薄明の頃むかしむかし、その港がようやく街の体をあらわし始めた頃、人々は未だ満足に文字を書くことが出来る者が少なく巨大な共同体を営むことに難儀していた。文字だけではなく物事の名称を知らず、仕組みを解せず、岩王帝君は人々の新たな日々の暮らしと安全を確保してやることが忙しく、細かな作業に目を配る者を必要としたが──気位の高い仙人たちには難しい役割だった。しかし、あるときまだ少女の姿をした者が人々の前で筆を取り、岩王帝君が示した役職とその職務を細かに書き出しては人々に読み聞かせ、慣れぬ作業を彼らが一度には覚えきれぬ事柄を丁寧に記録したのだった。以降、文字の読み書きを学んだ者たちがそれを伝えあい、ようやく人々は自らの集団を組織する方法を覚え始めた。
岩王帝君が外敵から彼らを守り、指針を伝えるたびに書物は厚くなり改良が加えられ、少女は書籍の編纂を彼らに教えた。
黎明のその頃、特に人望が厚く聡明だった者が人間の中から七人、少女と共に綴られる文書を囲むことになる。──怯えながら彼らの前へ進み出て筆を取った少女の頭上には明らかな角があり、人ではないことを物語っていたが、半分は彼らとも血を同じくしていた。
少女の名を甘雨、神の眼を得る僅かに前。