未来予想図(プロポーズ)「厚生省に上がったら、一緒に住まないか?」
狡噛がそう言ったのは、俺が部下の文句を言いながらランチを口に運んでいた時のことだった。俺は少しの間ぼうっとした。それは少し考えにくいように思えたからなのだが、何年もずるずると学生時代から付き合っていて、先のことを考えないのも、そう言われればおかしいような気もする。
「それは友人として? 恋人として? それとももっと深い間柄として?」
公安局のランチスペースじゃなく、外の店を選んだのはこれか、と俺は思う。狡噛は少し赤い顔をしていて、それは寒空の元可愛らしく俺に映った。これじゃあまるでプロポーズを催促しているみたいだな、なんて思う。恋人としてじゃなく、もっと先に進みたいっていうんなら俺だってやぶさかじゃない。俺は魚のフリッターを食べる。狡噛はパンをちぎる。プロポーズみたいなものは何度もされているが、直接こんなふうに言われようとしていたのは初めてのことだった。最近は血生臭い事件が多くて、俺たちは駆り出されてばかりだったし。
「人生で共にするパートナーとして。ほら、ギノ。これを受け取ってくれ」
狡噛がレイドジャケットのポケットから指輪を取り出す。そしてまだイエスとも言っていないのに俺の左手薬指にはめて、そして俺が喜ぶのを確信して、もう物件は探してあるんだと笑った。
「まだ事件が解決してないのに、まだ厚生省に上がるまでは何年もあるのに? お前ってやっぱり結構せっかちなんだな」
「プロポーズをせがんだのはお前だろ?」
狡噛が笑う。俺も同じように笑って、そして彼が渡してくれたシンプルな指輪をさすった。
「フラッシュモブは仕込んでないよな?」
ロマンチストな彼のことだから、それくらいしていてもおかしくない。そう思って狡噛を見ると、肩をすくめて「俺たちだけのものにしたいのに?」と笑った。俺は答えを焦らして最後にイエスと言って、無関心が貫かれる小さな店の中でキスをする。狡噛はガッツポーズを取る。これで家族だよ、ギノ。狡噛が言う。俺はそれに何とも言えない気分となって、家族と繰り返す。家族、家族、家族。
「佐々山にはまだ言うなよ。まぁ、この事件が解決してからなら構わないが」
俺がそう言うと、狡噛は頷いてもう一度俺にキスをした。俺たちはその時、すべてが上手くいっていると思っていた。