵌められたことと、言わされてしまったことへの恥ずかしさに顔を覆ってうずくまる。
     嵐山は迅とあの二人が浮気をしていないことなんて良くわかっていた。わかっていてわざとあんな態度をしていたのが、それは迅から好きだと言わせたかったのだろう。
     今回は迅より嵐山が一枚上手だったようだ。
     ソファーに沈み呻いている迅の頭をポンポンと撫でながら、嵐山は嬉しさを隠すことなく「ありがとう、俺も大好きだぞ」と言ってくる。
     
     この後、浮気と疑われたらかなわないということでバレンタインにチョコレートをお互いに他の人から貰わない、あげないことというルールが二人の中で出来上がることになった。
     さらにその後には買いに行くのは色々障害があるので(特に嵐山がだが。ボーダーの顔がデパートのバレンタインチョコレート売り場に現れ、チョコレートを買って行ったとなったら中々の騒動になりそうだったので)お互い手作りでという話になり、最後にはいっそ一緒に作って一緒に食べようとなるのであった。
     
     
     今度のバレンタインは高校の教室でもなく、本部の嵐山隊隊室でもなく、二人で暮らす家で迎えることになる事をこの時の二人はまだ知らないのである。

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