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    短い話を放り込んでおくところ。
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    10/22ワンライ
    お題【明るい・髪】
    朱ちゃんが来る前の執監のお話。狡噛さんはほとんど出てきません。唐之杜さんとお話する宜野座さんが色々考えるお話。前の作品の対になっています。

    #PSYCHO-PASS
    ##狡宜版深夜の創作60分勝負

    春が過ぎる 明るい青の色を灯していた瞳が暗くなってゆくのを、俺はただ見つめているだけだった。曲がりなりにも恋人だったのに、まるで他人事のように彼が堕ちてゆくのを見ていた。狡噛は俺にとっての光だったというのに、その光が消えてゆくのを、ただぼんやりと眺めているだけだった。
     違法なストレスケア薬剤の密売ルートの摘発を行うのは、今回が初めてだったわけではない。売人はいくらでも現れるし、廃棄区画で主に行われる薬の製造を止めることはできないからだ。もし本当に違法薬物の売買を止めたいのなら廃棄区画を潰してしまえばいいのだろうが、それは厚生省が許さなかった。あそこはある種の隔離施設だったからだ。
     製造元の工場を突き止めた時は、正しくは唐之杜が突き止めた時は高揚すらした。俺は何かに向かって突き進んでいなければ生きているという実感が湧かなかった。それは、狡噛が佐々山の最後の事件に執着しているのと同じ理由なのだろう。そして俺の瞳もきっと、彼と同じように暗く光っているのだろう。
     
