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    時緒🍴自家通販実施中

    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

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    POIPOI 192

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAINING11/19ワンライ
    お題【上司・録音】
    縢くんと仕事終わりに喋ってる狡噛さんが、佐々山のことを思い出したり、宜野座さんとのことを考えている執監です。
    過去と終わり ギノが俺の上司になったのは、全てこちらの至らなさによるところが大きい。もし俺が執行官堕ちなどしなければ、彼はいつまでも同僚であり、親友であり、恋人であっただろうから。それでも、そんなに大切な人と思っていたくせに、譲れないものがあると彼を苦しめたのは他でもない俺だった。情けないことだ、あれだけ愛していると言ったくせに、俺はかつての部下だった、憧れてやまなかった、刑事らしい刑事であった猟犬が残した事件に今も夢中になっているのだから。犯人という亡霊に夢中になっているのだから。
     しかし、それでも、ギノの鋭い視線を受ける度に、こちらを傷つけているように見えるくせに自分が傷ついているあの視線を受ける度に、俺はどうしてもあの本当の自分を見せずに生きている彼を愛おしく思うのだった。狡噛、狡噛と俺の名を呼んでくれたあの青年のことを、自分が取りこぼしてしまったものの大きさにおののくのと同時に、彼の秘めた優しさを愛おしく思うのだった。
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    TRAINING11/05ワンライ
    お題【文化祭・縁】
    何十年かぶりに復活した文化祭で映画を見る狡宜のお話です。
    the plup クラブ活動すらない現代の高等課程で、その目玉のような学園祭を復活させようという動きは、どういうわけか数年に一度起こるのだという。それは考査に向けて忙しい生徒を除いての話らしいのだが、まだ人生の全てを決めるそれには関係のない俺も、やはりというかなんというか、皆で一つの何かを成し遂げるという行事には興味が持てなかった。
     けれど、狡噛はそうではなかった。そして学年の中心にいる狡噛が心動かされるものには、みんなが心動かされたのだ。
     結果的に狡噛を含めた数人が動き、教師の黙認のもと、文化を尊んだらしい秋のこの時期に、シビュラシステムに違反しない限りで前世紀のそれを模倣することになった。とはいえ、それらはフードプリンターで作った菓子を喫茶店方式で売るとか、不用品を持ち寄ってバザーをするとか、芸術家志望の学生が記念にコンサートをするとかの、ごくごく気楽なものだった。もちろん公式の行事ではないため参加しないでも許されたから、俺はその日を勉強に充てることにした。図書室にはそんな生徒も多くいて、だから俺はあの特別教室の中で浮かなかった。外のざわつきは気になったけれど、集中すればすぐに忘れてしまった。忘れたかったのもある。皆に囲まれている狡噛を見るのが、少しつらかったのもある。でも、そんな俺を連れ出した人間がいた。もちろん、狡噛である。俺のたった一人の友人で、親友で、縁があってつい最近恋人になった男が、また俺を外に連れ出してしまったのだ。
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    TRAINING10/29ワンライ
    お題【木枯らし・ふわふわ】
    東京で事件を解決した後ホテルに泊まった狡噛さんと宜野座さんが、ノナタワーを見て縢くんを思い出すお話です。外外です。
    君を喪う 木枯らし一号が関東に吹いた時、俺たちはたまたま公安局との合同捜査で現地にいた。そんな日に懐かしい面々との再会もそこそこに俺たちは仕事に向かうことになったのだが、その任務については守秘義務があるし、霜月もいい顔をしないだろうからここでは割愛しておこう。
     ただ、俺たちに割り振られたのは厄介な仕事だったことは確かだ。だからこそ行動課が呼ばれたのは分かっていたが、街中や廃棄区画を走り回らされたし、慎導らとともにドローン頼りでない、熱心な聞き込みまでやらされた。そのおかげで無事犯人は捕まり事件は解決し、俺と狡噛は今、騒がしい喧騒が消えた夜の東京で、霜月がとってくれたホテルにいる。
