プロポーズ大作戦(仮)「なぁ、ここんとこダイが悶々としてんだけど」
「……そう」
「多分、あいつは姫さんにプロポーズしてぇんだぜ?でも姫さんの事情を考えると言い出せねぇって感じでさ」
「……」
「ダイが落ち着かねぇとさぁ、オレの身の振り方も変わってくるから」
「キミもメルルを待たせているのよね」
「こっちは話がついてるからいいんだよ。まずはそっち。姫さんはダイと一緒になるつもりはねぇってことか?」
「賢者の国の王配たるものは賢者がよろしいかと。勇者様ですか?回復呪文は不得手なのでしょう。それに実は彼は人間ではないとか。姫も正式に王位を継承するにあたり、お世継ぎのこともございますし相応しいお相手を。ですって」
「要は姫さんの結婚相手がダイだと王位の継承を認めないと」
「強引に進めると各地の領主から反発されて色々と面倒だし。かといって一人ずつ攻略していくのも時間がかかって別の問題も出そうだし。こんなのにダイ君を巻き込みたくないし」
「無理にダイとの結婚を進めて反発されて他の王位継承者を担ぎ上げられるのも面倒そうだな」
「そう。その人の方があたしよりも良い王になるかもしれないけどそうじゃない可能性もあるから」
「どこの馬の骨かわからんのに国を渡して多くの民を災難に巻き込むぐらいなら、ダイとの結婚を諦めて別のやつと結婚する、か」
「……」
「わかった、じゃあオレと結婚しよう」
「はぁ!?」
「安心しな、姫さんには指一本ふれねぇよ。あ、必要な時には抱えたり運んだりするけど。あとルーラの時とか」
「待って待って、ちょっと待って」
「賢者の国の王配に、賢者で人間のオレだ。文句ねぇだろ」
「そうね、ダイ君よりもキミの方がって話もあがったわ」
「だったら話を進めやすいな。そんで内々にはダイを愛人に、っていうと言葉わりぃな、恋人ってことで。王家にゃよくある話だろ公式の配偶者とは別に愛する相手とってのは」
「そうだけど」
「後からバレてもそんときゃ姫さんが王でオレが王配だしな。廃位にはさせねぇよ。デルムリン島でこの国の神事をやってんだよな。姫さんが島に通う理由も増やしやすい。ダイにレムオルを習得させて、透明にする方法も教えるし。姫さんに近しい侍女とかはこういうのに理解して協力してくれそうか」
「多分、大丈夫」
「寝所に家臣が控えている制度もなさそうだしな、今のパプニカは。はい、あと課題は?」
「どうして知ってるのよ。そうね、あとの課題はポップ君の身分、ダイ君との間に子どもが授かった時に紋章があらわれた場合、ダイ君の気持ち」
「オレのことはカール王国王配の養子にでもしちまうか。あんたのお目付け役さんの養子でもいいな。身分の低いやつと高いやつの結婚ではよくあるだろ」
「でも子どもの紋章はどうにも」
「戦いがなきゃ人前では発現しねぇだろうし。一応、オレが竜の騎士様の血の奇跡でよみがえった話をもうちょっと広めとくか」
「だからってキミの子どもに紋章がでると思わせるのは流石に」
「人間は信じたいものを信じるからどうとでも。姫さんの子はオレの子だってオレが主張する以上、公的にはオレの子だからなぁ。他の王位継承者が口を出せないように今から頑張ろうぜ」
「……」
「ダイと姫さんの間に子ができなけりゃ、他から養子をとってちゃんと次の王としての教育を施すとするし」
「あたしとキミとの間で子どもを作るってのはないのね」
「それはねぇな。ダイに申し訳がたたねぇ」
「そこでまず名前が出るのがダイ君なのね」
「そもそもこの案がダイのためだろ」
「そうね、そう、だからダイ君はどう思うかしら」
「姫さんも乙女だねぇ。やっぱりそこは一番のネックだよな」
「きっとこんなのダイ君が知ってる勇者とお姫様じゃない」
「オレからダイとみんなに言うよ。王配って役職にはオレが就く、姫さんと一緒になるのはダイだって。ダイは賢いからさ、そこが落としどこだってわかるさ」
「ダイ君が何かを我慢するようなことは選びたくないわ」
「ダイが姫さんと一緒になっても、ならなくても、ダイは何かを我慢することになるんだ。だったらダイが一番生きやすい道にしようぜ」
「これがダイ君に生きやすいと言えるの」
「言えるね。少なくとも姫さんを諦めずに済むんだ。先生とフローラ様みたいな勇者とお姫様の形が理想かもしれないけど、あいつに王配の仕事させるのもキツイだろうし、そこに落とし込むのは時間がかかりすぎる。強引なやり方だと国が亡びかねないってことも、あいつは自分の親父さんのことでよく知ってるよ」
「ねぇ、あたしの気持ちは確認しないの?」
「課題をなんとかする方向で話をすすめてるのが答えだろ。国を捨てるつもりはない。けどできればダイと添い遂げたいだろ、レオナは」
「ポップ君もこれでいいの?」
「ダイとの結婚を反対するやつを消すよりは真っ当な解決策だと思ってる」
「メルルとのことよ」
「メルルはさ、形式とか、こうでなきゃいけないっていうのに拘らないから。それとも姫さんは自分が恋人を抱えるのに『王配』に恋人がいるのがイヤとか言わねーよな?」
「バカね、そんなの拘って王家だの貴族だのやってらんないわよ」
「オレとしてはオレんとこの子がダイの子を助ける未来とか、ちょっと見てえよ」
「そこは変に無理強いしないで」
「わかってるよ。んじゃまぁ決まりだ。さっそくダイに」
「待って、あたしが自分で言う」
「良いのかよ。一緒に行こうか」
「自分で言うわ。ダイ君に『結婚して。ポップ君に王配稼業は任せるから』って」
「カッコいいな、頑張れよ」
「まずキミがメルルにちゃんと確認とって。話はそこからよ。ダイ君だって気にするわ」
「えっと……こういうことになるかもしれないって以前から言ってはある」
「そうなの!?」
「ダイが落ち着くまではオレの立ち位置をフリーハンドにしておきたいから、約束できないし応えられないって話をしたら『ポップさんの動きやすいどんな形式でもいいですよ』って話になって」
「メルル…キミにはもったいない良い子ね」
「『ポップさんの都合の良い女の子になれるのって私ぐらいだと思いませんか』だってさ」
「あたし、メルルのそういう健気にみえて強かなところは嫌いじゃないわ」
「オレもそう思う。だから姫さんはとっととダイにプロポーズしてこいよ」
「もしもダイ君に断られたら慰めてくれる?」
「そっちは三賢者の誰かに頼んでくれよ、そんときゃオレはダイに事情を聞いたり場合によっちゃダイを慰めてるだろうし」
「それはとても安心ね。じゃあ行ってくる!」