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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    10/15ワンライ
    お題【メンタル・派手】
    朱ちゃんが来る前の憔悴しきっている執監のお話。事件現場に突入した宜野座さんが怪我をして意識を失い、そんな宜野座さんに話しかける狡噛さんです。ちょっと暗め。

    #PSYCHO-PASS
    ##狡宜版深夜の創作60分勝負

    永遠ことあれかし ギノが俺に隠れてメンタルケア薬剤を飲んでいることは知っていた。
     監視官は厳しい仕事だ。狭い部屋に押し込められた執行官よりもずっと自由がなく、ただ事件を解決することだけを考えて一日が終わる。精神をすり減らして辞めてゆく者も多かったし、出世に固執していたというのに執行官に堕ちる者、矯正施設送りになる者もいた。それでもギノはぎりぎりの場所で、その地位にしがみついていた。まるで自分にはそれしかないと言わんばかりに、まるでそれしか自分には求められてはいないと言わんばかりに。
     監視官は基本的に執行官の監督にあたる立場にある。猟犬を使い、彼らに犯人の思考をトレースさせ、自分たちは色相を悪化させないまま事件を解決するのだ。だが彼はどういうわけか、自分でドミネーターの引き金を引くことが多かった。それは監視官としては珍しいことだった。今の一係の監視官は彼だけで、それでも脅威的な検挙数を誇るのは、ギノの存在によるところが多い。だが、まるで彼は自傷するようにドミネーターの引き金を躊躇なく引き、犯人を執行してゆく。俺はそれを見るたびにいつ自分に向かってドミネーターの引き金に指をかけるのか気が気じゃなかった。執行官の俺が言ってもしょうがないのだろうけれども、俺はかつての恋人を心から心配していた。そしてそんなある日に、彼はあろうことか任務中に犯人と揉み合いになり派手な怪我を負ったのだった。
     
     
     俺たちが追っていたのは、違法な薬物取り引き、ストレスケア薬剤に混ぜ物をしてセックスドラッグとして売っている連中の事件だった。犯人たちは薬物売買で莫大な金を得ており、それは廃棄区画に根を張るやくざたち、そして政財界に流れていた。被害者も多く、死人も出ていた。過剰摂取でユーストレス欠乏症になった者もいる。そんな危険な薬物だった。
     その製造元を突き止めたのは唐之杜だった。彼女はその鮮やかな手腕で、厚生省管理下にありながらも強力な権限を持つ製薬会社の重役連中の口座を洗い、彼らが不当な利益を得ていることを俺たちに示した。多分、彼らが大規模にストレスケア薬剤を横流ししているのだろうとも。だとしたら犯人たちのグループは大きなものだろう。俺たちが当初想像していたものよりもずっと。
    「この事件、早くしないと迷宮入りになりそうね。厚生省から圧力がかかるのも時間の問題じゃない?」
     唐之杜は長い爪に赤いマニキュアを塗りながら、薄暗い分析室の椅子に座り言った。ギノは固い顔をしていた。想定以上の事件に行き着いてしまったことを、強く感じている顔だった。
    「製造元は昨日停電が起こった廃棄区画の中でも、独自電力で動いていたビルでしょうね。非常用電源の力じゃなかったわ。ここに安定供給している電力会社もグルに違いないわ」
     早くしないと迷宮入りか、俺はそう一人ごちて、ギノの指示を待った。監視官の頃なら自分から動いていた。けれども最近は、ドミネーターの託宣に従うことしか俺はしていない。そしてドミネーターの託宣とは、ほとんどが監視官の言葉だった。
    「早速突入する。六合塚は唐之杜との通信が途切れないように携帯端末を使って適宜指示を、縢は退路を断つためにドローンを使ってビルの包囲を、征陸と狡噛は俺と来てくれ。犯人たちを袋叩きにしてやる」
     ギノは強い声で言った。俺はそれに返事をしつつも、ぼんやりとした頭で、また人を執行するのかと思った。近頃はドミネーター頼りで自分で考えることもなくなった。思考を放棄していた。佐々山の最後の事件だけが俺を執行官として繋ぎ止めていて、もしそれがなければ施設送りになってもいいような働きぶりだった。
    「狡噛、行くぞ」
     ギノが俺に声をかける。皆が総合分析室から出てゆく。この時の俺は明らかに事件に対して不誠実だった。だからああなったのかもしれない。ギノが派手に怪我を負い、意識を失うことになったのかもしれない。
     
