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    Ydnasxdew

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    Ydnasxdew

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    裏切り者・ウェド

    #WT

    Courageous pigeonテッドは暗く湿った貨車の中で、絶望に一人涙を流していた。
    あたりには啜り泣く人の気配。背中側で纏めて拘束された両手を動かす気力すら、今の彼には残っていない。

    信じたくない。思い出したくない。
    しかし頭は先程の出来事を延々と再生し続ける。
    なんで。どうして。

    ウェドが、裏切り者だったなんて。

    *****

    西ザナラーンでの任を終えて帰路に着こうとしていたテッドは、足跡の谷を通りすがった折に見慣れた姿を目にした。
    背の高い、灰茶の髪をした褐色肌の男が、岩場の陰に向かって歩いていく。

    (ウェド…?あんなところでなにしてるんだろ)

    テッドが遠くから様子を伺っていると、大きな柱を通り過ぎたあたりでウェドが突然その姿を消した。
    驚き慌ててウェドがいたあたりまで走る。付近を見渡しても、なにもない。

    (ま、幻……?いや、たしかにちょっと会いたいな〜なんて思ってたけどそんな…)

    自分の思考回路に疑問を抱きながら何気なく岩壁に手を伸ばすと、その手が空を切って身体のバランスが崩れた。

    「…う、わ!」

    地面に転がるすんでのところでなんとか踏みとどまることができた。
    ハッと後ろを振り返ると、生い茂る蔦の間から陽が差している。大きな柱の影になったうえに植物のカーテンでカモフラージュされた天然の隠し通路に、テッドはたまたま入り込めてしまったようだ。

    (もしかしてウェドもこの先に…?)

    通路の先は暗く、明かりも見えない。
    テッドは小さく息を呑むと、足元を探り、岩壁を伝いながらゆっくりと歩を進めた。

    しばらく先へ進むと、通路の先に明かりが見えてきた。
    気配を伺いながらそっと出口付近の岩壁に背を預け、光に目を慣らす。
    テッドが出た先は、山間の開けた盆地のようだった。必要最小限整備された地面に線路が見える。その上には小さな貨車がいくつかあるようだ。その貨車に、老若男女問わず何人かの人たちが乗せられている。
    木々の向こうで人の声がして、テッドは会話をよく聞こうと静かに近づき、茂みの中へ身を隠した。
    ここから少しだけ見える人影、その装いは帝国兵のものだ。足音からして他にも何人かいるのだろう。その中の一人が、誰かと話をしている。

    「…おい、実験所へ送るのはこれだけか」
    「どこかの誰かさんのおかげで前よりグランドカンパニーの監視が厳しいんでね。人攫いを蛮族のせいにするのにも限界がある」
    「ふん、まあいい、この人数じゃ無くても変わりないかもしれんが、第二実験所にはこいつらのうちの何人かを送れば文句は言われんだろう」
    「第二実験所だぁ?いつのまにそんなに手を広げたんだか。さすがは帝国サマサマ、ってやつかねぇ、その分俺たちにも恵んでくれよ、軍人さん」

    聴き慣れた声に身体が硬直する。

    そんな、まさか。

    「…ちっ、野蛮人が。約束の金だ、持っていけ」
    「…ああ、確かに確認したぜ。次の取引はしばらく間をあけてくれよ、これ以上目をつけられちまったら俺の身が危ねえんだ」

    ………ウェド。

    あまりの衝撃にテッドはしゃがみ込んでいた体勢を崩し、慌てて伸ばした手が枝を折って音を立てた。

    「何者だ!」

    脱兎の如く駆け出したテッドの長い後ろ髪を帝国兵の手が捉え、そのまま背後へ強く引かれる。

    「っぐ…!」
    「貴様、裏切ったか⁉︎」

    帝国兵の一人がウェドに向かって吠えた。
    テッドは縋るようにウェドへ目を向ける。

    (こんなの嘘だ。たすけて、ウェド…!)

