煙草の煙に消えるものは4そのポニーテールの男、宜野座伸元が部屋の隅に立った時、彼は友人の狡噛慎也の方から煙草の匂いを感じた。それに宜野座は窮屈そうに抗議した。彼は優秀な狙撃手だったが、今回の事件、つまり立てこもり犯が被害者を射殺してしまった事件についてヘマをやらかしていた。そう、犯人を確保するために撃つための銃が、ジャムを起こしたのだ。だから宜野座は部屋のあちこちに飛び散る血を見、畳の上に転がった割れた茶碗を見、まだ湯気を立てる手付かずの料理を見つめて煙草を吸わないように狡噛に求めた。宜野座は元は執行官だったから、今も事件のかけらを探しているのだ。先に現場に入った須郷徹平や花城フレデリカがダンゴムシと呼ばれる鑑識ドローンを操作して事件をあらかた検分し終えてしまっても、それでも自分の嗅覚を信じていた。そして狡噛は煙草を携帯灰皿ににじり消した。彼はこんな時友人である宜野座に逆らわない方がいいと思っていた。それは暗黙のルールで、ヒエラルキーのようなものでもあった。