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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    狡噛さんが初めてプロポーズした日の話。
    800文字チャレンジ13日目。

    #PSYCHO-PASS
    #800文字チャレンジ
    800CharacterChallenge

    未来予想図(プロポーズ)「厚生省に上がったら、一緒に住まないか?」
     狡噛がそう言ったのは、俺が部下の文句を言いながらランチを口に運んでいた時のことだった。俺は少しの間ぼうっとした。それは少し考えにくいように思えたからなのだが、何年もずるずると学生時代から付き合っていて、先のことを考えないのも、そう言われればおかしいような気もする。
    「それは友人として? 恋人として? それとももっと深い間柄として?」
     公安局のランチスペースじゃなく、外の店を選んだのはこれか、と俺は思う。狡噛は少し赤い顔をしていて、それは寒空の元可愛らしく俺に映った。これじゃあまるでプロポーズを催促しているみたいだな、なんて思う。恋人としてじゃなく、もっと先に進みたいっていうんなら俺だってやぶさかじゃない。俺は魚のフリッターを食べる。狡噛はパンをちぎる。プロポーズみたいなものは何度もされているが、直接こんなふうに言われようとしていたのは初めてのことだった。最近は血生臭い事件が多くて、俺たちは駆り出されてばかりだったし。
    「人生で共にするパートナーとして。ほら、ギノ。これを受け取ってくれ」
     狡噛がレイドジャケットのポケットから指輪を取り出す。そしてまだイエスとも言っていないのに俺の左手薬指にはめて、そして俺が喜ぶのを確信して、もう物件は探してあるんだと笑った。
    「まだ事件が解決してないのに、まだ厚生省に上がるまでは何年もあるのに? お前ってやっぱり結構せっかちなんだな」
    「プロポーズをせがんだのはお前だろ?」
     狡噛が笑う。俺も同じように笑って、そして彼が渡してくれたシンプルな指輪をさすった。
    「フラッシュモブは仕込んでないよな?」
     ロマンチストな彼のことだから、それくらいしていてもおかしくない。そう思って狡噛を見ると、肩をすくめて「俺たちだけのものにしたいのに?」と笑った。俺は答えを焦らして最後にイエスと言って、無関心が貫かれる小さな店の中でキスをする。狡噛はガッツポーズを取る。これで家族だよ、ギノ。狡噛が言う。俺はそれに何とも言えない気分となって、家族と繰り返す。家族、家族、家族。
    「佐々山にはまだ言うなよ。まぁ、この事件が解決してからなら構わないが」
     俺がそう言うと、狡噛は頷いてもう一度俺にキスをした。俺たちはその時、すべてが上手くいっていると思っていた。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING思い出と今の星の違い。
    800文字チャレンジ48日目。
    星空デート(プラネタリウム) 出島では星が見えない。それは夜も煌々と明かりを灯すイルミネーションのせいだったりするのだが、俺はそれが別に嫌いではなかった。東京も似たようなものだったし、防犯のためには明かりは多い方がいい。それでもふと裏路地に入る時、空に見える星が俺は好きだった。かつて紛争国で見た星々のようで、とても美しくて。
     ギノとは学生時代に何度か旅行に行ったことがある。彼は唯一コンタクトを取れる肉親である祖母とは別居していたから、ギノを縛る者は誰もいなくて、俺は気まぐれに恋人を誘っては放棄された土地にキャンプを張ってひと夜を過ごすことが多かった。もちろん移動はバイク、と行きたかったのだが、彼の愛犬がいることでそれは却下になった。ダイムは珍しい自然の匂いに興奮して喜んでいて、いつもいろんなところを走り回っていたように思う。俺たちはそんな中で肉を焼き、秘密だとビールを空け、酔っ払って何度もキスをした。セックスもした。でも、最後に見るのは、いつだって星空だった。まんてんの星空。びっしりと宝石で埋め尽くされたような星空。俺たちはそんなところでいつも好きだとか愛しているとか、そんな切実な言葉を交わしたのだった。
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