    だが自分を見つめる青い瞳は冷たく影を帯び、その唇が歪んで嫌味に弧を描いた。

    「…なんだよ、せっかく可愛がってやってたのに…俺が信じられなくてあとをつけてきやがったのか?」
    「え………?」

    理解が追いつかない。ウェドが何を言っているのか、わからない。

    「俺が帝国を裏切るだぁ?冗談じゃねぇ。こんなに金になる仕事はねえからな。俺が裏切ったのはこいつらさ。ちょっと優しくしてやればすぐ尻尾振ってついてきやがる。こいつはお人好しの善人だから、そばに置いておけば隠れ蓑にできると重宝してたんだが……バレちまったなら仕方がねぇな!」
    「あうっ!」

    ウェドがテッドの腰を蹴飛ばし、地面に転がした。慣れた手つきでテッドを後ろ手に拘束し、再び突き飛ばす。

    「……そん、な……なんで……?」
    「ふ、ははっ、ははは!なんて顔しやがる!…てめぇがそうやっていかにも善人ですってツラして利用しやすそうだったからに決まってんだろ?恨むならこんなに簡単に騙されちまう馬鹿な自分を恨むんだな」

    テッドの両目から涙が溢れ出す。

    「はっ、ちょうどいい、こいつも連れてけ。金はいらねえや」
    「ウェド…!どうして!なんでっ!!」
    「うるせぇなぁ……自分の状況わかってんのか?てめぇはもう飛べやしねえ。せいぜい夢の中で琥珀の翼でも追うこったな!」

    帝国兵の男に強く腕を掴まれ、無理矢理立たされる。

    「嫌…嫌だ、嫌だ!離せよ!ウェド…!ウェドぉっ!!」

    必死に叫ぶテッドを振り返ることなく、ウェドの背中は帝国兵達の輪へ消えていく。
    抵抗も虚しく乱暴に貨車へ投げ入れられたテッドの背後で、鉄製の扉が閉まる無情な音がした。

    *****

    深い悲しみと絶望が、テッドの思考を支配する。

    (俺、また………また、捨てられたんだな…)

    優しかったウェドの表情が、その腕の暖かさが繰り返し思い出され、その度に先程の冷たい本性がそれを塗りつぶす。

    (そうだ。ウェドの言う通り、馬鹿だ、俺……なんて……なんて馬鹿なんだろ……)

    突然、大きなブレーキ音を立てて貨車が止まった。身体が大きく傾いで、冷たい床に倒れ込む。
    程なくして、眩しい光と共に貨車の扉が開いた。光の中に、人の輪郭が浮かび上がる。

    「…おい、大丈夫か。怪我はないか」

    目が慣れるにつれその影は徐々に形をとっていき、まもなくそれが薄水色の髪をした大柄な男性だということがわかった。

    「な……なに……?」

    テッドが目を細める。大柄な男の後ろにもまだ人がいるようだ。

    「リッターさん、中の人は?」
    「ああ、無事だ。…だが人数が合わん、ウェドの姿もない」
    「っ!あんた達、ウェドを知ってるの?」

    ウェド、という名前が耳に入るや否や、テッドはすぐさまリッターと呼ばれた大柄な男に話しかけた。

    「大変なんだ、ウェドはエオルゼアを裏切って、俺たちを帝国へ…」
    「ん?いや、君はなにか勘違いをしているな」

    リッターの背後から顔を覗かせた翠色の目をしたミコッテの男が、貨車の中で蹲っていた人たちに手を貸して降ろしながらテッドに説明する。

    「俺達は闇商人に拐われた人達を奪還する任務についている冒険者だ。ウェドはマルコという名の闇商人のフリをして取引場所へ向かい、拐われた人たちを貨車に乗せて、俺たちが貨車の軌道を変えた先で合流する手筈だったんだよ」
    「そんな…じゃあウェドは…?」
    「初めから裏切ってなんかないってこと。君、もしかしてウェドに一杯食わされたな?君だけ縛った縄の下に布が咬ませてあった。あいつ、君に怪我をさせたくなかったんだろうぜ」

    テッドの拘束を解くと、ミコッテの男は両手に持った縄と布をヒラヒラとかざしてみせた。離れたところで拐われた人々の解放を手伝っていたもう一人のミコッテの男が、真っ黒な耳と尻尾を小刻みに動かしながら近づいてくる。