     てっきり潜在犯である俺たちは執行官官舎にでも押し込められると思ったのだけれど、外務省とパワーゲームをする公安局は俺と狡噛、そして須郷を他省庁の特別捜査官であることを重視したのだろう。その結果がこのホテルなのだろうと、俺はいやに豪華なアメニティを見て思った。公安局にツテを持つ入国者が開いたこのホテルは、嫌味なくらい何もかもが丁重で重厚感があり、そして高級だった。
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    TRAINING10/22ワンライ
    お題【明るい・髪】
    朱ちゃんが来る前の執監のお話。狡噛さんはほとんど出てきません。唐之杜さんとお話する宜野座さんが色々考えるお話。前の作品の対になっています。
    春が過ぎる 明るい青の色を灯していた瞳が暗くなってゆくのを、俺はただ見つめているだけだった。曲がりなりにも恋人だったのに、まるで他人事のように彼が堕ちてゆくのを見ていた。狡噛は俺にとっての光だったというのに、その光が消えてゆくのを、ただぼんやりと眺めているだけだった。
     違法なストレスケア薬剤の密売ルートの摘発を行うのは、今回が初めてだったわけではない。売人はいくらでも現れるし、廃棄区画で主に行われる薬の製造を止めることはできないからだ。もし本当に違法薬物の売買を止めたいのなら廃棄区画を潰してしまえばいいのだろうが、それは厚生省が許さなかった。あそこはある種の隔離施設だったからだ。
     製造元の工場を突き止めた時は、正しくは唐之杜が突き止めた時は高揚すらした。俺は何かに向かって突き進んでいなければ生きているという実感が湧かなかった。それは、狡噛が佐々山の最後の事件に執着しているのと同じ理由なのだろう。そして俺の瞳もきっと、彼と同じように暗く光っているのだろう。
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    TRAINING10/15ワンライ
    お題【メンタル・派手】
    朱ちゃんが来る前の憔悴しきっている執監のお話。事件現場に突入した宜野座さんが怪我をして意識を失い、そんな宜野座さんに話しかける狡噛さんです。ちょっと暗め。
    永遠ことあれかし ギノが俺に隠れてメンタルケア薬剤を飲んでいることは知っていた。
     監視官は厳しい仕事だ。狭い部屋に押し込められた執行官よりもずっと自由がなく、ただ事件を解決することだけを考えて一日が終わる。精神をすり減らして辞めてゆく者も多かったし、出世に固執していたというのに執行官に堕ちる者、矯正施設送りになる者もいた。それでもギノはぎりぎりの場所で、その地位にしがみついていた。まるで自分にはそれしかないと言わんばかりに、まるでそれしか自分には求められてはいないと言わんばかりに。
     監視官は基本的に執行官の監督にあたる立場にある。猟犬を使い、彼らに犯人の思考をトレースさせ、自分たちは色相を悪化させないまま事件を解決するのだ。だが彼はどういうわけか、自分でドミネーターの引き金を引くことが多かった。それは監視官としては珍しいことだった。今の一係の監視官は彼だけで、それでも脅威的な検挙数を誇るのは、ギノの存在によるところが多い。だが、まるで彼は自傷するようにドミネーターの引き金を躊躇なく引き、犯人を執行してゆく。俺はそれを見るたびにいつ自分に向かってドミネーターの引き金に指をかけるのか気が気じゃなかった。執行官の俺が言ってもしょうがないのだろうけれども、俺はかつての恋人を心から心配していた。そしてそんなある日に、彼はあろうことか任務中に犯人と揉み合いになり派手な怪我を負ったのだった。
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    TRAINING10/08ワンライ
    お題【気晴らし・ダイエット】
    厄介な仕事を終えて狡噛さんの部屋をビールを持って訪ねた宜野座さんが、狡噛さんに過去について語られるお話です。
