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    短い話を放り込んでおくところ。
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    狡噛さんの誕生日プレゼントの話。
    800文字チャレンジ60日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    プレゼントは君(読書人形) ギノが俺への誕生日プレゼントで悩んでいることは知っていた。というのも、二十年以上の付き合いになると、大抵のものはもらってしまっているし、同じものが続くのも耐えられない性質である彼は、出島の街を歩いては頭を悩ませているようだった。けれど今日は俺の誕生日だ。一体何を貰えるんだろう。俺はどきどきしながら官舎の部屋に戻る。今日はこの後ディナーを一緒に取って、そしてプレゼントを開けることになっていた。俺はこの上なく浮かれていた。緊張する彼が愛しかったのもあるし、ただ単に愛されていることが嬉しかったのもある。でも、プレゼントは思いもしなかったものだった。いや、想定はある程度していたのだが、ギノはそれ以上のものを俺によこしたのだった。
     
    「これ、貰っていいのか……?」
     ギノが寄越したのは大昔アメリカの詩人が残した詩集の、日本語翻訳版の初版本だった。出島を歩いていたのはこれを探すためだったのかと思うと、俺はとてもうれしくなってしまう。
    「もちろん。でもこれだけじゃなんだから、お前が読んでほしい詩を気がすむまで読んでやるよ。本だけじゃつまらないだろう」
     なんてことを言うんだ、と俺は思った。中身を確認していないのかもしれないが、結構熱烈な愛の詩を残した男だぞこの詩人は、と。
    「それは夜を避けてるって意味じゃなく?」
    「何を言ってるんだ。昼でも読んでやるぞ」
     微妙に噛み合っていない会話に、俺は彼が遠回しにセックスを否定してはいないことに安堵する。セックスの代わりに本を読んでやる、だったら俺は暴動を起こしていたかもしれない。
    「俺がお前の口を使って、愛してるって言わせてもいいのか?」
     貰った本をバッグにしまい、俺はギノに尋ねる。すると彼はそんなの織り込み済みだったのか、頷いてワインを口にした。
    「そんなの夜はいつでも言ってる。冷静なお前の顔が崩れるのが今は楽しみだよ」
     一枚上手だった彼の言葉を聞いて、俺は瞬きを数度した。理性的な愛しているはどんなものなんだろう。目を逸らさないでもらえる愛しているはどんなものなのだろう。俺はそんなことを考えて、プレゼントとなったギノを眺めた。そうして、どうやって愛していると言わせようか、覚えている限りの詩人の言葉を頭の中で巡らせたのだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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