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    ryuhi_k

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    べったー掲載「星を呑んだ」シリーズ本編外の一コマ
    弐の前の話

    前話「星呑み小話:あやかしやしき」→https://poipiku.com/315554/4949196.html
    後話「星呑み小話:さとりの話」→https://poipiku.com/315554/6439517.html

    ##木星旋回
    ##星呑み

    星呑み小話:凪の夜――こんな事になるなんて思わなかった。

    朝日が差し込むにはまだ早い、薄暗い寝床で旋葎せんりは思う。本当は今すぐにでも起き上がりたいのだが、そうもいかない。理由は2つある。
    先ず、身体が怠い。次に、身体が重い。痩躯の割に大した怪我や病気と縁がない旋葎としては、あるまじき事態である。何故そうなったかと言えば、――楓星ふうせいのせいであった。




    『……』

    前兆は無かったと、旋葎は思う。むっすりと黙ったまま、布団に転がる旋葎を見下ろしている。

    「……あー、お前」
    『言われなくても、分かってる』

    被せるように早口で投げられた言葉に、旋葎は目を見開く。楓星の表情は何時もと大して変わらず不機嫌そうで、状況と親睦性がない。

    「分かってて、俺を?」
    『……』
    「物好きだな」
    『……お前こそ、変に大人しくしやがって』

    ぎち、と奥歯を噛む音が聞こえる。見開いた赤い目が旋葎を睨んでいる。それだけで、楓星は何もしない。いや、何も出来ないのだろう。
    楓星は決して旋葎に危害を加えることが出来ない、というのは出会った時、いや恐らくそれ以前から決まっている事実である。正しくは「危害を加えようとすると楓星自身の力が跳ね返ってくる」とでも言うべきだろうか。どういう理屈か呪いかは不明だが、かすり傷一つだろうと故意につけようとすると、旋葎の後ろに楓星の影法師のようなものが出てきて大げさな反撃を食らう。これが見境なく行われるのなまだ納得もできるんだが、と旋葎は呆れたことがある。双方不本意ながら生活を共にするようになったばかりの頃は、どうにか旋葎の縛を逃れたい楓星はそれを掻い潜れないかと四苦八苦しては吹き飛ばされたり傷を負っていた。
    その経験を踏まえると、恐らく楓星が行おうとしている行為はそれに引っかかる。どちらかが女の形でもしていれば、まだ一瞬、一撃で済むのだろうが、どちらも男の形なのが現実だ。初回では、加害と大して変わらないものにしかなりようがない。楓星もそれを承知しているので動かないのだろう。

    「楓星」

    旋葎が名を呼ぶと、ほんの少しだけ顔の強ばりが解けた。赤い瞳には旋葎だけが映っている。
    ――恐らく、自分達以外は皆知っていたのだろう。あきらは「もう十分そうなっている」と言い、楓星の配下の毛玉達は旋葎を『奥方』と呼んだ。傍から見れば寧ろこうなっていないことが不自然だったのだろう。けれど片や自分以外は等しく下に見ていた楓星、片や他人に踏み入らない旋葎である。只の人間同士であればまた違ったのだろうが、このような関係なのだから仕方ない。

    「一つだけ聞きたいんだが……どうしてだ?」
    『……。……別に、理由なんて無い』

    理由なしでする事じゃないだろう、と言いたいをの飲み込む。そもそもの始まり、旋葎が晶の頼みに頷いた理由とて無いに等しいのだから、一方のみに求めるのも変な話だ。寧ろ、理由が無いのが一番の理由なのかもしれない。言語化出来ない何かだけが、楓星にこんならしくない事をさせている。そうして、旋葎自身にもだ。肩を押し返すような気は、髪の毛程すら湧き上がりはしない。何故か、考えても明確な理由は浮かばない。
    やはり、自分達はそういうものなのだろう。

    「そうか。うん、そうだな」

    楓星の首に腕を回す。重なった唇に歯が当たったが、何も起きない。例え痛みがあろうとも、これは害ではないのだ。
    風の吹かない、夜だった。




    つまり、行為自体は双方納得済みであった。旋葎が想定外だったのは、身体の不調と――楓星が己を抱き込んだまま寝入っていることだ。
    身体の不調の方は、短時間とはいえ寝たのだから回復しているだろうと高をくくっていたところもある。そうは行かなかったということは、明日の朝までこのままなのだろう。久方ぶりの人間らしい痛みや怠さは懐かしくもあるが、好んで負いたいものでもない。