     
     薄く目を開けると、そこは白い空間だった。腕にはいくつもの点滴チューブが繋がれており、側には狡噛がいた。彼は何かを喋っていたが、俺はどうやっても聞き取れず再び目を閉じた。その方が何を言っているか分かる気がしたからだ。だが、俺は最後まで彼が何を言っているのか分からなかった。
     そういえば、どうして俺はこんなところにいるのだろう? 犯人を捕まえようとした時点までの記憶はあるのに、そこからは曖昧だ。少し頭が痛む。それは頭痛とはまた違った痛みで、俺を少し悩ませた。誰かが椅子から立つ音がする。きっと狡噛だろう。俺が目を開けないので、呆れて出ていったのかもしれない。彼が何を言ってくれたのかは気になったけれど、今は眠っていたかった。俺はまどろみの中にいた。狡噛の声は少しざらついていて、それはきっと煙草によるもので、そんなところまで佐々山に似せないでもいいのにと俺はぼんやりと思った。スピネル、佐々山の愛飲していた煙草。狡噛は定期的にそれの購入申請を俺に行う。俺はそれを許可する度にかつての部下を思い出し、彼に入れ込んだ結果執行官に堕ちたかつての恋人に対する苦い思いを噛み締めるのだった。
    「あら、起きたの? だったら念のためいくつか確認させてちょうだい」
     うたた寝をしながらまばたきをしていると、いつの間にか隣に唐之杜がいた。彼女のヒールの音にすら気づかなかったということは、俺は思った以上に疲れているのかもしれない。唐之杜は小さなライトで俺の瞳を照らし、指を数本立てて「何本に見える?」と言った。俺は霞む視界の中「三本」と返し、彼女に及第点をもらった。
    「この分じゃあ大丈夫そうね。瞳孔の動きも正常よ。CTスキャンはしなくてもいいだろうけど、今日一日はゆっくりすることね」
    「監視官は俺しかいないのに」
    「そろそろ新しい子が来るんでしょう? 優秀だって噂の。それまでは二係と三係に任せたら? それともあっちに検挙率を超されるのが怖い? また取り返せばいいじゃない」
     唐之杜が軽口を叩く。俺はそれに思わず笑ってしまって、それが珍しかったのか彼女は首を傾げて少し複雑そうな顔をした。
    「慎也くんが来てたのは知ってる?」
    「……いや、起きたのは唐之杜が来てからだ」
     俺は嘘を言った。それに唐之杜が気づいたのかどうかは分からない。でも、彼女は身につけた時計で時刻を計算すると、「それじゃあ三時間は寝てたことになるわね」と心配そうに言った。そんなに眠っていたのかと俺は自分に呆れる。最近は連勤で最悪な仕事続きだったから、それが出たのかもしれないが。
    「新しい監視官の経歴を見ていると、狡噛を思い出したよ。とんでもないポイントを叩き出してさ、訓練センターの教官の評判もいい。あいつに抱いていたみたいな劣等感を刺激されるな」
     俺が思わずこぼした言葉に、唐之杜は「珍しいわね」と笑った。「弱気になるなんて我らが監視官殿にしては本当に珍しいわ」とも。
     唐之杜の金髪が天井からの明かりに光る。狡噛の髪もそういえば、光にかざすと淡い青になって美しかった。彼はいつだって透き通っていた。光にかざすと明るかった青い瞳、夜の深い海のような髪色、俺はそれが好きだった。セックスの最中にそれに触れるのが好きだった。彼の存在を感じたような気分になれたし、俺にとって一番だった彼と同じになるような気がしたからだ。
    「新しい監視官の論文を読ませてもらったんだが、狡噛の進め方に似ていたよ。俺とは違う」
    「また自虐? どうしちゃったの? 頭を打って性格が変わっちゃった?」
     唐之杜が腕を組む。俺はそれに口元を緩めながら「案外そうだったりしてな」と返した。
    「……慎也くん、心配そうにしてたわよ。可愛いじゃない。あとで話でもしてあげたら? きっと安心するわ」
     俺はその言葉に、あの時彼が何を言っていたのだろうかとぼんやりと思った。彼は何を話していたのだろう。頭がくらくらして分からなかった。起きたばかりで完全に覚醒してなかった。ただ声が優しい色をしていて、かつての監視官だった頃の彼のそれに似ていた気がしたのを覚えいてる。幸せだった時の、まだ恋人だった時の、そんな声をしていたような気がする。
    「さっきから俺の心配をしてばかりだな。六合塚が妬くぞ」
    「弥生は心が広いの。一度くらいのつまみ食いなら笑って許してくれるわ」
    「そんなことを言って、一途なくせに」
     唐之杜が肩をすくめる。そして「そんなに喋れるならもう大丈夫ね」といつの間にか空になった点滴のパックを取り、俺の腕からチューブを抜いて医務室を去っていった。俺はそれを眺め、なんとはなしに昔の狡噛に似た誰かが一係に来るのなら、彼もかつてのように戻るだろうかと思った。そんなことは無理だと分かっているのに、俺はどこかで救世主を求めていた。二十歳そこらの女にそんな役目を求めるのは間違っているのに、もし彼女が狡噛を変えてくれたらと思わずにはいられなかった。俺が読んだ論文はそう思わせてしまうほど、かつての彼に似た理論運びをしていた。
     俺は狡噛に、佐々山の亡霊ばかり見ていないで、存在しない犯人ばかり見ていないで、俺を救い出してくれた頃に戻ってくれればいいと思った。そんなことが可能だったとして、関係は元に戻らないと分かっているのにだ。
     俺はいつまで狡噛とともにいるだろう。俺は厚生省の官僚にまで上り詰められるだろうか? 彼と同じように執行官に堕ちるだろうか? それとも矯正施設送りだろうか? 俺はどこで野垂れ死ぬのだろう。でも、どちらにせよ、彼のいない場所で死ぬのなら、今死んだって同じことだった。彼の心が戻らないまま死ぬのなら、この瞬間に死んだって同じことだった。
     春が過ぎ、夏が終わり、そろそろ冬がやって来る。季節は移り変わり、俺はあと数年でこの一係を後にすることになる。それまでに狡噛は佐々山の仇を見つけるだろうか。そうしたら、彼は元に戻るのだろうか。それともかえって生きる気力をなくすだろうか。
     俺は静かに目を閉じる。空想に疲れて、静かに目を閉じる。狡噛との道が再び交わることだけを祈って、それだけを祈って静かに目を閉じる。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    学生時代から外務省時代まで続いた二人のお話です。
    800文字チャレンジ15日目。
    オルゴール(あなたを思うということ) 父が母に贈ったプレゼントの中に、木箱を薔薇模様を彫ったオルゴールがある。母はもう意識を失ってしまったが、まだ薬を打ちつつ俺の世話をしてくれていた頃に、夜中そのオルゴールを鳴らしていたことがあった。エリーゼのために。ベートベンが愛した女のために書いた曲。父は音楽知識も豊富だったから、それを贈ることに何か意味があったのかもしれない。母と示し合わせた何かがあったのかもしれない。けれど俺はそれが分からないで、悲しい曲を夜中、空を見ながら聴く母を、家に帰って来ない父を、そしてそんな両親と暮らしていかねばならない自分を不安に思ったのだった。
     だから狡噛がオルゴールをくれた時、それがエリーゼのためにだった時、俺は少し驚いた。何となく父を思わせるところのある彼は(会ったこともないというのに、狡噛は父に似たことをよく言った)、五年目の記念に、と進級したばかりの俺にそう言った。俺はいつものようにあたふたしてしまって、ちゃんと答えられなかったと思う。でもそれをもらった時、俺はもしかしたら、二人に別れが来るかもしれない、と思わずにはいられなかった。狡噛を思って、空を見上げながらオルゴールを鳴らす時が来ると思わずにはいられなかった。そして数年後に、それは現実となったのだった。
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