Killing me softlyふに。ふに。
ふに。ふに。
「……」
自分の隣で気持ちよさそうに眠るテッドの唇があまりに愛らしく見え、ウェドは手を伸ばして優しく指で触れた。
柔らかくて、あたたかい。そっとつついては離し、その感触をひっそりと楽しむ。
「……むぅー………」
「…!」
触れられたことに反応したのか、テッドが毛布の下でもぞもぞと身じろぎした。
ウェドは一瞬手を離す。が、テッドが寝入っているのを確認すると再び唇をつついて遊び始めた。
ふに。ふに。
ふに。ふに。
「……ふふっ」
堪えきれず笑みが溢れる。
──なんて愛おしいんだろう。
こんな穏やかな時間も、テッドの存在も、こうして彼が自分の隣で安心して眠っているという事実も……何もかも、少し前の自分なら自ら拒絶して切り離しているものだったかもしれない。
母親が自分の赤ん坊を抱えて「食べてしまいたいくらい可愛い」などと言っているのを幾度か見たことがあったが、その気持ちが今ようやくわかった気がした。
テッドに幸せでいてほしい。
悪意も、危険も、どうしようも無い哀しみも。彼が背負えなくなった分は、自分が一緒に背負ってみせる。
これからテッドと並び立って歩いた先で見る景色は、一体どんなものなのだろう。
唇をもてあそんでいた指が頬を撫で、髪を梳く。
心の深いところから底知れず湧いて溢れ出す愛しさが胸をきゅうと締め付ける。
触れていたい。そばにいたい。
自分を求めて欲しい。もっと、もっと。
(…そうしたら俺はいつだって、君を満たしてやりたいと思ってるんだ。君が俺にそうしてくれるのと、同じように…)
ウェドはそっとテッドの頬に顔を寄せ、唇に触れるだけの口付けを落とした。
「……」
穏やかな寝顔がまた愛おしい。
ウェドは毛布をかけ直し、目を閉じて………
………眠りに落ち、なかった。
「…!」
唇をむに、と押されて目を開く。
目の前に、眠い目を擦りながらいたずらっぽく微笑むテッドの顔があった。
「……キス、したでしょ、さっき」
「参ったな。起こすつもりはなかったんだ」
「知ってる、だってすごく優しかったから」
テッドはくすくすと笑いながらウェドの首に腕を回し、今度はテッドからウェドに口付けた。啄むだけの優しい口付けに、テッドは幸せそうに微笑む。
「…眠れないの?」
「そうだな、君があまりにも愛おしくて感慨に耽ってたら眠れなくなっちまった」
「寝てるだけの俺見てても楽しくないでしょ、逆に眠くなりそうだけど」
「君は隣で寝てる俺を見てどう思う?」
テッドは暫し考えた後、ニヤニヤしながら自分を見つめているウェドに気付いて、唇を尖らせ眉を寄せた。
「……意地悪言うなよぉ」
「はは、さて、何を想像したんだか」
笑うウェドの顔にかかった前髪を払う。
もう一度軽く口付けて、テッドは優しく微笑んだ。
「ね、ウェドが眠るまで、俺が抱き締めててあげる。だから『おいで』、ウェド」
普段自分が言われる言葉をわざと強調して言って見せる。
「…お言葉に甘えようかな」
ウェドは片眉を下げて目を細めると、自分に向けて広げられたテッドの腕に潜り込み、平らな胸に頬を寄せた。
心臓がとくんと脈打っている。背中を優しく撫でる指の感触が心地よい。
気がつくと、頭の上からすうすうと寝息が聞こえてきた。
(俺が寝るまで、って意気込んでたのに…本当に、君はなんて可愛らしいんだろう)
ウェドはテッドの背に腕を回してそっと抱き締める。
あたたかな幸せが全身を包み込み、やがてゆっくりと眠りについた。