    「……おい」

    呼んで肘で小突いてみるが、楓星が起きる様子はない。どんな顔をして寝入っているのか見てやりたいところではあったが、寝返りすら打ちたくない身体状況である。溜息を吐いて、耳を澄ますが楓星の寝息しか届かない。何時もならば、溜息を吐き終わる前に枕元に湯呑がある筈なのだが。恐らく厳重に楓星が人払いをしたのだろう。
    以前旋葎が捕まえた毛玉三匹の他に、この家にはもう一体姿のないあやかしがいるのだが、それの声すら聞こえない。望む間もなく瞬時に物が現れる仕掛けの中核はそれである。人の心を読む性質をもったそれが、旋葎が望む前に毛玉に伝え用意させていた……というのが事の真相だ。昼間は家にいない楓星に旋葎の様子を伝えていたり、旋葎に認識された今は話相手になったりもしている。
    楓星も流石に、夜の事を事細かに把握なぞされたくはない、と思ったのだとすると、少し面白かった。

    「おい」

    もう一度、少し強めに小突く。変わらず反応はない。
    普段の、今までの楓星なら絶対に楓星の前で眠ったりはしない。共に膳をつついてる以外に一体何をして過ごしているのかすら分からない程度には、旋葎に気を許してなどいない筈だ。それがこの一晩でこれである。極端すぎやしないか、と旋葎は呆れるしかない。

    「ま、俺も大概か……」

    目を閉じる。億劫なだけで、緩い拘束から抜け出せない訳ではない。それをしない理由は、旋葎にも分からない。
    只、起きた楓星がどんな顔をするのかだけはしっかり見てやろうと、そう思った。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    墓石の上、二人でダンスを:5「これ、どこ向かってんだ?」

    向かいのリングに問う。造りが良さそうな馬車は、それでも振動がゼロじゃあない。窓から覗く景色は、勿論初めてのものだ。何せまだ、リングの屋敷とその職場の往復しかしたことがない。この国も住んでる奴らも、何もかもが俺にとってはどうでもいいからそれに不満はないが、この後に訪れる二人きりじゃない時間には不安はある。

    「お前の意味不明な要望を多分どうにかしてくれる人のとこだよ」
    「男なら普通だろ」
    「えー……」

    何故かリングにはこの当たり前の欲求が理解できないらしい。そりゃ俺だって今の、リングの横の特等席を与えられてる状態は嫌じゃない。寧ろ嬉しい。だが、声、視線、動作、髪の1本ですら欲しがるようにしておいてそりゃないだろう、といいたいのも事実だ。勿論、俺の口からそんな言葉が出ることはない。この不満の言葉達すら、いつの間にかなんだかこう、リングにとって都合よく――……何か腹に渦巻いていた気がするが、どこかへ行ってしまった。そんなどうでもいいことはともかく、俺の身体が直るってんなら単純に嬉しい。というか、二人でこうして出掛けてるのは、所謂デートってやつなんじゃないだろうか絶対そうだ。俺の欠けた記憶に同じようなものは見当たらないが、そもそも前線に出ていた奴にんな経験がなくても変ではないだろう。色んな国の軍服を着て、色んな国の奴らをぶっ殺していたぶつ切りの記憶ばかりの俺に、マトモに街で暮らした経験は……多分ないんじゃないだろうか。別にそれがどうってわけじゃないが。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    手術的な描写有り・全体的に品はないのでご注意ください。
    墓石の上、二人でダンスを:2切り取ったものを丁寧に繋ぐ。沢山の素材から選りすぐった一番を、まるで最初からそうだったように。自分の身体が自分でなくなくなっていく感覚がするんだと、名前のない死体は言っていたらしい。誰にでもできる手法じゃなく、誰でも受け入れられる事態じゃない。でも俺はできるし、……コイツもまあ、適性があるんだろう。

    「あのさ」

    手を止めることなく、その先へ視線を向ける。俺の下で横たわって、首だけ持ち上げてこちらを見つめる緑の、淀んだ目。瞬きをする必要のないそれは、コイツの身体が生きていない証拠の一つだ。

    「視線がうるさいんだけど。目、閉じて」

    俺の言葉に、眉を顰めつつ目が閉じられる。そのまま首を降ろしたのを確認して、手元に集中する。鎖骨付近から肩にかけて切開し、筋組織を付け足し繋いでいく。欠損を補うわけではなく、ただ足すだけの生者にはやらない行為。やれたとしても……いや、やれる人間なんてこの国でも今は俺しかいない。その手元が気になるのは当然という思いもあるけれど、……普通だったら自分の身体を弄られているところなんて凝視するようなものじゃないだろうに。それ以外でも大体……いや全部コイツの視線はうるさいんだよな。
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