プレゼントは君(読書人形) ギノが俺への誕生日プレゼントで悩んでいることは知っていた。というのも、二十年以上の付き合いになると、大抵のものはもらってしまっているし、同じものが続くのも耐えられない性質である彼は、出島の街を歩いては頭を悩ませているようだった。けれど今日は俺の誕生日だ。一体何を貰えるんだろう。俺はどきどきしながら官舎の部屋に戻る。今日はこの後ディナーを一緒に取って、そしてプレゼントを開けることになっていた。俺はこの上なく浮かれていた。緊張する彼が愛しかったのもあるし、ただ単に愛されていることが嬉しかったのもある。でも、プレゼントは思いもしなかったものだった。いや、想定はある程度していたのだが、ギノはそれ以上のものを俺によこしたのだった。
「これ、貰っていいのか……?」
ギノが寄越したのは大昔アメリカの詩人が残した詩集の、日本語翻訳版の初版本だった。出島を歩いていたのはこれを探すためだったのかと思うと、俺はとてもうれしくなってしまう。
「もちろん。でもこれだけじゃなんだから、お前が読んでほしい詩を気がすむまで読んでやるよ。本だけじゃつまらないだろう」
なんてことを言うんだ、と俺は思った。中身を確認していないのかもしれないが、結構熱烈な愛の詩を残した男だぞこの詩人は、と。
「それは夜を避けてるって意味じゃなく?」
「何を言ってるんだ。昼でも読んでやるぞ」
微妙に噛み合っていない会話に、俺は彼が遠回しにセックスを否定してはいないことに安堵する。セックスの代わりに本を読んでやる、だったら俺は暴動を起こしていたかもしれない。
「俺がお前の口を使って、愛してるって言わせてもいいのか?」
貰った本をバッグにしまい、俺はギノに尋ねる。すると彼はそんなの織り込み済みだったのか、頷いてワインを口にした。
「そんなの夜はいつでも言ってる。冷静なお前の顔が崩れるのが今は楽しみだよ」
一枚上手だった彼の言葉を聞いて、俺は瞬きを数度した。理性的な愛しているはどんなものなんだろう。目を逸らさないでもらえる愛しているはどんなものなのだろう。俺はそんなことを考えて、プレゼントとなったギノを眺めた。そうして、どうやって愛していると言わせようか、覚えている限りの詩人の言葉を頭の中で巡らせたのだった。