CRYONICS　この世界における聖人に因んだ日らしく、世間はお祭り騒ぎだった。光の装飾に巨大な木の飾り、赤い衣装にプレゼント、特別なディナーに甘いケーキ。ボクも兄さんもこうした催しを無邪気に喜ぶ性格ではない。けれど、恋人然としたイベントを逃すのも惜しく思えた。
　結局祭りに便乗することを決めて、チキンを詰めた箱を抱えて愛しいひとのもとに向かう。丁寧なラッピングが施されたプレゼントは大きな紙袋の中だ。
　大寒波が襲来中らしく、雪が舞っていた。翌朝には積もっているだろうか。雪だるまを並べるなんていうのも懐かしくて少し面白いかもしれない。
　施錠された扉を断りなしに開けて、中へ入る。暖房はついておらず、ひんやりとした空気が満ちていた。
「兄さん、メリークリスマス」
　寛いでいるであろう部屋に入り呼び掛ける。微笑みながら兄は迎え入れてくれた。兄の姿を見て思わず笑う。それと同時に白い息が漏れた。
　兄の目の前に行き、買ってきたチキンとプレゼントをテーブルに並べる。自分の姿が浮かれているように見えていたら気恥ずかしい。
「今年はね、ちょっと良いものを買ったよ。奮発したんだ」
　開けて見せるね、と一言断ってからプレゼントの包みを開く。一級品の革を用いた白いジャケットは、兄に似合うだろうと一目惚れして購入を決めた。広げて見せてから、兄に着せる。やはりよく似合っていた。
「今日は、外もここと変わらないくらい寒かったよ」
　雪がちらついていた外の話をする。兄の前に置かれた霜のついたテーブルは、素手で触れると凍傷にでもなりそうだった。兄は静かに微笑んでこちらを見つめている。
「さ、お祝いしようか」
　兄と一緒に保管してあった飲み物を取り出して、グラスに注ぐ。凍りついてしまう前に乾杯をして飲み干した。
「今年も一緒に祝えて良かった」
　冷えきった兄の頬に触れながら言葉を紡ぐ。睫毛に薄く氷が張り付いて美しい。そのまま、血の気のない唇に自分の唇を押し当てた。薄皮が剥がれたが気にならない。
　クリスマスソングも聞こえない、聖人が訪れるための煙突もない。けれどもこの冷凍室が、ボクにとっての楽園なのだ。

「シアワセだね、兄さん」