    「しかしその様子…何かあったな。お前、何か知ってるんじゃないのか?」
    「俺…っ、ウェドを見かけて、たまたま隠し通路に入っちゃって…それで、ウェドが帝国兵と話してて…」

    先程の話を思い出す。
    ──マルコという名の闇商人のフリをして…──

    「あ…っ!ど、どうしよう…俺、あいつらの前で、ウェドの名前呼んじゃった…!」
    「…なるほど、ウェドはなんとかその場を誤魔化して君を逃したんだな。他には何か?」
    「あとは…なにか………」

    テッドは必死にウェドの言葉を思い出そうと目を閉じた。
    なにか、なにか言っていた。別れ際に……
    夢の中で、琥珀の翼を……

    「…っ!アンバー!」

    テッドがハッとして名を呼ぶと同時に、上空でピィーっ!と甲高い鳴き声がした。
    ウェドがいつも連れている、琥珀色の瞳をした美しい雌鷹だ。

    「琥珀の翼を追えって、そう言ってた!きっとアンバーのことだ!」
    「まず間違いないか。おそらく拐われた人は二手に分かれさせられた。もう一方の場所を伝えるためにあの鳥をよこしたんだろう…フェレル、聴こえたか」
    『ああ、聴こえてるよ、イサ。保護した人たちをキャリッジへ乗せたらすぐにそちらへ向かうから、先に行っていて』

    イサと呼ばれた黒毛のミコッテがリンクパールの通信を切り、ガンブレードにソイルを込める。

    「…ということだ。俺はあの鳥を追う」
    「バルド。俺たちも向かうぞ」
    「おう」

    リッター、イサ、バルドの三人はそれぞれに騎乗するものを呼び出した。
    地を蹴ろうとするその腕を、慌ててテッドが掴む。

    「待って!…ウェドは⁉︎」
    「…連絡はないが、あいつのことだ。例えとっ捕まっていても自力でなんとかするだろう」
    「そんな!なんでそんなこと言い切れるんだよ!」
    「…海の男の勘、というやつか」

    リッターの顔は無表情のままだが、頬をかく仕草が困った様子を代弁していた。

    「…俺が助けに行かなきゃ。俺のせいでウェドが危険な目に遭ってるかもしれない…!放っておけないよ…!」

    テッドの必死の訴えに、三人は顔を見合わせる。

    「……仕方ない。見たところ、お前も冒険者だろ。だが一人で行かせるのはちょっと不安だからな…」
    「…わかった、俺が同行しよう」

    リッターがテッドの腕を掴み、ひょいと持ち上げて大きなチョコボの上へ乗せた。

    「ル・イサとバルドは先行してあの鳥を追ってくれ。フェレルもまもなく到着するだろう、保護が終わったらすぐに場所の連絡を。俺はこの子とウェドを探しに行き、必要があればすぐに合流する」

    *****

    「クソッ、実験所へ向かった列車と連絡がつかない、やられた!」
    「貴様!あの貨車をどこへやった!」
    「ぐッ、は………っ」

    勢いよく腹を蹴られ、鉄柱に吊るされたウェドの身体が大きく揺れた。
    あの後、テッドと拐われた人々を乗せた貨車を出発させるまではなんとか身元を誤魔化す事ができたウェドだったが、流石に名前が違うことを怪しんだ帝国兵にあっという間に囲まれ、身柄を拘束されてしまった。

    「やはりただの商人ではなかったな…!貴様、冒険者か。仲間は何人だ、吐け!」
    「うぁッ!…がはっ……」

    帝国兵が背に叩きつけた杖から、ウェドの身体中に電撃が走る。

    「くっ……は、はは……懐かしい痛みだな……さっきから、言ってるだろ……俺一人だよ」
    「嘘をつくな!」
    「う゛っ…!ぐ……」
    「ちっ、まぁいい…。小隊を現地へ向かわせればいい話だ。おい、こいつを殺して街道に転がしておけ。他の野蛮人どもへの見せしめにはなるだろう」
    「はっ」

