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    Ydnasxdew

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    アルさんのとこに乗り込んでいく直前。テッドくんへの気持ちを自覚したウェド

    #WT

    Precious Lights砂漠の夜風が冷たく身を切り裂いていく。
    遠くに見える先程発ったばかりの忘れられたオアシスの灯りを振り返り、俺は目の前の寂れた小屋の扉を開いた──……


    テッドの前に突然現れた、アルダシア・ガラムという男。
    あの男が現れてから、テッドの様子が目に見えておかしくなった。
    あんなに人懐こかった笑顔が陰を帯び、あからさまに俺といる時間を作らないようにしている。

    アルダシアを初めて見た時、全身の毛が逆立つような嫌な予感が背筋を撫でていったのを思い出す。
    人当たりの良さそうな雰囲気の裏にある邪悪。この俺がそれを見逃すものか。

    いずれ起こるだろう全面衝突の気配を感じ、俺はアルダシアのことを調べ始めた。

    だが予想通り、どれだけ調べてもほとんどこれといった情報が出てこない。どこにでもいる、『普通の中堅冒険者』。それが表向きの奴の「設定」なのだろう。俺が、『小さな交易船の若手航行士』だったように。
    古くからの情報網を駆使し、奴の正体はわからないまでも冒険者としての足取りは大体掴めた。やはり表向きの小さな依頼をこなしながら、裏で暗殺や密売、人身売買の斡旋に絡んでいたようだ。
    …その道を辿る先々で、俺はアルダシアの足跡とともにテッドの過去も知ることになった。

    没落貴族、リドア家の末息子。幼くしてその身を売られ、奴隷解放のその時までコロシアムで生活していた。
    しかしその出場履歴は少ない。記録と彼の容姿、年齢、貴族の息子という来歴を照らし合わせれば、彼がそこでどんな扱いを受けていたのかは想像に易い。

    以前たびたびアルダシアが目撃されていたという忘れられたオアシスへ向かい、住民に話を聞いて回った。
    奴は確かに頻繁にここを訪れていたようだ。

    「そうね、ちょうど貴方みたいな感じだったわ。人当たりが良くて、ハンサムでね…でもヌンがあれは危険だから近づくなって」

    「オアシスから少し離れたところにミッドランダーの男の子が住んでたわ。確かコロシアムにいたけど奴隷解放で傭兵になって、リトルアラミゴからうちに斡旋されてきたのよ」

    「ガラムさんがくるようになった頃は、あの子もよく笑いながら買い物に来てたもんだよ。ガラムさんのことを兄貴のように慕っていたみたいだった。しばらくしたらあまり姿を見なくなったがね、代わりにガラムさんがよく食材なんかを買っていったな」

    「あの子の事は心配してたの。もう昔のことだけど、夜中にこっそり集落の外に出たことがあって…ヌンには内緒よ?その時あの子の小屋の前を通ったら……その……わかるでしょ?苦しそうな声だった。きっと辛かったと思うわ」

    「そういえば何度か貴族が道を尋ねてきたことがあるな。ガラムさんに紹介されて、あの子を訪ねてきたとか…ああ、小屋の場所を聞かれたから教えてやったよ。今じゃもう誰も住んじゃいないと思うが…ほら、あそこにみえるだろ」

    劣化してギシギシとなる床板を踏み、俺はテッドの住んでいた小屋の中を調べて回る。
    使われていない食器、穴の空いたマットレスと毛布だけが転がった寝台。
    その下をランプで照らし、俺は怒りに息を呑んだ。

    嫌というほど見てきた、性調教用の道具だ。
    皮の拘束ベルト、荒縄、怪しげな薬の瓶、後孔を押し拡げておくためのプラグ。その残骸が、ここで何が行われていたのかを示している。

    あの男…アルダシア・ガラム。奴はここでテッドに客を取らせていた。
    おそらくテッドがコロシアムで慰み者になっていたことを知ってのことだろう。

    家族に捨てられ、孤独だったテッドに近寄り、自分に心を開かせ依存させてから、自らの懐を潤す「商品」として手元に置いた。身寄りもなく、誰も気にする者のいないテッドは、奴にとって最高に都合の良い駒だったのだ。

    あの善良さと、あの純粋さが、こうも裏切られ、利用され、踏み躙られていたとは。

    霊災以降、テッドを引き連れてリムサ・ロミンサへやってきたところで、大した噂もなくすぐにアルダシアは忽然とその消息を絶っている。
    そこから聞くのは、突然慣れない土地に一人置き去りにされ必死に生きてきた孤独な青年の話ばかりだった。

    湧き上がる憎しみと怒りが全身を震わせる。
    同時にどうしようもない無力感が心に迫ってくる。
    軋む扉を乱暴に締め、俺は呼び出した大鷲の背に飛び乗り砂漠を後にした。

    こんなに美しい星空も、今の俺には暗く淀んで見える。

    知れば知るほど、今までのテッドの姿が、言葉が、表情が、脳裏に浮かんでは消えていく。
    今ならわかる。あの時、あの瞬間、あの場面…彼がどんな気持ちでいたのか。何故あんなことを言ったのか。どうしてあんな顔をしたのか。
    …俺がどんなに深く、彼を傷つけてきたかということも。

    知らなければよかった。こんなことには気付いてはいけなかった。でも、もう認めなければならない。

    俺はテッドに、特別な感情を抱いている。
    だがこれをテッドに気付かれてはいけない。優しいあの子を想う資格は、俺にはない。
    俺の心を知れば、テッドはきっと苦しむだろう。

    …あの子を救わなければ。これ以上、あの美しく輝く魂を汚すような真似は許さない。

    そうだ。救わなければ。例え俺の身がどうなろうとも。

    「アルダシア・ガラム。…もうお前の好きにはさせない、絶対に」

    奴の居場所はもうわかっている。
    大きな翼の羽ばたきを聞きながら、ふわふかとした羽毛の上で外套の留め具を巻き直す。
    遥か遠くに見えてきたラノシアの灯台の灯りが、霧の中に怪しく光って見えた。
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