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    nayutanl

    @nayutanl

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    nayutanl

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    最初はオズ+フィだけど、結果的には双子もでてきます
    タイトル通りの話です。オズとフィガロの好きなものと嫌いなものが同じってなんかかわいいなって思って書きました。
    オムレツが嫌いな理由については勝手に考えました。
    ※【愛情の記号化】と微妙に繋がっています

    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra
    ##北師弟
    ##neco茶

    焼き鮭◎、オムレツ× ちょうど空腹のタイミングと食べたいものが被ったオズとフィガロは、揃って食堂のテーブルについていた。
     ふたりして魚の気分だったのだ。オズは珍しく肉ではなく魚の気分で、フィガロもまた珍しく火の通った魚が食べたい気分だった。
     つまり、ふたりとも焼き鮭が食べたかったのである。魚の切り身を焼いただけの洒落っ気も何もない至極シンプルなあれがとにかく無性に食べたかった。
     賢者は何故だか、魚を焼くのがやたらと上手い。他の料理は魔法の調理器具に頼りきりだが、焼き魚となるとネロがいつも使っているオーブンを使いこなし、見事な焼き加減の魚を提供してくれる。
     しっかりと中まで火が通っていながら、身の水分は失われていない。素晴らしかった。サーモンというとカルパッチョやムニエルだと思っていたが、口にした瞬間それが覆った。
     以来、ふたりは焼き鮭を愛している。

    「おまえと同じもの食べるの、すごく久しぶりな気がするな。いつぶり?」
    「……? 今朝では」
    「そういえばそうかも? ……いや、そうじゃなくてさ」

     鮭を焼けるのを待っている間、フィガロはふと思いオズに話を振った。
     魔法舎では国ごとに集まって食事をとることが多いのでテーブルは離れるし、任務や依頼で行動を共にすることがあってもいつもというわけではない。そのうえ互いに生徒たちがいるので、そちらの面倒や様子をみるのが優先される。こんな風に諸々のタイミングが合致することはきわめて稀なのだ。
     フィガロが思い起こしているのは、今朝や昨夜といった直近の出来事ではない。もっとずっと気が遠くなりそうなほど過去の、食事にタイミングも何もない、食事だと言われたら席につくだけのことだったころのことである。

    「今朝、スノウ様が起こしにきて朝ごはんがオムレツだなんて言ったものだから思い出しちゃって。あのひとたちの手料理のこと」

     フィガロが言ったのを聞き、オズは心なしか憂鬱そうにした。互いの脳裏に思い描いたものはおおよそ同じ姿形をしている。オズの表情からそう確信を得たフィガロは、渇いた困り笑いを浮かべて続けた。

    「ふわとろっていうかどろぐちゃだったよな。俺本当にあれ嫌いでさ」
    「知っている」
    「嘘ぉ、顔に出さないようにしてたのに。だからほら、スノウ様なんか今朝俺があれ嫌いって言うまで知らなかったみたいで、ショック受けてたな。そういうことは言ってー! って言われた」

     スノウは、ホワイトとふたりで作ったオムレツをフィガロもオズも文句ひとつ言わずに食べていたからてっきり好きなのだと思い込んでいたらしいのだ。
     実際のところは、これは嫌いだなどと言おうものなら面倒なことになるのが目に見えていたのでなにも言えなかっただけなのだが、双子はふたりして都合よく解釈していたのだろう。

    「幸せな勘違いをさせたままにしておいてあげればよかったかな」
    「無意味なことだ」
    「だよねぇ。やっと正直になれて今日すごく気持ちいいよ。素直っていいよね!」
    「……」
    「なんだよその顔」

     憂鬱そうな目に呆れの色が混ざり、言葉は少なでもオズの表情が豊か―複雑さを増したところで賢者が「お待たせしました!」と食堂に姿を現した。

    「焼けましたよ!」
    「ありがとう、賢者様」
    「……礼を言う」

     賢者はきれいに焼き目のついた鮭と炊いた米をテーブルに置き、まだ汁物があるのでと言ってすぐに行ってしまったが、入れ替わりになるようにスノウとホワイトがキッチンから出てきた。ふたりとも、掃除の時くらいしかまともにつけないエプロンをつけてそれぞれ手に皿を持っている。
     その皿に乗っているのが何やら黄色いものであると見るや、フィガロは顔をしかめた。もしかして、あれだろうか。冗談ではない。せっかくの鮭が。
     しかし、いらないと言うと角が立つし面倒だ。賢者にどうにかしてもらうか、オズに断らせようか……決める前にスノウとホワイトはテーブルまでやって来て、とびきりいい笑顔を浮かべてフィガロとオズの前に持っていた皿を置いた。

    「ふたりとも、お待たせー!」
    「待ってはいないが」
    「オムレツだと思った?」
    「違うんですか? ……ああ、オムレツにしてはちょっと趣が違うような感じはしますけど」
    「これは賢者に習って焼いてきた卵焼きじゃ」

     オムレツとは似て非なるものらしい。オズとフィガロは一度顔を見合わせてから、まだ湯気の立つ卵焼きに目をやった。よく見なくても、記憶の奥の方にあるオムレツの姿とはまったく違うので身構える必要はなかったのだと思いたいが、これは初見である。それに、形が違うからといって油断はできない。中身がどろぐちゃかもしれないのだから。

    「スノウ様、今朝のこと根にもってるんですか」
    「ううん、全然」
    「ちょっとそこを通りがかったら、賢者がそなたらに魚を焼くと言うからお手伝い?」
    「というか便乗?」