    目の前にいた帝国兵が一瞬後ろを振り返ったその瞬間、ウェドは脚を振ってその男の首を挟み、勢いよく捻って地面に叩きつけた。手首に仕込んだ小さな刃で自分を吊るすロープを切り、着地と同時に雷撃杖を持った帝国兵の足を払う。すぐに襲いかかってきた兵士の斬撃を躱し、拘束された両手に頭を通して絞めあげ、意識を失ったその兵士を背後から向かってきた兵士に向かって突き飛ばした。

    「貴様ァッ!」
    「おっと、悪いね」

    突き出された槍の一撃を手首を使って受け流し、拘束の縄を切る。
    そのまま槍をくるりと捻り、槍を介して帝国兵と背中合わせになった。

    「ああ!良い武器だな。切れ味も申し分ない、君によく似合うね」

    ウェドはそのまま身体を一回転させ、帝国兵を背中から羽交い締めにした。
    抵抗する兵士の兜が脱げ、年若い女の顔が露わになる。

    「だが君にはもっと似合うものがあると思うぜ。こいつは俺がもらうよ」

    的確に一点を圧迫され、女の意識が遠のく。
    ウェドは気を失って膝から頽れた女兵士を優しく地に横たえると、自由になった両手で奪った槍を構え、あたりを見渡した。
    どこから現れたのか、またしても帝国兵に取り囲まれている。

    「武器を置け、野蛮人め。どのみち貴様に勝ち目はない」
    「…やれやれ、たった一人を相手に数で勝負だなんて、無粋な真似をするじゃないか?」
    「戯言を。今観念して我々に降るというのなら、その命だけは助けてやろう」
    「人攫いに身を堕とすくらいならサメの餌になった方がまだマシだな。俺が死んだらラノシアの海に捨ててくれ、よっ!」

    言い終わると同時に槍を大きく旋回させる。
    一瞬ウェドの周りを青々とした光が取り巻き、大きく跳ねたその足元に炎が立ち上がった。
    怯んだ帝国兵達が尻餅をつく。包囲が解けた道に向け、ウェドは走り出す。

    「…ぐっ……!」

    が、突如としてその脚がもつれた。
    全身をビリビリと雷気が駆け抜けていき、瞬間身動きが取れなくなる。
    槍を取り落としたウェドに向かって、帝国兵が勝ち誇った声を上げた。

    「俺たちの使う武器だってただの道具じゃない。初めに電撃を浴びたのが運の尽きだったな、冒険者!…死ねぇ!」

    ウェドに向けて振り上げられたその剣が、ガキンと大きな音を立てて突然宙を舞った。帝国兵の手から剣を弾き飛ばした円型のシールドが、風を切って持ち主の手へ戻ってゆく。

    「おい、ウェド。陸に上がって腕が鈍ったんじゃないのか。リムレーンが泣くぞ」

    第三者の介入に声の方向を振り向くと、しかとつかまえた盾を振り、剣を構えたリッターが目にも止まらぬ速さで先頭の帝国兵へ斬りかかった。

    「ウェドッ!!」

    その陰から上がった声に、ウェドは目を丸くして手を差し伸べる。

    「テッド!君、どうして…!」
    「ごめん、話は後で!俺の後ろに隠れてて…!」

    テッドは引き起こしたウェドを背後に庇い、落ちていた剣を拾い上げて構えた。
    ウェドがその肩の向こうへ視線をやると、リッターが既に一人で何人もの帝国兵を打ち倒している。

    「は、さすが海賊」
    「どの口が言う!そっち行ったぞ!」

    斧を構えて向かってきた帝国兵二人を相手に、テッドも負けじと剣を振るった。
    金属が打ち付けられる音が響き、テッドの右腕に力任せに跳ね返された帝国兵が後ろへ弾き飛ばされる。
    その合間の死角から、剣を振り上げた大柄な帝国兵が飛びかかってきた。

