2.22cmの壁「火神君、血が出てます」
「えっ?」
一・二年混合の紅白戦中、黒子が火神に走り寄って来て知らせた。
「首の後ろのとこ」
黒子は自分のうなじを指差しながら言う。
「多分、切れてます」
「え、マジか!」
火神が自分のうなじを手で触る。
「いや、血ィ出てねぇけど」
「多分、乾いたんだと思います」
しゃべりながらも、二人の視線はエンドラインを見つめている。スローインに備えてお互いが動く。
コートにボールが戻ってきた所で終了のホイッスルが鳴った。
メンバー入れ替え後、火神はリコに指示を仰いだ。
「カントク、すんません、なんかオレ、血ィ出てるらしいんスけど」
「えっ、どこ? ワセリン、今切らしてるのに」
リコが救急箱を確認しながら、やっぱ無いかぁと呟く。
「どっから血が出てるって?」
「や、首の後ろから……」
火神がリコに背中を向ける。
「首の後ろ……って、しゃがんでくれなきゃ見えないわよ」
あ、そうか、と火神がおとなしくその場にしゃがむ。
「あっ、ほんとだ。でも、もう乾いてるみたいよ? 絆創膏ならあるから貼ってあげるわ」
その時、少し離れたところで主将の日向がリコを呼んだ。
「はーい、今行くー! 黒子君、悪いけど火神君の首のとこ貼っといてあげて」
リコは絆創膏を黒子に渡して、小走りに行ってしまった。
「じゃあ、貼ります」
黒子はペリペリと紙包装を剥がた。
「なあ、いつから気付いてたんだ?」
火神がしゃがんだまま、首を下げた姿勢で後ろの黒子に聞く。
「何がですか」
「血が出てたって」
「ああ。さっき火神君が紐を結び直してる時に」
確かに試合前、シューズの紐を結び直した。そういえば、その前のゲームでは、ゴール下での接触があった。切れたのなら、その時かもしれない。
黒子が火神の首に絆創膏を当てる。左右の剥離紙を引っ張って貼り付けた。
「できました。もういいですよ」
声を合図に火神が立ち上がる。黒子の目の前が途端に暗くなった。
「……デカイですね」
思わず黒子が呟いた。
「あぁ?」
振り向いた火神に見えたのは、黒子の頭だ。
「20cm 違いますもんね」
「22cm な」
「………………」
火神の顔を見ていた黒子が、ふと視線を足元へ落とした。
「火神君。シューズが」
「? なんだよ、シューズが」
「よく見てください」
黒子の言わんとすることが分からず、火神がはてなマークを飛ばしながら再びしゃがむ。
「こうすれは、ボクの方が高いです」
「はぁ!?」
すぐに立ち上がろうとする火神の頭を、黒子が片手で押さえ込んだ。
「黒子、何のつもりだテメェ……」
「なんか悔しかったので」
怒った火神が立ち上がろうと、さらに足に力を入れるが、黒子もそれを力を入れて押さえ込む。
二人の足と腕が震えている。
「離せよ黒子……!」
「壁なんかありません……、横になれば……一緒です……!」
「意味わかんねェよ!!」
ホイッスルが鳴った。
急に黒子が手を離したので、火神がよろける。その隙に黒子は走って行ってしまった。
「やっぱ、気にしてんのか……」
火神は後ろ頭をかきながら、ゆっくりと立ち上がった。