    need to be in love なんとはなしに狡噛の部屋を訪ねることはよくある。それは時に友人としてであったり、時に恋人としてであったりしたが、気晴らしを求めてということも少なくなかった。何せ彼の部屋には多くの希少な古本があり(日本語翻訳されていないものも多く読めるものは少なかったが)、紙のスリーブに入ったレコードや父が残した酒に負けないくらいのブランデー、そして今や色相悪化を理由に流通していない映画のディスクがあった。俺はそれを旧式のプレーヤーで見るのが好きだった。最新の流行映画にはない砂嵐ですら、芸術のように思えたからだ。レコードもよかった。かすかな雑音が、まるで耳のすぐ側で囁いているようだったから。
     今夜もドアを開けたら、レコードプレーヤーから耳に馴染むなめらかで軽やかな女の歌声が聞こえてきた。三オクターブの声域を持つ、アルトの声の美しさ。狡噛が気に入るには少し甘すぎる声。批評家にロマンチックすぎると評価されたにもかかわらず、何度もグラミー賞を取りやがて殿堂入りした兄妹のポップ・ソング・グループ。世界的人気を得た彼らだったが、けれどヴォーカルが無理なダイエットから拒食症になり亡くなり、活動は突然終わりを告げる。彼女の死は摂食障害を世界にしらしめるものとなった。
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    TRAINING9/17ワンライ
    お題【宇宙・かわいい】
    仕事終わりに空を見上げる狡噛さんと、そんな狡噛さんの昔のことを思い出す宜野座さんのお話です。
    天の光は全て星 夜、狡噛は空を見ることが多い。とはいえ出島では高層ビル群が放つ光や、猥雑なネオンなどで、ほとんど星は見えないのだが、それでも彼はベランダに立ってスピネルを吹かし、月や宵の明星を見つめるのだった。
     狡噛が星が好きだと聞いたのは、学生時代のころのことだ。彼は一時期取り憑かれたように宇宙の神秘についての本を読みあさっており、それは暇さえあれば教科書を読んでいるような俺が心配してしまうほどだった。あと五十億年したら太陽はなくなるんだ、暗黒物質の正体はまだ解明されていないんだ、生命が誕生するには二十五メートルプールにばらばらの時計の部品を入れて、自然に完成するくらい奇跡的なんだ。素粒子物理学、天体物理学、一般相対性理論、プラズマ物理学、現象学、超弦理論、量子力学。とにかくあのころの狡噛の喋る言葉は意味が分からず、会話をするにも一苦労したのを思い出す。なにせハンバーガーを食べる時ですら、彼は重ね合わせの原理について思考していたのだから。それが収まったのは、彼がまた違った分野に興味を持ったからだったが、あの時は安心したものだ。それは珍しく俺にも理解できる程度の問題で、会話に取り入れることもできたので。
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    TRAINING9/10ワンライ
    お題【合宿・月】
    外務省の子女たちの合宿を監督することになった狡噛と宜野座が川の近くで取り留めもなく喋るお話です。
    死んだっていいわ 深夜、川べりでのキャンプファイヤーに気を良くした学生が、メディカルトリップでない本物の酒に手を出すのにはそれほど時間はかからなかった。俺と狡噛は確かに彼ら——外務省高官の子女たち——を監督する立場にあったのだが、何せ彼らからは距離があったので、合宿にはしゃぎパーティーを始めた子どもたちに気づくまでには時間がかかった。それに監督といったって、危険な侵入者から彼らを守るのが俺たちに期待される行動であって、健全な合宿生活を送れるようにする教師の役割は求められていない。あくまでも俺たちは彼らの警護を仰せつかっているのであって、その守るべき存在が勝手に馬鹿をやるのなら止める方法はなかった。
     ちなみに今回の合宿は、最終考査が終わり、学生生活が終わり、その思い出づくりで行われたものらしい。多くが中央省庁に就職が決まったエリートたちだから本当の馬鹿はやらないだろうが(たとえば違法なストレスケア薬剤に手を出すとか)、アルコールを許すかどうかは微妙なラインだった。酒はその依存性から、現在では煙草と同じく色相を曇らせるものとして扱われている。俺の隣でスピネルを嗜んでいる潜在犯がいい例だ。彼の現在のサイコ=パスは知らないが、俺よりも濁っているのは確かだろう。それに俺も人のことは言えないくらいの色相だ。健全な学生たちが一夜だけ楽しむくらい、見逃してやってもいいのかもしれない。そう思い、俺は報告書に彼らがアルコールを楽しんだのは書いてやらないことにした。
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    TRAINING8/13ワンライ
