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    アヤトキ

    @zub_time の壁打ち。ぴくしぶに載せるまでもない短文とか落書きとかをここに投げます。

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    アヤトキ

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    ⚠️微女装
    残業上がりの深夜、ヤケになってメイクしてる限界社畜の七海。
    多分こんな感じの女装本が3月に出ます。(2021/10/21)

    女の子は誰でも母はきれいな人だった。
    そのままでも美人な母が化粧をすると更に華やいで魅力を増して、それはまるで魔法のようだと思った。自らに魔法をかけていく彼女を横でじっと見つめるのが好きだった。母のような魔法が使えるようになりたかった。自分も魔法使いになれるものだと疑いもしなかった。
    当時は私も細くて小さくて、ふっくらとした頬を赤く染めているのがかわいらしいと、母によく似て美人だと周囲に褒められたものだから。
    やがて成長するにつれて現実を知った。魔法は誰にでも使えるものではなかったのだ。少なくとも、私のためのものでは決してなかった。夜毎軋む骨。少し鍛えるだけでつく張りのある筋肉。突き出た喉仏に低い声。

    鏡に映るそれらに散々打ちのめされて、それでもまだ、この惨めな真似事だけはやめられないでいる。



    もったりした泡を纏わせた顔にカミソリを滑らせる。電動シェーバーも持っているが充電がなかったし充電コードも見つからなかった。代わりに洗面台の引き出しに眠っていた一枚刃のカミソリでほんの僅か伸びてきた髭を剃って少しずつ泡を取り除いていく。地肌があらかた露出したところで洗い流した。疲れの染み付いたワイシャツは跳ねた水ですっかり湿っていた。手探りで掴んだ多分きれいなフェイスタオルに顔を埋め、深く息を吐く。
    ゆっくりと呼吸を三回、繰り返してからようやく顔を上げた。顔の端に残った水気を拭き取り役目を終えたタオルを脱衣カゴめがけて放る。
    手前でひらりと床に落ちて、ため息。
    屈んで拾い上げたそれをカゴに叩きつけた。
    今度は手に取ったスキンケアローションでぺたぺたと顔面に蓋をする。化粧水、乳液、の二ステップも煩わしくてオールインワンに変えたのに疲れきった頭と身体には最早それすら億劫で、ボトルの中身はほとんど減っていなかった。これを買ったのはいつだったか。消費期限、は。

    久々に、ほんとうに久々に、週末の日曜日に休みがとれて、といっても現在時刻は土曜の二十六時で、つまり、やっとのことでもぎ取った二週間ぶりの休日は既に始まってしまっていた。余暇を有意義に過ごす気力なんて無いから、きっとこの休日は夕方まで寝て、それから今週の後始末をして終わってしまうのだろう。
    いつものことだ。
    虚しさを二酸化炭素に混ぜて吐き出して、全身から疲れを垂れ流して、軽くなったと信じ込ませた身体にスーツを纏わせて。そうしてまた労働が始まる。
    いつものことだ。これから先もずっと。


    けれどいま七海建人は寝室の片隅、居心地悪そうに置かれたドレッサーの大きな鏡越しに、やつれた男の顔を眺めていた。

    腰かけたスツールをずりずり動かしてスペースを空け、一番下の引き出しを開け奥からバニティポーチを取り出す。ジジ、と控えめな音を立てて口を開けた、そこ。ストレスをぶちまけるようにして買ったかわいらしいパッケージがぎちぎちに詰まっていて。

    ――いらっしゃいませ。プレゼントでしょうか。
    ええ、そうなんです。

    うそばっかり。


    出来る限り店舗も時期も時間帯もずらして短時間の滞在で指名買いしているが、あの華やかな空間の住民たちにはどう思われているのだろうか。彼女に貢ぐ男、とか、キャバクラの痛い常連、とか。まさかこんな厳つい見た目の男が自分用のコスメを買っているだなんて思うまい。
    シャツを脱いだままだったから少し寒い。暖房を入れるのも億劫だけれど。
    下地をちょん、ちょん、と顔に乗せ体温に馴染ませながら伸ばしていく。目の下にこびりついた隈をオレンジのコンシーラーで覆って、指先に残ったぶんで髭の剃り跡にも叩き込んだ。
    ファンデーションは地肌よりほんの少し暗い色。カバー力自慢のスティックは荒んだ肌も覆い隠してくれる。せめてスキンケアだけはと思っていたはずなのに、空虚な日々に忙殺される間にすっかり年齢相応の男の肌になってしまった。
    アイブロウポマードで自眉をなぞったら明るいコンシーラーを別のブラシに取ってラインを整えて。
    そのまま同じコンシーラーで目の下、眉間から額、それと顎先に偽りの光を当てる。
    光の傍らには常に影がある。田舎より繁華街に呪霊が多いのも同じことだと高専の誰かが言っていたな、などと思い返しながら暗い色のファンデーションで影を添える。こけた頬が目立って死人のようだ。
    まあ、あの頃得た知識などもう自分には不要なものだろう。今の自分には何も無い。金を積み上げるだけの人生に意味など無い。
    パウダーをはたき油分で積み上げた地層に蓋をする。零れた粉が紺のスラックスに落ちた。
    ブラシで濃いブラウンのシャドウを瞼の窪みに埋め込むように乗せ、再び取り出したコンシーラーでその下のアイホールを白く塗る。目尻はグラデーションになるようにブラウンを。パレットの端の締め色が割れていた。黒目の上にだけ細かなラメを乗せて立体感と艷を追加。
    目尻が上がるように付けまつ毛をつけて、マスカラで自前のものと馴染ませる。まつ毛を増やせばこんなに派手なアイメイクも馴染んでいるような気がしてくるのだから不思議なものだ。
    アイラインは目尻から眉の終わりに向かって長く伸ばし、瞼の頂点との三角形を作りその中を黒く埋める。
    仕上げにかさついた唇を真っ赤なリップで彩れば。


    鏡に映るのは、
    ああ、なんて、

    「きもちわるい」
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    エイリアン(小)

    DONE七五(過去作品)
    第0回お題「料理」
    ...労働はクソだ。
    体全体を包み込む倦怠感、目の奥がジンとして熱い上、吹き付ける風は冷たく、指先から体温が奪われていくのを感じる。ひどく眠い。
    少し早足気味に入ったエレベーターホール、ボタンを押して、やってきたエレベーターに乗り込んだ。
    ゆっくりと上がっていくエレベーターの中でこめかみをほぐすように押す。
    別に呪霊に手こずったわけではない。全ての任務において呪霊の級は二級が殆どであり、幾つかの任務では一級討伐のものもあったものの、そのどれもが一級でも下、どちらかと言えば二級に近い程度の呪霊だった。
    問題なのは、その量。
    呪術高専を規として2、3時間の移動を必要とする任務が多数あり、全てこなすのに丸四日。
    柔らかいとは言えない車内のシートで短時間睡眠のみを取り続け、食事は冷たいコンビニ食ばかり。
    決して車のシートやコンビニ食を卑下しているわけではないのだが、やはり体は柔らかい布団や温かい食事を求めてしまう。
    時刻は0時、深夜帯に差し掛かるこの時刻に外を出歩くような住民なんてこのマンションには少ない。
    静まり返った廊下に自分の足音のみが響く。
    部屋の前、鍵を取り出して差し込み、回した。
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