     双子がきゃっきゃとしている傍らでは、オズが心底どちらでもいいと言いたげにしていた。しかし、無視するともっとうるさくなるのを知っているので、しかたなしにふたりの話に耳を傾けている。小言や説教とは違い、賢者が戻ってくればおそらく終わると思っているからかもしれない。
     そうして実際、賢者が片手で持てるくらいの大きさのボウルに入ったスープを持ってきたことでスノウとホワイトの自由な話は彼ら自身の手によって打ち切られた。―しかし、

    「何でおふたりまで?」

     そのままテーブルに居座るなんて聞いていない。微苦笑をはりつけたまま鮭の骨をとっているフィガロの横にはスノウが、黙々と鮭と米を口に運ぶオズの横にはホワイトが座って一緒になって賢者が持ってきたスープ―味噌汁を飲んでいた。

    「あったまるからお二人もどうぞって。賢者は優しいのう」
    「賢者が言うことには、焼き鮭に白米と卵焼きと、このスープは賢者が暮らしておった国では朝のフルコースなんじゃと」
    「はあ……五臓六腑に染み渡るぅ」

     幽霊の五臓六腑って……などとは言ってはいけないのだろう。聞かなかったことにして、フィガロとオズは今回も神がかった焼き加減の鮭を味わう。先程はスノウとホワイトが作ったというだけで不審に思えた卵焼きも、賢者の国のフルコースの中の一品と知れば興味の対象だった。少し口に運んでみれば、あの記憶の中のどろぐちゃとは違いふっくらと焼けた卵はほのかに甘く、不思議な旨味があった。

    「あ、これ好きかも?」
    「賢者が、そなたらが好きそうな気がすると言っておったのじゃ」
    「我ら、まだまだ料理くらいお手のものじゃ! ふふーん!」
    「やっぱり根に持ってたんじゃないですか……。面倒くさいんだから」
    「オズはどうじゃ?」
    「……。悪くない」
    「「やったー!!」」

     はからずも四人の食卓になってしまったが、すべてがあのころとは違う。姿も関係も心持ちも、そして卵の焼き方も。いまのオズの答え方は何となく気分に合う。好きとか嫌いではなく、悪くないというのはうまい答え方だ。あのころならそう簡単に出てこなかっただろうに。そう思うフィガロの微苦笑は、とっくにほどけていた。



    <おわり>
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    nayutanl

    DONE月花Webオンリー展示
    年長者と強絆のゆるめの話です。
    アーサーの疑問から始まる四人のあれやこれやです。アーサーが外見年齢12~13歳くらいのイメージ。自分が絵で見たい話を書いた形かも。
    公式にない設定が一部ありますが、雰囲気でふんわり読んでください。書いた本人も雰囲気で押し切りました。
    9/9追記:追録書きました(https://poipiku.com/3138344/7470500.html)
    和やかな城 ある日の桜雲街、竜の住まう城の一室で青い目をした天狗の子どもが尋ねた。
     
    「スノウ様、ホワイト様。おふたりは大人なのにどうしてこのようなお姿なのですか?」
     
     この城でそのようなことを尋ねるのはこの子―アーサーだけであろう。スノウとホワイトは一度顔を見合わせてからふたりしてにっこり笑った。
     もう随分長く生きている彼らはこの城の主である。今でこそオズに譲るが強い力をもち、気が遠くなるほど昔からずっと竜族の頂点に君臨している。ここ近年は「早く隠居したい」が口癖で、どうにかオズかフィガロを後継者にしようとしているものの、ふたりにその意志はなく聞き流されてばかりだった。そんなものだから、このところはオズが助けて以来この城にホームステイしているアーサーが後継者になってくれたら……とオズに牽制をかけているが、本気ではないと思われているようである。とはいえ、アーサーが後継者に向いているという直感と竜の住まう城の主が天狗でよいかどうか、そしてアーサーの実家である天狗の一族の事情はそれぞれ別の問題なので、スノウもホワイトも食い下がったり押し付けようとしたりといったことはしない。ただ、隙さえあれば隠居したいと思っているだけで。
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    nayutanl

    DONE紫陽花見ながら話してるホワイトとフィガロの話
    ホワイトから見たスノウとフィガロのこととか、フィガロから見たホワイトのこととか
    ほんの少し生きた心地がしないけど、気のせいかと思うくらいのあったかさはある つもり
    あと、文末に話に関するちょっとしたことが書いてあります。
    ハイドランジアの幽霊師匠と植物園を散策―などといえば聞こえはいいが、実のところは連れ回しの刑である。フィガロは曇り空のもと美しく物憂げな色彩の花を咲かせるハイドランジアに目をやりながらこっそりとため息をついた。
    ホワイトがやってきて「ハイドランジアの花が見頃だから出掛けよう」と誘われたのだが、あまり良い予感がしなかったので一度は断ったのだ。断ったのだが、今回の誘いはこちらに選択権がないものだったらしい。有無を言わさず連れてこられてこのとおりである。

    「そなたら、また喧嘩したじゃろう」
    「喧嘩とはいえませんよ、あんなの」

    少し先をいっていたホワイトが戻ってきて、ごく自然に手を繋いできた。こんなことをしなくても今さら逃走なんてしないのにと思ったが、これは心配性なのではなくて物理的な束縛だ。都合の悪い話をするつもりなのであろうことは断った後の出方で何となく察していたが、切り出されるとやはり身構えてしまう。いいことでも悪いことでも、心に叩き込むようなやり方はホワイトの得意とするところなので、分かっていてもわずかに寒気がした。
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