    「あぶない!」

    リッターの叫び声が轟音に掻き消され、男の振り上げた剣先はテッドに届くことなく地に落ちた。
    大男は肩口を抑えて悲鳴をあげている。

    テッドが反射的に閉じてしまった目をおそるおそる開くと、自分の肩に手を回して守るように腕に抱き、前方へ銃を構えたウェドの姿が目に入った。

    「そう言われると俺も血が騒いじまう。海の男ってのは厄介極まりないな、リッターさん?」
    「…ああ、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ!」

    *****

    まもなくしてその場にいた帝国兵を蹴散らしたリッターは、全員を捕縛したことを確認してリンクパールを鳴らした。

    「俺だ。そちらはどうだ」
    『こっちもうまくいったよ。あの鳥を追って行った先に小さな収容所があった。』
    「おい、鳥って言うな。アンバーは賢くて美しくていい女なんだ」
    『とっ捕まったヒヨコちゃんがなんか言ってんな〜』
    「ちゃんと自力で逃げ出したぜ!」
    「途中まではな」
    『あ、拐われた人も僕らも全員無事だよ』
    『今から保護した人々も連れて帰投する』
    「ああ。みんなご苦労だった。俺は捕縛した帝国兵を不滅隊に引き渡してから戻る。ギルドで落ち合おう」

    通信を切り、リッターがテッドに向き直る。

    「悪いがそのヒヨコをウルダハまで送ってくれないか」
    「おいおい、ヒヨコ呼ばわりは勘弁してくれよ、カッコ悪いだろ?」
    「ふん、まともに歩けもしないくせによく言う。ちゃんと礼を言っておけよ。お前を助けに行くと言ってきかなかったのはその子だ」

    リッターの言葉に、テッドがバツが悪そうに目を伏せる。
    ウェドはその頭にぽんと手を乗せ、優しく撫でた。

    「…ありがとう、テッド。さっきはあんな酷いことを言ってすまなかった、びっくりしたろ。アンバーのこともみんなに伝えてくれたんだな。…本当に、無事でよかった」

    先程自分が冷たく突き放した時の、絶望しきったテッドの表情が頭に浮かぶ。
    …演技だったとはいえ、あの瞬間、テッドは心の底から傷ついただろう。その心境を思って痛む胸の内を隠すように、ウェドは言葉を続けた。

    「君が賢い子だっていうのはよくわかってた。信じてたよ」

    優しく微笑んだその顔を見て、テッドは再び溢れそうになる涙を堪えた。

    「…ぅっ、俺、ウェドが本気で、裏切ったのかと、思って……っ…!」
    「迫真の演技だったろ?もしかして冒険者より舞台役者の方が向いてるかな」
    「馬鹿ぁ!どんだけびっくりして…どんだけ心配したと…!」

    堪えきれなかった涙がテッドの頬を伝う。
    張り詰めていた気持ちがふっと緩んで、押し寄せた安心感に身体中の力が抜けていく。

    「…はは、なんて顔するんだい。ほら、もう大丈夫だ。怪我も大したことない、な?だから泣くなよ、テッド」
    「泣いっ…泣いてっ、ない!」

    テッドは目元をゴシゴシとこすり、ウェドの肩を支えて立ち上がらせた。

    「…本当に、君の勇気には毎度助けられてばかりだ。なぁ、今夜はあいてるかい?俺に奢らせてくれ」
    「今夜だけと言わず、2〜3日はたかっていいと思うぞ」

    背後から聞こえた声に、ウェドが苦笑いを返す。

    「そういうことらしい。どうかな、テッド」
    「…驚かされた分、良いお肉注文してもいい?」
    「ああ、勿論」
    「…じゃあミトラグスステーキが食べたい」
    「いいね、それにオレンジビネガーのサラダもつけようか。君の好きなフルーツもたくさん頼もう」

    テッドは隣で他愛もない言葉を交わす男の肩を抱く手に力を込める。

    ──よかった。
    ウェドが、俺の知ってるウェドのまま、ちゃんとここにいる。

    自然と口許が綻ぶ。
    いろいろなことがあって疲れたはずなのに、テッドの頭の中はもうこのあとウェドと過ごす夜のことでいっぱいになっていた。
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