親友“だった”あいつ——アルクに恋人が出来た。
そりゃまぁ、何ともめでてえことだ。
自分の気持ちもわからねえ、ふわっふわだったあいつがようやく想い人を見つけたってんだ。
……だがまあ、こと恋愛に関しちゃあマジで奥手だなぁ……あいつは。
何でもセックスまでいけそうな空気にまでは持ち込めはするんだが……いかんせん、経験がねえからリードできるか不安で、いつまでたっても一線を越えられねえらしい。
今夜もいつもと変わり映えのねえ失敗談を聞いて、いつもと同じアドバイスをして、それで仕舞い——そのつもり、だったんだがなあ……。
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酒を飲みながら、あーだこうだと言い訳する相棒に「いつまでもウダウダとしゃらくせえなあ……」
と、大きくため息をつき、酒を呷るシロ。
あんまりな言い草だが、酒に酔う度に聞かされていてはさすがのシロも気が滅入るのだろう。
だから、つい、流れを変えるつもりで、いつものように揶揄するような表情で——
「そんなに自信がねえっつーなら……
俺と練習するかぁ?」
と、軽い冗談のつもりで言ってしまったのである。
「ふざけないで」「こっちは真剣なんだけど?」
そう、一蹴されるつもりだった。
それがどう言う訳か、「教えて、欲しい……」と潤んだ瞳で縋りつかれていた。
(おい、マジか……?)
いつもなら、「冗談に決まってんだろ……」と軽く流してやるところだ。
だが、その潤んだ瞳と目が合った瞬間……
シロの中で何かが崩れかけていた。
——こいつとは、そう言う関係では、ない。
だが、まぁ……ちっとばかしやり方を教えてやるだけだ。
一晩だけだ。自信をつけてやりゃ良い。
つまりまあ、性教育っつーヤツだ。
……問題は、ねえはずだ。
実際のところ問題しかないのだが、このシロと言う男は誰かと身体の関係を持つことに慣れすぎているのだ。
だから、少々——感覚が麻痺していたのかもしれない。
酒の勢いもあったのかもしれない。
……結論を言うと、彼は相棒であり、親友であるはずのアルクを——軽く指導するだけのつもりが——抱いてしまったのである。
—————
(やっっっちまった……!)
——窓から差す朝日。
自身の胸元に縋り付くようにして眠る親友。
嗅ぎ慣れた事後のニオイ。
もはや、言い訳しようがない。
「……ん……?あ、れ……?」
身体を起こしシロが頭を抱えていると、追い討ちをかけるようにアルクが目を覚ます。
「……よお、具合は……どうだ?」
冷や汗をかきながら、平静を装い挨拶をするシロ。
仮に酒を飲んだ後の記憶がないにしても、裸で抱き合って寝ていたのだ。
「ん、へいき。
優しく、してくれたんだね……?」
いくら平静を装っても……事実は変わらない。
「——すまねえ……」
「なんで、シロが謝るのさ……?」
「なんで、って……。
お前、分かってんのか……!?」
「やあ、まあ……実はよく覚えてないんだけどさ……。 なんか、満たされてるし……シロが初めてで、良かったかな、って——」
どこか熱を帯びた、親友だったはずの声。
「……おい待て。お前……まさか……!」
小さく頷き、じっとシロを見つめるアルク。
その瞳に秘められた想いを、嫌でも察してしまい——
「……うん。
僕、シロの事が——」
「待て待て待て!落ち着けッ!!
あー、アレだ!酒の勢いもあったしな!
若さ故の気の迷いっつー奴だろ!?
お前が好きな奴は俺じゃなくて——」
「……ねえ、それはちょっと……
ないんじゃないの?」
「……ッ!」
慌てて捲し立てるシロにムッとした表情で、その両頬に手を添えるアルク。
青色の瞳が、戸惑い揺れる琥珀色の瞳を真っ直ぐに射抜き、迷いが消える。
「——ほら。
シロだってもう、わかってるんでしょ?」
「……本当に、いいんだな?」
「もちろん。
『この後』のこと含めて、責任——とってよね?」
「——はは、そりゃ……。
頭が……痛えなぁ〜……」
——的な、行為に慣れすぎて感覚が麻痺しすぎてる故に意図せず(?)寝取ってしまうと言う控えめに言ってクズ気味なシロの過ちから始まるシロアルの導入をここに供養しておきますね……。