Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    nayutanl

    @nayutanl

    無断転載及び無断利用禁止

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💪 🌟 ❣ 💮
    POIPOI 50

    nayutanl

    ☆quiet follow

    「シュガーポットの魔法」向け展示だったものです
    ネロ、ムル、シノ、ミスラの説明のしづらい話
    突っ込みが間に合わない顔ぶれ。カニ。そんな感じです

    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra
    ##neco茶

    かにかにランチ 今朝から、ムルとシノとミスラの姿が見えず、魔法舎はざわついていた。ムルがいたりいなかったりするのはいつものことだし、眠れないミスラが朝食の席に現れるのが遅いのもよくあることだが、シノが来ないというのはおかしいということで、授業を取り止めにして皆で探している。しかし、昼近くなるというのにまだ見つからないので、ネロは探し続けている皆に軽くでも補給させようとひとりキッチンに戻ってきた。

    「まったく……どこに飛んでいきやがったんだ」

     一緒にいなくなった者がいるということはひとりではないということだが、顔ぶれがやや不穏である。普段たまに遊んでいるらしいムルはともかく、ミスラが同行しているとは一体何のくくりの集まりなのかまるで分からない。
     けれども、周辺はどこも探したし行き先に心当たりがない以上は考えたところで仕方がない。ネロとしては、何だかんだ時間がたてばひょっこり帰ってくるのではないかと思っているのだが、不安そうにしていたヒースクリフや言葉を尽くし彼を宥めているファウストのことを思うと、あまり楽観的すぎることを口にすることもできなかった。
     それに、腹が減ってはなんとやらである。捜索するのも心配するのも体力がいることを若い魔法使いは失念していそうなので、言わないと補給も忘れて探し続けるかもしれない。現場では年長者が見てやっているだろうし、食事の準備はしておいて悪いことはない。こうしている間に見つかれば、それはそれで僥倖―。そう思いながら、今朝のうちに焼いておいたバゲットを切り分けていたときだった。

    「ただいまー!」

     ネロの背後で勢いよくドアが開く音がしたのと同時に、深刻さなど微塵も感じさせない声が帰りを告げた。反射的にネロが振り向けば、今朝から姿を見せなかった三人が両手に大振りの甲殻類を持って立っていた。彼らの背後には、今しも消えようとしている扉―ミスラの空間転移魔法だ。

    「ただいまーじゃねえだろ……! あんたらどこ行ってたんだよ、みんな朝からその辺駆けずり回って探したんだぞ」
    「本当ー? 絶対怒られるね!」
    「悪い。あとで謝る」
    「これで許してください。というか、これ捕りに行ってたんで感謝されてもいいくらいですよ」

     思わず包丁を握ったまま詰め寄るネロだったが、三人は悪びれた風でもなくしれっとした顔でいる。大捜索になっているとはこれっぽちも思っていないのだろう。
     とはいえ、怒られるとかどうしようとか言うような顔ぶれではないので、ここは諦めながらネロは彼らが両手に持っている甲殻類に目を向けた。これを捕りに行っていたというが、どういう思い付きだったのだろう。

    「西の国の南寄りの海にある無人島は、蟹がよくとれるんだ! なんだか今日は蟹の気分だったからとりに行ってきた!」
    「シノとミスラ連れてか?」
    「結果的にはね」
    「強い虫とりにいかないかってムルが言うからついていったら蟹だったんだよ。知ってるか? 蟹って虫に近いらしいぜ」
    「二人が話してるのを聞いて、気分でついていきました。俺がいたから移動が一瞬で済んだんですよ」
    「あ……そう……」

     ムルの思い付きなら常人の及ぶところではないので、ネロはこの話に見切りをつけて蟹と三人を交互に見た。
     随分と立派な蟹と、蟹だ蟹蟹と踊り出すムルと、どうだと言わんばかりの表情でこちらを見つめてくるシノ、分かりにくいが明確な言葉を待ち圧を放っているミスラ―。

    「それより蟹ー! 新鮮だよ! エイラッシャイ!」
    「ああ、蟹な。結構とったな。素潜りか?」
    「そんなわけないだろ。浜辺とかをうろついてるのを一匹一匹魔法で撃ったんだ」
    「最初の何匹かは力を入れすぎて吹っ飛ばしましたけど、すぐ慣れました。上手くいくと楽しいですよ」

