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    かもめ

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    かもめ

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    過去作。20201006

    #瀬耳
    earsAtTheBaseOfARapids
    ##ヒロアカ

    【hrak】瀬+耳とコーヒー「ほい、これで良かった?」
     その言葉と共に、プラスチック製のカップが目の前の小さなテーブルに置かれた。
    「ありがと。幾らだった?」
    「んーっと、ちょっと待って」
     レシート仕舞っちまった、と眉間に皺を寄せながら、瀬呂は耳郎の向かいの椅子に腰掛ける。耳郎に差し出したカフェラテと反対の手に持ったカップの中身は、アイスコーヒーのようだ。同級生でブラックコーヒーを飲める人物に出会ったのは、これが初めてかもしれない。
    「芦戸から連絡きた?」
    「さっき来た。あと20分くらいで着くって」
    「20分かあ。微妙な時間だな」
     瀬呂は店内にある洒落た時計を見上げて言った。耳郎も頷きながら、カフェラテのストローを唇に咥える。吸い込んだ液体は、思っていたよりも苦かった。
    ──そういえば、瀬呂と二人で話すのって初めてかもしれない。
     席は前後だし、芦戸や上鳴や、耳郎にとっても気が合う面子とよくつるんでいるので、会話が少ないわけではない。しかし面と向かって一対一になる機会は、これまで巡ってこなかった。
    ──わざわざ誘って遊びに行くほど仲良くはないし。
     今日だって本当は芦戸が言い出した外出のはずだった。クラスの大半と同行したショッピングモールでの買い物で、買えていないものがあるのだという。同じく林間合宿の準備が整っていなかった耳郎と瀬呂も交えて再度買い物に行こうと話がまとまって、休日の駅前で待ち合わせることになった。
     それなのに芦戸は遅刻してきて、耳郎と瀬呂はチェーンのカフェで差し向いになって時間を潰している。沈黙が気まずくて共通の話題を考えるものの、天気のことか学校のことくらいしか思いつかない。
    ──そもそも、瀬呂が何が好きとか普段学校以外で何してるとか、あんま知らないし。
     カップの蓋に刺さったストローを無駄に回しながら、耳郎は思った。いっそのこと恋人の有無でも聞いてみるか、と思考があらぬ方向に向かい始めたところで、「この前さあ」と瀬呂が口を開いた。
    「この前さ、上鳴と出かけたとき、ここの店の期間限定のやつが飲みたいっつって聞かなくてさあ」
    「あー、アイツ、期間限定とか好きだもんね」
     瀬呂の口から出た話題も、当たり障りなくクラスメイトの話だったことに何故かほっとした。瀬呂と上鳴って一緒に出掛けるんだ、と思いながら相槌を打つ。
    「めーっちゃ並んだのにあんま美味しくなかったらしくてさ、この店見るたびに思い出すんだよね」
    「美味しくなかったって、いつのやつ?」
    「ほら、なんか先月やってた、マンゴーの」
    「ああ、あれ、ウチも気になってたけど、美味しくなかったんだ」
    「俺は飲んでないけどな」
     瀬呂はそう言って、アイスコーヒーをストローで啜った。カフェラテでも苦く感じるのに、よくブラックとか飲めるなあと耳郎は感心する。
    「耳郎も限定とか好きな方?」
    「うーん、ウチはあんまり。気にはなるけど、気づいたら終わっちゃってたり、人が並んでるの見たらいいやって思っちゃったり」
    「だよなあ。俺もそのタイプ」
    「上鳴みたいなのがいないと、食べないんだよね、限定」
     わかるわかる、と瀬呂は笑って頷いたあと、「あー、でも」と言葉を続けた。
    「アレだけは俺毎回食べるかも、秋の、月見のやつ」
    「ハンバーガー?」
    「そう。アレ美味くね?」
    「うーん、あんま食べたことない」
    「マジで!?」
    「どっちかといえば、ウチは冬のグラタン派かな」
     アレ全部小麦粉じゃん、と瀬呂に笑われて、美味しいからいいんだよ、と唇を尖らせる。じゃあ秋冬は上鳴や芦戸も誘って期間限定のハンバーガーを食べよう、と口約束を交わした。瀬呂と直接外出の予定を取り決めるのは、これが初めてだ。
     ちょうどそのやりとりがひと段落したとき、「駅着いた! 今どこ!?」と芦戸からメッセージが入る。「じゃあ行くか」と瀬呂に言われ、耳郎はカップの底に残ったカフェラテを飲み干した。最初は苦いと思ったけれど、慣れれば案外美味しく飲めそうな味に感じた。

    fin.
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