    お題【怪談・山】
    山で不思議なおじいさんを見た狡噛さんが中国の故事を持ち出して色々喋るお話です。
    月夜の壺 任務を終え、月が大きな夜中に、木々の連なる山の中をバンで移動していた時の話だ。
     花城は珍しくアイマスクをして眠り入り、須郷は勤勉にもデバイスで報告書を書いていた。俺は愛用の銃の手入れをしていて、狡噛は古びた本を小さなライトで照らしながらゆったりと読んでいた。運転手はこちらには話しかけて来ず、俺たちの間に会話はなかった。ただ少しおかしいことに、狡噛はどういうわけか、ふとした瞬間からバンの窓の外を見つめて動かなくなってしまった。本のページをめくる手も止まり、彼は夜中の山の景色に釘付けになっているようだった。
    「どうしたんだ?」
     俺は不思議に思って、銃の手入れを中断し、恋人に話しかけた。すると彼は狸にでも化かされたかのように「壺を持った老人を見たんだ」と言い、何かを考えるそぶりを見せた。こんな夜中に、こんな山の中を壺を抱えてすごすごと歩く老人か。案外その壺の中には骨が入っていたりして、と、俺は安い怪談のような空想をして、きっとそれとは全く違う想像をしているだろう狡噛を見た。
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    TRAINING7/2ワンライ
    お題【晴れ・ゼリー】
    宜野座さんの機嫌を取るためにお菓子をプレゼントする狡噛さんのお話。征陸さんのことを思い出したりしています。
    ご機嫌取りとプレゼント 喧嘩をした時や、言葉を選び間違えて気まずくなった時、狡噛は食べ物で俺の機嫌を取ろうとすることがある。たとえば出島で評判のレモンが入ったバターサンドだとか、最近の季節にぴったりの桃のシャーベットやゼリーだとか、さくさくでシナモンが効いたアップルパイだとか。彼はそんなものを携えて自然と口をきかなくなった俺の元にやって来て、無言でぐいと差し出すのだ。喧嘩や気まずさに疲れた俺はそれを受け取って、ひとまず休戦とするのだけれど、最近はそれが自然と増えて来ていた。つまり、気まずさを感じる日が増えて来ているのだった。
     とはいえ、別に狡噛との生活が嫌になったわけじゃない。俺は彼を愛しているし、あの男以上の誰かとこの先出会う気はしない。だが、日本を出て海外を放浪しているうちに彼は変わってしまって——もちろん変わらないところもある、俺に全てを任せて、自分の好まない状況から逃げるところとだとか——俺はそれが時折怖くなるのだった。彼はまたいなくならないだろうかだなんて、そんなふうに思ってしまうのだった。微妙な感情のズレ、そんなものを恐れて、俺は狡噛への言葉を間違えてしまう。彼はきっと傷ついていると思う。晴れやかな顔をした狡噛なんて、俺は久しく見ていない。あんなに美しい笑顔を持った男だったのに。
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    TRAINING6/25ワンライ
    お題【父・夏至】
    出島のマーケットに買い出しに行き夏至祭の花を貰う狡噛さんが、宜野座さんにどうやってプロポーズするか悩むお話です。宜野座さんは出てきませんが甘いです。
    夢の花 移民が多く住む出島では、夏至祭が盛大に行われる。色とりどりの花を冠にした少女が走り回り、苺やベリーを大声で売る商人が身振り手振りで客引きをし、古い言語で歌われる恋の歌がラジカセから流れ、花の葉についた朝露を老婆たちが健康を願って孫たちに含ませる。もちろん民族によって夏至祭は多くの種類に分けられるから、さまざまな国家から脱出した人間が集まるここでは、全てが統一されているわけではない。現に夏至祭が行われる日もばらばらだ。二十一日だったり、二十六日までだったり、そもそもが移動祝祭日だったり。冬至に祝う民族もいる。それでも共通して一つだけ残っているものがある。というか、日本人にも、特に若い女たちの間で広まりつつある風習があった。それは夏至祭のイブに、枕の下にセイヨウオトギリの黄色い花を敷いて眠るというものだ。俺がそれを聞いたのは、太陽が天に昇る頃のマーケットの果物屋で、腹の出っぱった親父から林檎やら何やらを買い、おまけだと黄色い花をもらった時だった。
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