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    9/17ワンライ
    お題【宇宙・かわいい】
    仕事終わりに空を見上げる狡噛さんと、そんな狡噛さんの昔のことを思い出す宜野座さんのお話です。

    #PSYCHO-PASS
    ##狡宜版深夜の創作60分勝負

    天の光は全て星 夜、狡噛は空を見ることが多い。とはいえ出島では高層ビル群が放つ光や、猥雑なネオンなどで、ほとんど星は見えないのだが、それでも彼はベランダに立ってスピネルを吹かし、月や宵の明星を見つめるのだった。
     狡噛が星が好きだと聞いたのは、学生時代のころのことだ。彼は一時期取り憑かれたように宇宙の神秘についての本を読みあさっており、それは暇さえあれば教科書を読んでいるような俺が心配してしまうほどだった。あと五十億年したら太陽はなくなるんだ、暗黒物質の正体はまだ解明されていないんだ、生命が誕生するには二十五メートルプールにばらばらの時計の部品を入れて、自然に完成するくらい奇跡的なんだ。素粒子物理学、天体物理学、一般相対性理論、プラズマ物理学、現象学、超弦理論、量子力学。とにかくあのころの狡噛の喋る言葉は意味が分からず、会話をするにも一苦労したのを思い出す。なにせハンバーガーを食べる時ですら、彼は重ね合わせの原理について思考していたのだから。それが収まったのは、彼がまた違った分野に興味を持ったからだったが、あの時は安心したものだ。それは珍しく俺にも理解できる程度の問題で、会話に取り入れることもできたので。
    「また空を見てるのか? 昔から飽きないもんだな」
     俺はそう言って、彼にキャップを外したハイネケンの瓶ビールを渡した。狡噛はそれを受け取ると、短くなった煙草を携帯灰皿ににじり消し、飲み口に唇をつけた。髪が風に揺れる。生温かい夏の終わりの風は、俺の頬にもたどり着いて、シャンプーを終えたばかりの濡れた髪をなびかせた。
    「星を見てると安心するからな。まぁ、ここらへんじゃあほとんど見えないんだが」
     そりゃあそうだ、ここは都会で、いつか見た空が星で埋め尽くされるような田舎じゃないのだから。けれど一歩出島を出てしまえば、それも見ることが叶うのだろう。自由がない潜在犯の俺たちの身には無理な話だが。
     長崎を少しゆくと、人の住まない地域が現れる。そこには出島の光も届かず、暗闇ばかりが広がっている。地平線まで広がる、ハイパーオーツの穂がなびく東北の夜もそうだった。父を担いで歩いたあの夜も、星がとてもきれいだった。月も大きく、俺はお互いしかいなかったころの狡噛をそれに思い出しながら、ただただあの黄金の地を歩いたのだった。
    「そういえば、昔どうして宇宙になんか興味を持ったんだ? 確かに今も宇宙ステーションは運営されてるが、ほとんど過去の学問だろう?」
     各国で紛争が続く中、第一に削られたものの一つが宇宙開発の分野だった。それに興味を持つなど狡噛らしいといえばらしいのだが、俺はそのきっかけが分からなかった。そもそも、きっかけなんてものはなかったかもしれないのだけれども。
    「一人でキャンプに行った時、星を見てあれが過去の光だなんて信じられなかったんだ。あんなにきれいなのに、もう死んでるかもしれないと思うとおっかなくて。それに」
    「それに?」
    「自分が見てるものとずれがあるなんて信じられなくてな。例えばさ、お前が俺を好きだって言ってくれても、俺の受け取り方は真実とは違うかもしれないだろ? それが宇宙規模になってくると思うとなんだか不思議でさ」
     狡噛がビールを飲む。そこで恋愛話が出てくるとは思えなかったから、俺は少し驚くのと同時に、彼が少し可愛く見えた。何でもかんでも恋に繋げてしまうなんて、それこそ学生時代じゃなきゃ無理な話だったのかもしれない。それが量子力学に繋がるのは不思議だったが。
    「俺の言葉を疑ってる?」
     ハイネケンのビール瓶をぷらぷらと揺らして、横に並ぶ狡噛の顔を見る。彼は高層ビルが放つ光の海を見つめたあと、また思い出したように空を眺めた。