     
     先に言った通り、ギノは突入時に犯人の一人と揉み合いになり、派手な怪我を負った。それは意識を失わせるほどのもので、彼の父親を動揺させた。俺はそれを見つつも、ドミネーターに従って次々に犯人たちを執行していった。オーバー三百の者は血溜まりを作り、それ以下の者は気絶した。俺は血まみれになりながら、ギノを介抱する仲間を置いて組織を壊滅させた。動揺は驚くほどしていなかった。かつての恋人が怪我をして意識を失っているというのに、驚くほど動揺していなかった。頭の中でギノを思い浮かべたけれど、その像ははっきりとしなかった。俺たちはもう、本当に駄目になったのかもしれない。
     ギノは救護ドローンによって医務室に運ばれ、唐之杜による手当てを受けた。派手な怪我のわりに、派手な血のわりに傷は浅かったという。ただ揉み合いになった時に頭を打っており、状況次第では危険だと唐之杜は言った。まだ何も分からない、意識を取り戻すまでは何とも言えない、そう彼女は言った。
     俺はそんな彼の病室を見舞おうとしたが、その側には父親であるとっつあんがいて、二人の邪魔をしてはまずいと思いやめた。もう俺たちは気遣い合うような仲じゃなかった。ただ俺は命令されるままに動き、ドミネーターの、シビュラシステムの託宣に従い、犯人たちを捕まえただけだった。けれど監視官は執行官を盾にするはずなのに、どうしてあの時ギノは自分から犯行現場に駆け入ってしまったのだろう。俺を犠牲にすればよかったのに、どうしてそうしなかったのだろう。
    「ギノ……?」
     医務室から人が消えたのを見計らってそこに入ると、目をつむったままのギノがいた。俺は突っ立ったままその痩せた男を見下ろす。病衣を着た彼はいつもよりずっとほっそりとして見えた。俺はそれを寂しく思い、早く目覚めてくれと願った。
    「ギノ、俺はもう、自分で考えることも出来ない。今日犯人を殺した時も何も感じなかった。彼らは生き証人になったかもしれないのに、ドミネーターに従って殺した。事件は藪の中かもしれない」
     かろうじて死ななかった犯人たちの取り調べは進んでいるが、みな硬く口を閉ざし、黒幕について語ろうとはしなかった。語れば殺される、それが分かっているからだろう。どう引き出せば良いのだろう。俺には分からない。ドミネーターは全てを見通すが、アナクロな部分は人間が担当せねばならなかった。なのに、俺はドミネーターに頼ってしまう。人間の意志を手放してしまう。もしかしたら、かつての恋人に対する感情もいつか失ってしまうかもしれない。
    「お前が好きだよ、ギノ。お前は執行官に思われるだなんて不服だろうが、俺にはもうそれしかないんだ」
     語りかけても、ギノは目すら開かない。俺は煙草に火をつけて部屋を離れる。途中でとっつあんとすれ違ったが、言葉は交わさなかった。
     ギノは無事目覚めるだろうか? いつか自分たちの道が再び交わることはあるだろうか? 俺はそんなことを思って、自分を笑った。ギノはきっと大丈夫だ、俺たちは二度とともに歩けないだろうが、それでいい。彼は厚生省に上がって幸せになる。俺はここで一生を終えて、いつか野垂れ死にする。それが既定路線だろう。
     けれど誰かがやって来て、この状況を変えてくれはしないかと俺は思った。救世主待望論のようで笑ってしまったが、もう自分たちは二人きりでは変わることは出来ないように思えた。
     出来ればもう一度愛し合いたい。何も遮るものがない場所で、愛し合いたい。けれど今はそれは望めない。望めはしないのだ。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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