藍忘機を泣かせる魏無羨「その恰好は」
藍忘機は息をのむ。魏無羨は前世で身に着けていた衣服を身にまとっていた。
「死ぬ直前の服。温寧に頼んで縫ってもらった。そんな顔するなよ」
「これは…この遊びは、よくない」
「これは遊びじゃないよ。俺は覚えてないんだ。お前がどうやって俺に告白したのか。もう一度やり直させてくれないか?片腕兄さんの旅に出てる間、お前は勘違いしてただろう。死ぬ直前の記憶を持ったまま現世に蘇ったって。お前の気持ちを知っていて、あれやこれやと遊んでたんだってな。まぁ仕方ない、俺が忘れっぽい事を知らなかったんだから」
一層口数の減った藍忘機と共に避塵に乗り、二人はある洞窟にやってきた。
「この場所に見覚えは?」
「いや、全然。どうやって俺に気持ちを伝えた?」
魏無羨の手を取り、彼を座らせた。そしてしっかりと手を握り、今まで見たこともないような悲痛な顔になる。
「私はここにいる。大丈夫」
「俺は…俺はこんなお前を前にして、なんて言ってた?」
寝台で事に及ぶ際にもなかなか表情が変わらない彼をこんな風にさせるのだ。相当な思いで魏無羨を助けようとしていたに違いない。
「失せろ、と」
「信じられないな。なんてやつだ」
魏無羨は唇を噛む。ここまで切実な藍忘機を無下にする昔の自分を殴ってやりたいと思った。
「こたえてほしい」
魏無羨は空いている手で藍忘機の頬を包む。
「いいけど…お前、俺に好きって言った?」
「好きだとは言ってない」
「…。まぁいい。もっかい言って、藍湛」
「君の罪をすべて私も背負う。生きなさい」
藍忘機は魏無羨の返答を待つが、魏無羨はただただ瞳を震わせて見つめてくるだけだった。
「魏嬰?」
ハッとして、まるでたった今目覚めたかのような顔をする。
「うん、うん、こたえる。こたえるさ」
藍忘機の少し冷たい手を強く握り返し、熱い眼差しで返した。
「本当に俺の罪を背負うだって?正気の沙汰じゃないな。藍家と絶縁する事にもなるし、すべての世家を敵に回すことになるぞ」
「かまわない」
「この手を放せば、お前が大事にしてきたものを守ることができる。放した方が身のためじゃないか?」
「放さない。君が私のすべて」
胸が詰まる。このまま夷陵老祖として演技し続けるのは難しく、そのままの気持ちを言うしかなかった。
「最期まで俺を守ってくれる?」
「守ろう」
「じゃあ、‥‥俺と一緒に生きて」
ガバリと藍忘機が魏無羨を胸に抱きこむ。背中の固く大きな石に頭がゴンとあたり、魏無羨は眉を寄せる。
「痛‥‥っ、こら含光君、お行儀よくしろ…藍湛?」
頬に冷たいものが一滴落ちる。雨は降っておらず、自分たちは汗をかくほどの運動もしていない。
「そんなに感動しちゃったか。これ、やってよかった?」
さらに強く抱きしめられ、魏嬰、とかすれた声で名前を呼ばれた。返事は無く、藍忘機は夕暮れになるまでずっとその場で魏無羨を抱きしめ続けたのだった。
FIN.