    「まさか。お前の言葉を疑ったことなんてないよ。ただ、俺が正しい方法で受け取ってるのか心配でさ」
    「相変わらず妙にセンチメンタルっていうか、ロマンチックなんだな」
     俺の言葉に狡噛が苦笑する。そしてそういうのはなかなか治らないんだと弁明する。仕方ないから受け入れてくれよとも。そんなこと言われないでも、俺は彼の全てを受け入れている。子どもっぽいところも可愛いと思えるし、時折見せる大人のあきらめも抱きしめてやりたくなる。彼は知らないかもしれないけれど、俺は長いこと恋人のことを心の底から愛していたのだ。どれだけ言葉を尽くしても理解してくれないかもしれないが、愛していたのだ。
    「今でもハンバーガーの具材で、重ね合わせの原理について説明されたのを思い出すよ。あれは俺だったからよかったけど、女なら愛想を尽かしてたぞ。感謝するんだな」
     そう言ってビールを一口飲むと、狡噛は「すまなかったと思ってるよ」とこの時ようやく瓶で乾杯し、もう一回口に含んだ。
    「ギノはなんでも受け入れてくれるから、たまに怖くなるな。突然愛想を尽かすなんてよしてくれよ。きっかけをくれよ。じゃなきゃ立ち直れない」
     変に弱気なことを言って、狡噛は空になったビール瓶を月にかざした。それは月に献杯をしているようにも見えた。あいにく月は雲に隠れてしまって、もう、遅かったのだけれども。
    「愛想なんて尽かさないさ。愛想を尽かすんなら、お前が海外に逃亡した時にとっくに尽かしてる」
     俺は言う。すると狡噛はそりゃそうだと笑って、帰ってくる時少し怖かったよとも言った。俺が自分のことを許すのかどうか怖かったのだとも。今日の彼は少し弱々しい。いつもなら信じられないくらい頑固で子どもっぽいのに、今日は悩ましい若い青年のように、自信がないように見える。
    「そりゃあ左手で殴ってやろうかと思ったけど、思い出すのは楽しかったことばかりでさ、俺も馬鹿なんだよ、お前の恋人を長い間やってるだけあって」
     俺は笑い、ビールに口をつける。すると狡噛は俺の肩をぐいと引っ張って、酒臭い息を吹きかけキスをした。それは触れるだけのものだった、あいさつみたいなものだった。だが俺にとっては、やはり尊いものだった。
    「これからもよろしく頼む」
     楽しそうに狡噛が笑う。唇をゆっくりと離しながら、俺の様子を伺うように。俺はそれにため息をついて、この先の関係を思った。狡噛は今までのように、花城との取り引きや、自分が望む事件の解決を優先するだろう。自分がしたくないことはしないのだろう。それでも、俺は狡噛の側にいるだろう。彼が興味を持つ何かに振り回されても、それが理解できなくても、プールに何度も時計の部品を突っ込んで、それが自然に完成するのを待つのを繰り返すのだろう。きっとそれくらいじゃなきゃ、俺たちの関係は成り立たないだろうから。
    「こちらこそ?」
     今度は俺からキスをする。口づけはアルコールの味がして、普段より苦かった。スピネルの匂いもしたが、今夜ばかりはハイネケンが勝っている。
     俺たちは空になったビール瓶で乾杯する。キスをするように、口をこすり合わせて、カン、と音を立てて。空には星はない。月も隠れてしまった。今見えるのは人々が作った、人工的な光の連なりだ。空は海のように凪いでいる。星は見えない。だが見えないだけでそこには埋め尽くすほどの星があるのだ。普段は隠れている愛情のように、俺には見えないだけでそこにはあるのだ。
     狡噛は空を見つめている。何もない場所に、何かを見出したように見つめている。俺はそんな姿が好きだった。俺はそんな彼が好きだった。理解できないと分かっていても、同じ方向を見つめていたかった。空には星はない。あの日見た星はない。月も消え、明かりは地上のものだけだ。でもだけど、と俺は思うのだ。それで充分じゃないかと、再会した場所の明かりも、きっと星のように尊いものではないかと。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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