     端から追及する気などなかったが、何でよりによって最初にここに来たのだろう。両手の蟹を見れば火を見るより明らかだが、少し憂鬱な気分でネロは笑って見せた。

    「……すごいな。やるじゃん」
    「だろ。少しコントロールがよくなったぞ」
    「オズならこうはいかなかったでしょうね」

     この後のことを考えるとやるじゃんなどと言っている場合ではないのだが、怪我もなにもないようだし、考えても仕方がないことは考えないに限る。

    「ムル、外出て花火打ち上げてくれねえ? みんな近くにいるだろうから、知らせてやって」
    「わかった! 蟹の形にするね」
    「シノとミスラは蟹の処理な」
    「嫌だ。腹が減ってもう動けない」
    「みんなを心配させたんだからそれくらいやれ。飯は出すから」
    「わかった。この蟹は俺たちの手柄だってちゃんと言えよな」
    「とりあえず脚全部もげばいいですか?」
    「それでいいよ」

     ネロが頷いてややあってから外で花火の上がる音がした。捜索に出ていた皆が魔法舎に駆け込んできたら、すぐさま説教が始まる予感がするが、こんなことは日常茶飯事といえばそうだ。だから、こう言うことに決めている。
    「この蟹どう食いたいか決めといてよ」と。


    <おわり>
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺💖💖😋😋😋😋😋😋😋😋😋💕💕😋😋❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    nayutanl

    DONE月花Webオンリー展示
    年長者と強絆のゆるめの話です。
    アーサーの疑問から始まる四人のあれやこれやです。アーサーが外見年齢12~13歳くらいのイメージ。自分が絵で見たい話を書いた形かも。
    公式にない設定が一部ありますが、雰囲気でふんわり読んでください。書いた本人も雰囲気で押し切りました。
    9/9追記:追録書きました(https://poipiku.com/3138344/7470500.html)
    和やかな城 ある日の桜雲街、竜の住まう城の一室で青い目をした天狗の子どもが尋ねた。
     
    「スノウ様、ホワイト様。おふたりは大人なのにどうしてこのようなお姿なのですか?」
     
     この城でそのようなことを尋ねるのはこの子―アーサーだけであろう。スノウとホワイトは一度顔を見合わせてからふたりしてにっこり笑った。
     もう随分長く生きている彼らはこの城の主である。今でこそオズに譲るが強い力をもち、気が遠くなるほど昔からずっと竜族の頂点に君臨している。ここ近年は「早く隠居したい」が口癖で、どうにかオズかフィガロを後継者にしようとしているものの、ふたりにその意志はなく聞き流されてばかりだった。そんなものだから、このところはオズが助けて以来この城にホームステイしているアーサーが後継者になってくれたら……とオズに牽制をかけているが、本気ではないと思われているようである。とはいえ、アーサーが後継者に向いているという直感と竜の住まう城の主が天狗でよいかどうか、そしてアーサーの実家である天狗の一族の事情はそれぞれ別の問題なので、スノウもホワイトも食い下がったり押し付けようとしたりといったことはしない。ただ、隙さえあれば隠居したいと思っているだけで。
    6203

    nayutanl

    DONE紫陽花見ながら話してるホワイトとフィガロの話
    ホワイトから見たスノウとフィガロのこととか、フィガロから見たホワイトのこととか
    ほんの少し生きた心地がしないけど、気のせいかと思うくらいのあったかさはある つもり
    あと、文末に話に関するちょっとしたことが書いてあります。
    ハイドランジアの幽霊師匠と植物園を散策―などといえば聞こえはいいが、実のところは連れ回しの刑である。フィガロは曇り空のもと美しく物憂げな色彩の花を咲かせるハイドランジアに目をやりながらこっそりとため息をついた。
    ホワイトがやってきて「ハイドランジアの花が見頃だから出掛けよう」と誘われたのだが、あまり良い予感がしなかったので一度は断ったのだ。断ったのだが、今回の誘いはこちらに選択権がないものだったらしい。有無を言わさず連れてこられてこのとおりである。

    「そなたら、また喧嘩したじゃろう」
    「喧嘩とはいえませんよ、あんなの」

    少し先をいっていたホワイトが戻ってきて、ごく自然に手を繋いできた。こんなことをしなくても今さら逃走なんてしないのにと思ったが、これは心配性なのではなくて物理的な束縛だ。都合の悪い話をするつもりなのであろうことは断った後の出方で何となく察していたが、切り出されるとやはり身構えてしまう。いいことでも悪いことでも、心に叩き込むようなやり方はホワイトの得意とするところなので、分かっていてもわずかに寒気がした。
    2892

    related works