含光君×夷陵老祖「姑蘇へ帰ろう。そうすれば、君の体の…」
藍忘機が最後まで言い終わる前に、魏無羨は言う。
「生まれ生まれて死に死に死んでいゆく。そうやって人は転生していくんだ。俺が万が一死んでも、それは天命って事で受け入れるよ」
邪に侵された者の末路は死。藍忘機は魏無羨が魔に魅入られないよう、親切にも姑蘇で清心音を奏でると毎日言いに来てくれるのだ。はじめのうちは金丹を無くした情けない自分を知られたくなくて突き放していた。しかしこうして頻繁に藍忘機が来てくれる事から、だんだんと彼に心を許すようになっていった
「藍湛、俺さ、金丹が無いんだ」
「…?」
藍忘機になら、もうすべて言ってもいいと思った。話し終わったあと、藍忘機は目を閉じ、きつく眉を寄せていた。
「これが、俺がお前の手助けを必要としない理由だよ。俺はここの普通の人たちと同じ寿命を生きて、死ぬんだ。この生き方が間違っていると思うなら、力ずくで俺を姑蘇に連れていけよ」
魏無羨は首を振った。
「また明日来る」
「飽きないなぁ、お前」
そういって翌日、一冊の本を持って魏無羨の元へやってきた。
「これは?」
「藍家の秘術ついて記されている」
「お前…こんな大事なもの持ち出していいいのか?」
「金の核を生成する方法を教えに来た。もし、私と来ると約束をするなら、この本を渡す」
「そ……んな秘術、あるわけが…」
魏無羨の声が震える。
喉から手が出るほど読みたいと思った。魏無羨はぎゅっと眉を寄せる。
「ここの人たちを見放す事はできない…!」
「ならば私がこの場を守る」
「…何、言って」
「君が守りたいものは、私がすべて背負う」
今まで一人で背負い込んでいた苦痛が、今の一言でいっきに軽くなった気がした。同時に鼻の奥がツンとする。
「はは…お前がそんなことを言えるなんて」
「君は金丹を再生する事に集中し、私はここを守る」
藍忘機は魏無羨にぐっと近づき両腕をつかんだ。魏無羨が一歩後ろに下がると、背後の岩にコツンと頭が当たった。
「な、なんでそんなに俺を…」
「君を、好いている」
ふってきた唇をよけようと思えば、避ける事ができた。しかし魏無羨は動くことができなかった。
(俺…なんでだろ…喜んでる?)
男性を好きになったことなど無かった。それなのに、藍忘機からの口づけに喜んでいる自分がいる事に戸惑う。唇が解放され、藍忘機は聞いた。
「良い答えがほしい」
魏無羨は涙目で、ひとまず応えた。
「か、かんがえさせて…」
魏無羨はぷるぷるとふるえ、顔を真っ赤にさせていた。
「だめだ」
「なんでだよっ」
「今すぐ…」
藍忘機は自分が言い終わる前に、魏無羨の唇を己のそれで塞いだのだった。
fin.